数学には「超函数」と呼ばれる関数があり、そのなかの一つに物理学や工学を始めとする様々な分野で使われる「デルタ関数」とよばれる非常に重要な関数がある。20世紀に量子力学を作り上げた天才物理学者ディラックがこの関数を最初に用いたことから、「ディラックのデルタ函数」とも呼ばれる。
超函数の名称から想像できるように、デルタ関数は普通の関数ととても違う性質を持つ関数である。「デルタ関数は関数に似ているが関数でない。」と言う人もいるが、もちろん間違いで、非常に奇妙な性質をもつけれどもデルタ関数はやはり関数である。この段階でその性質を詳しく説明することはできないが、物理の学習で現れることがあるかもしれないので、最低限必要な定義と基本的な性質をあげておく。
デルタ関数は一つの変数を持つ関数であり、変数のデルタ関数はデルタを表すギリシャ文字を使ってと書かれる。の特徴はが
であるときにだけ値を持ち、それ以外の
に対してはになることと、この特徴は関数が単独では現れず、
に
の関数がかけられて、で積分されたときにのみ意味を持つことである。すなわち、
<10-1> (10.1.1)
である。あるいは、その変数がになる位置を だけずらしたデルタ関数を使ってこれを
<10-2> (10.1.2)
と書いても同じことである。
このような性質を持つデルタ関数をなじみのある関数を用いて表すことができる。ここでは典型的な三つの表現を与えておく。いずれも小さな正の量
をとする極限で定義されている。そして、いずれも右辺にある極限を取る前の関数はが
の近辺でとても大きな値を持ち、
がから離れると急速に値が小さくなる特徴がある。
<10-3> (10.1.3)
<10-4> (10.1.4)
<10-5> (10.1.5)
このいずれに対しても、(10.1.2)式の特別な場合として
<10-6> (10.1.6)
であることを証明することができる。
これ以上は知識として持っていてもあまり得ることはないので、実際にデルタ関数を扱うときに学んで欲しい。