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第四章 不定積分と定積分

  微分方程式を解いて解を求めるときに、微分係数を作ると特定の関数になるような関数が必要になる。「関数 F(x)の微分をすると関数 f(x)になる関数」のことを 「f(x)不定積分」と言う。不定と呼ぶのは、「xで微分すれば f(x)となる関数」F(x )には付加的定数が常に存在することである。「不定積分」に対し積分には「定積分」がある。この章の最初にその違いを明確にしておこう。「定積分」は「不定積分」が分かれば理解できるので、最初に「不定積分」の意味を与え、その後に 「定積分」の意味を説明する。


§1. 不定積分

 xの適当な関数があって、それを xで微分を実行するとその関数の微分係数が得られることは分かった。今その逆を考える。すなわち、微分係数 f(x)が与えられたとして、微分を行う前の関数が何かを考える。その関数をF(x)と書こう。すなわち 「xで微分を実行した時に微分係数 f(x)を生じる関数F (x)を探す」という意味である。つまり

<4-1> (4.1.1) dF(x)dx =f(x)

であるF(x)を探す。ところが、この問題設定は不十分である。なぜ不十分か、例をあげて説明しよう。たとえば今f(x )2xであると与えられて、 「xで微分を実行したときに 2xとなる関数F(x)は何か?」と質問され、一人が「それはx2です」と答え、別な一人がそれに0でない適当な定数C を加え、「それはx2+Cです」と答えた。定数Cは何であってもそれを xで微分をすると0 になるから、両者の微分を実行した結果はともにdx 2dx=d(x2+ C)dx=2xである。したがって、質問に対する答えは F(x)=x2 F(x)=x 2+Cのどちらも正しいことになる。
 xで微分を実行したら f(x)になる関数のことをf( x)の「不定積分」と呼ぶが、上で示したように、このままでは 2xの不定積分がx2であるのか、x2+Cであるのか一義的に定まらない。そして、この決め方は教科書によって必ずしも同じではない。そこで、この教科書では不定積分を次のように決めておく。

f(x)不定積分」は

<4-2> (4.1.2) dF(x)dx =f(x)

を満足するF(x)不定な付加定数を含まない関数部分と定義し、それを

<4-3> (4.1.3) f(x)dx

と書く。したがって、f(x)=2 xの場合の不定積分はf(x) dx=x2である。注意すべきは、(4.1.2)式を満足する関数 F(x)は一般的には f(x)dxではなく、それに任意の定数を加えたf(x)dx+ Cでなければならないことである。これは後に微分方程式を学ぶときに重要になる。

 このように、不定積分にともなう不定な付加定数(「積分定数」と呼ぶ)をf (x)に含ませずあらわに書くように定めるのは、どちらでもよいから一方を選んだのではなく、積分定数が物理では重要な意味を持っているからである。実際に次の章ではこの約束にしたがって不定積分を扱う。しかし積分定数の書き方にどちらの方法を採用したとしても、その書き方が後に学ぶ定積分に影響を与えることはない。
 以下にいくつかの関数の不定積分を「それを微分したときに積分される関数となる」を手掛かりにして求めた結果を与える。米印(*)がついた結果は第七章で学ぶ「置換積分」や「部分積分」を使って*印が付いていない結果から導くことができるので、余力があれば試みるとよい。

関数f(x)と、その不定積分 f(x)dx
<4-4> f(x) <4-5> F(x)= f(x)dx
<4-6> xn <4-7> xn+1n+1
<4-8> 1x <4-9> ln|x|
<4-10> 1xn+1  (n は自然数)   (*) <4-11> -1nx n
<4-12> ex <4-13> ex
<4-14> sinx <4-15> -cosx
<4-16> cosx <4-17> sinx
<4-18> sin2x    (*) <4-19> -14sin 2x+x2
<4-20> cos2x    (*) <4-21> 14sin2 x+x2
<4-22> 1a+ x (a は定数)   (*) <4-23> 2a+x
<4-24> 1(a+ x)3/2 (a は定数)   (*) <4-25> -2a+ x
<4-26> a2+ x2 (a は定数)   (*) <4-27> xa2 +x22
+a22ln| x+a2+x2|
<4-28> a2- x2 (a は定数)   (*) <4-29> xa2 -x22
+a22sin -1(x/a)

これらはいずれもdF(x) dx=f(x)を計算することによって結果を確かめることができる。また、後の学習ではこの表にある不定積分を適時引用する。


§2. 定積分

 前節で導入したf(x)の不定積分 F(x)は一般に xの関数であるから、それに対していろいろな量を考えることができる。その一つで、変数xaからbに変わる間に不定積分F(x)がどれだけ変化するかを与える量 [F(b)-F( a)]f(x) の「定積分」といい、変数が変化する区間を不定積分の積分記号に明示して、

<4-30> (4.2.1) F(b)-F( a)baf(x)dx

と書く。このときab の大小は問わない。すなわちa>bであってもよいし、 a<bであってもよい。もちろん a=bの場合もある。このときは当然 aaf(x )dx=bbf(x)dx =0である。
 (4.2.1)式の定義から

<4-31> (4.2.2) baf( x)dx=-abf(x )dx

であることは明らかであろう。以前、不定積分を導入した時、「不定積分に不定数を含ませるか含ませないかは定積分に影響しない」と述べたが、定積分が不定積分ので与えられることからそれが理解できるであろう。