導関数が満足する方程式から、その導関数を与える元の関数を求めることができる。導関数が満足する方程式のことを「微分方程式」といい、それから導関数を与える元の関数を求めることを「微分方程式を解く」という。関数が満足する方程式を解いて未知の関数を求めるという意味では、これまで知っている「方程式を解く」ことと基本的には同じだが、微分方程式を解くことには通常の方程式を解くことと少し違うところもある。
すぐに分かる違いの一つは、微分方程式の解には方程式だけでは定まらない数(不定数)が現れることである。つまり、その定数がなんであっても求めた関数が与えられた微分方程式を満足するために、その定数を決めることができないのである。この不定数の数は、微分方程式が一階の導関数を含む場合に個、二階の導関数を含む場合に
個と、含まれる導関数の微分の階数が増えるにしたがって増える。不定数を決めるためには不定数の数だけの条件を与えないといけない。微分方程式を解くことが「数学の問題」ならば、この不定数を定めるところに「物理学」が密接に関係する。
微分方程式の型は三つの要素で決まる:
【微分方程式の型を決める三つの要素】
時刻における放射性元素の数をとするとき、は方程式
<5-1> (5.1.1)
を満足する。ここでは放射性元素の種類によって決まる「崩壊定数」とよばれる、知られた定数である。この方程式の未知関数は崩壊を始めてから時間後に存在する放射性元素の量で、方程式に含まれる微分係数はのに関する一階常微分係数だけであり、方程式はを線型の形で含んでいるので、この型の微分方程式を「一階線型常微分方程式」という。
RLC回路とよばれる電気回路に流れる電流を表す方程式である。電気抵抗がの抵抗、自己誘導係数(自己インダクタンス)がのコイル、及び電気容量が のコンデンサーを組み合わせた電気回路に電流を流すとき、電流が流れ始めてから時間後に回路に流れる電流は
<5-2> (5.1.2)
によって与えられる。この方程式は未知変数の 回常微分係数、階常微分係数および階常微分係数を線型の形で含むので「二階線型常微分方程式」である。
「量子力学」で「波動関数」と呼ばれる関数は
<5-3> (5.1.3)
の形の方程式を満足する。ここでは知られている定数である。 の 階常微分係数と二階常微分係数が線型で含まれるこの方程式は「二階線型形常微分方程式」である。
物理学の様々な分野で「調和関数」とよばれる特殊な関数が現れる。調和関数は方程式
<5-4> (5.1.4)
を満足する。の二階偏微分係数を線型の形で含むこの型の微分方程式は「二階線型偏微分方程式」である。
物質が直線(軸)上に拡散する(拡がっていく)様子を記述する関数 が満足する方程式
<5-5> (5.1.5)
は「拡散方程式」とよばれる。は拡散係数とよばれる やの関数であるが、それが定数である場合があり、そのときにが満足するのが(5.1.5)式である。この方程式は「二階線型偏微分方程式」である。物質が平面や空間に拡散する場合は、右辺にやに関する二階偏微分係数が加わる。
しばらくは変数が一個の一階または二階線型常微分方程式に話を限ろう。求める関数をとすると、それに対する二階線型常微分方程式は一般に
<5-6>
という形をしている。もちろん一階線型常微分方程式の場合は左辺第一項目にある二階微分係数を含む項がない。
線型常微分方程式は次の三つの手順にしたがって解かれる。
【一階の微分方程式(変数分離型)】
<5-7> (5.1.6)
の型の微分方程式を一階の「変数分離型」常微分方程式という。
変数分離型の微分方程式は他の型を持つ微分方程式を解くときの基本となるので、この解法を詳しく説明する。まず(5.1.6)式の両辺を
で割り算をすると、(5.1.6)式は
<5-8> (5.1.7)
と書き換えられる[1]。最終的にはの関数として求められ、この式の両辺はの関数であるから、それをで(不定)積分することができる。すなわち
<5-9> (5.1.8)
である。右辺にあるは不定積分の記法に関する約束によって、左辺と右辺に現れる定数をまとめたものである。
(5.1.8)式左辺にあるは「§2.2導関数」の(2.2.2)式で与えたように、を微小な量だけ変えたときに生じる
の変化である全微分
を与えるので、よって(5.1.8)式は
<5-10> (5.1.9)
と書き換えられる。もしと
が具体的に与えられれば、第四章で学ぶやり方でこの両辺の不定積分を実行し、と
の具体的な関数形を得ることができる。したがって(5.1.9)式は左辺の
を含む式と、右辺のを含む式の等式を与えるので、それをについて解くことができ、(5.1.6)式を満足するがの関数として求まることになる。この過程でを解くことは必ずしも簡単には実行できない。後にその例をいくつか与えることにする。
様々なに対する不定積分
が計算され、公式として与えられている。この教科書ではそれらのいくつかを第章の表に与えてある。その他にも例題の中でいくつかの不定積分を実際に計算する。以下は微分方程式の簡単な問題の解法と、それに関係する不定積分の例である。
【問】 を満足する を求めよ。
【解】 与えられた式の右辺は変数分離型である。(5.1.6)式と照らし合わせると、 であるから、(5.1.7)式は
<5-11>
となる。ここに現れる形の不定積分は第4章の表で与える
<5-12> (5.1.10)
を使うことができる。ここでは任意の定数である。また変数が の場合はを と読み換える。これを先の式の両辺に代入すると
<5-13>
を得る。右辺の第一項目を左辺に移し対数の引き算を変形すれば
<5-14>
である。自然対数の定義から
<5-15>
である。はネイピアの定数で、も定数であるから、右辺は定数である。よって左辺の絶対値のなかが正であろうが負であろうが、それは定数でなければならない。その定数を同じ文字を使ってあらためてと書けば、
<5-16>
である。上で不定数を適当に書き換えたが、実際に解を使うときには特定の値に定められ最終的には残らないので、どのような文字を使っておいても影響はないのである。
これをについて解き、求める解
<5-17>
を得る。念のため、このを問題の式 に代入すると
<5-18>
となって、このが解であることが確かめられる。
【一階の微分方程式(定数変化法)】
【問】 次の微分方程式を解きを求めよ。
<5-19> (5.1.11)
ただしと は の適当な関数である。
【解】 この型の方程式を解くには、最初に右辺のをとした微分方程式(「同次方程式」)を解き、その解を手掛かりとする方法を使う。その方法が「定数変化法」である。したがってまず解くべき方程式は
<5-20> (5.1.12)
である。これは数分離型の微分方程式であり、(5.1.6)式で、 とした微分方程式である。その解を与える(5.1.9)式にこの置き換えをおこなうと、(5.1.12)式の解は
<5-21>
によって与えられる。左辺は(5.1.8)式で与えた積分公式によりであるから、この式はとなるので、前問で行ったと同じように途中で現れる定数もまた定数であるから、それをあらためてと書いて
<5-22> (5.1.13)
を得る。
しかし、このは同次方程式の解であって、与えられた微分方程式((5.1.11)式)の解ではない。この(5.1.13)式をもとにした「定数変化法」を使って(5.1.11)式の解を求める。
「定数変化法」は、(5.1.13)式の定数を
の関数であると考え、(5.1.11)式の解を
<5-23> (5.1.14)
と仮定してを定める方法である。(5.1.14)式のを(5.1.11)式に代入し少し計算すると、もし が方程式
<5-24> (5.1.15)
を満足すればが(5.1.11)式の解になることがわかる。指数関数の指数にある積分の符号が(5.1.14)式から反転していることに注意せよ。
(5.1.15)式は変数分離型方程式であるから、(5.1.6)式から(5.1.8)式までに与えた方法でを求めることができる。上の方程式の右辺はの関数であるからそれをと書けば、変数分離型方程式の一般形である(5.1.6)式中の
、
、
がそれぞれ、
、
、
である。よって(5.1.15)式の解は(5.1.6)式の解(5.1.9)式にこの置き換えを行って
<5-25> (5.1.16)
であることがわかる。ここで右辺のは とは異なり を含まない本当の定数である。これを(5.1.14)式に代入して、(5.1.11)式の最終的な解
<5-26> (5.1.17)
を得る。これ以上はと
が具体的に与えられなければ先に進めない。
「定数変化法」を使って微分方程式を解き、その解を使って解析を行う物理問題の具体例として、電気抵抗とコイルだけからなる「RL回路」とよばれる電気回路を流れる電流に対する方程式を考える(これにコンデンサーを組み込んだ電気回路が(5.1.2)式で回路を流れる電流が与えられる「RLC回路」であるが、今は方程式の形だけを問題とし、それらのこまかな内容は問わないことにする)。
【問】 「RL回路」のスイッチを入れて電流を流し始めた時刻をとするとき、その後の時刻において回路を流れる電流 を与える微分方程式は
<5-27> (5.1.18)
である。はコイルのインダクタンスと呼ばれる定数量、
は回路にある抵抗(定数)である。は回路の電圧であるが、一般には時間によって変化する。以下の手続きにしたがってこの方程式を解くと、
はスイッチを入れてからしばらく振動するが、十分時間がたつと一定の値になる。この電気回路に流れる電流について次の問に答えよ。
【一階の微分方程式(同次形方程式)】
次の形の微分方程式は「同次形微分方程式」と呼ばれ、以下で説明する方法でその解を求めることができる。
<5-33> (5.1.19)
ここで右辺は、関数と変数がという組み合わせで含まれるという意味である(もちろん最も簡単な組み合わせは
である)。
解かれたはの関数であるから、結局も
の関数なので、それをと置く。すなわち
<5-34>
とする。そうすると
<5-35>
であるから、(5.1.19)式は
<5-36>
と書き換えられる。式を少し整理すると、これは
<5-37>
となり、との変数分離型微分方程式に帰着する。したがって、これまで使ってきた方法でを求めることが出来る。そのようにして得られたから
によって
が求められる。この方針に沿って以下の微分方程式を実際に解いてみよう。
【問】 微分方程式
<5-38>
を解け。
【解】 この右辺は
<5-39>
と書き換えられるから、与えられた方程式はと の同次形微分方程式である。そこでとおくと、(5.1.19)式はであるから、先の式は
<5-40>
となる。これは変数分離型微分方程式であるから、これまでの方法を使って解くと、
<5-41>
を得ることができる。ここでは積分定数である。 からは
<5-42>
である。
【一階の微分方程式(完全形微分方程式)】
「完全形微分方程式」は方程式が二つの条件を満たす場合の微分方程式である。第一は微分方程式が
<5-43> (5.1.20)
の形を持つことである。これに加え、右辺のとがもし
<5-44> (5.1.21)
を満たしていれば、(5.1.20)式の微分方程式は「完全形微分方程式」であり簡単に解くことが出来る。名前のいわれは微分方程式の中にある微分係数を元の形に戻して考えるとわかる。それを理解するために§5で与えた全微分に関連した定理をもう一度思い出しておこう。すなわち、
【定理】 との関数および があり、もしそれらを とで微分することができ、さらにとが
<5-45>
を満足すれば、
<5-46>
なる関数が存在し、その全微分(2.5.10)式を
<5-47>
と書くことができる。
この定理を思い出しておいて、(5.1.20)式の微分係数の中にあると を微小量であるとして、(5.1.20)式を
<5-48> (5.1.22)
と書き換える。いまと が(5.1.21)式の条件、つまり定理の条件を満たすというのであるから、定理 より全微分が
<5-49> (5.1.23)
である関数の存在することがわかる。は全微分であるから定理 よりとはと
<5-50> (5.1.24)
のように関係しているので、与えられたとを使ってこの式からが求められる。一方、(5.1.22)式からであるが、これはと を変えても関数が変わらないこと、すなわちが一定であることを意味している。よってである。 の関数形は(5.1.24)式を解いて求めてられているので、それをとおけば、そこから をの関数として求めることができる。それが(5.1.20)式の解である。ピンと来ないと思うので、実際に次の問題を解いてみよう。
【例題】微分方程式
<5-51>
を解け。
【解】これを(5.1.20)式の形と比べると、、
である。このとき
<5-52>
であるので与えられた方程式は完全形微分方程式であり、
<5-53>
なる関数が存在する。上の式はに対する偏微分方程式であるから、それを解くために、もう一度「偏微分係数」の意味を思い出す。偏微分係数は変化させる変数以外の変数を固定し、定数であると考えたときの微分係数であるから、上の二つの式はそれぞれ一方の変数を定数とした一階の常微分方程式と同じである。第一の式の意味は、「を定数としてで微分をするととなる関数がである」というのであるから、は
<5-54>
である。これはの第一項目であるの不定積分がであり、第二項目と第三項目にあるの不定積分が であると言っても同じことである。上式右辺にあるはと定数だけを含み、したがってで偏微分すればになる関数である。このを決めるため、上で求めたを今度は を定数として で偏微分すると、
<5-55>
であるが、これがに等しいというのであるから、 は
<5-56>
を満足しなければならない。これはに対する簡単な変数分離型の微分方程式であり、これまで学んだ方法を使ってその解を求めると
<5-57>
を得る。ここではにもにもよらない定数である。したがって、 は
<5-58>
となる。与えられた微分方程式を満足すると の関係はこのを定数とすると得られるので、その定数を と書けば
<5-59>
を得る。これを変形してをで表す式を与えてもよいが、このままでこれが与えられた微分方程式を満足する解であるとしてもよい。以上が「完全形微分方程式」の基本的な解き方である。
【一階の微分方程式(非線型微分方程式)】
線型微分方程式が容易に解ける例を示してきた。一方で、気象現象のように
非線型微分方程式によって記述される重要な自然現象も少なくない。残念ながら「非線型微分方程式」を解く一般的な方法はない。しかしながら前世紀の電子計算機の発展によって、数値的にではあるが非線型微分方程式を短時間で非常に高い精度で解くことができるようになり、近年は非線型微分方程式で表される自然現象の研究がとてもさかんになった。
ここでは非線型微分方程式を解くことはしないが、参考のために重要な非線型微分方程式の形を二つ(「ベルヌーイの微分方程式」と「リッカチの微分方程式」)を紹介しておく。
<5-60> (5.1.25)
という形を持つ微分方程式を「ベルヌーイの微分方程式」という。ここで左辺のと右辺のはの任意関数である。「微分方程式の型を決める三つの要素」の(方程式の線型・非線型性)で、微分方程式の一つの解に任意定数をかけた関数がやはり同じ微分方程式を満足していれば、その方程式は「線型微分方程式」であると述べた。そこで、(5.1.25)式を満足する解をとし、それに定数をかけた
がやはり(5.1.25)式を満足するかどうかを調べる。もしが(5.1.25)式を満足すれば、(5.1.25)式は線型微分方程式であることになる。それを実行すると、もし
がまたは
であれば(5.1.25)式は線型微分方程式であるが、今は
であるため、方程式は非線型微分方程式であることがわかる。しかしながら、数学者のベルヌーイはこの型の方程式に対して解が見つけられることを発見した。それでこの方程式を彼の名を冠して呼ぶのである。
<5-61> (5.1.26)
を「リッカチの微分方程式」という。、 、 は の任意関数である。項目ののついた項と項目のを含まない項が方程式の線型性を破っている。ところがこれらの関数がある関係を満足する場合にリッカチの微分方程式はベルヌーイの微分方程式に帰着し、したがって解くことができる。
【ここで与えた方法で解くことができる、物理で重要な一階線型微分方程式の実例】
物理学と化学で扱う自然現象を記述する微分方程式には、これまで学んだ方法を使って解くことができる重要な一階の線型微分方程式が多い。ここではこれまで学んだ解法を使う練習をかねて、特に重要な二つの方程式を実際に解くことにする。一つは化学反応で現れる「反応により生成される物質の濃度を与える方程式」であり、一つは「放射性原子核の崩壊確率を決める方程式」である。
反応が時刻で始まったとして、そのときの と の濃度を と、それから時間 がたった後にとが反応してできたの濃度をとする。で は存在しなかったので、 である。 はその原料になる と が多く与えられれば多量かつ速く生成されるであろうから、生成の速さ(生成物質が増加する割合、すなわち反応速度)はその時点で存在するとの濃度に比例すると考えられる。時刻 ですでに濃度のが生成されており、その生成のためにとは づつ使われている。(注意:一つの 分子と一つの 分子から二つの 分子ができるので、 個のを作るにはづつのとが使われたことになる。)したがって反応せずに残っているの濃度は、そしての濃度はである。
<5-62>
である。この方程式は変数分離型の微分方程式であるから、積分定数をとすると、解の一般形である(5.1.8)式から
<5-63>
となる。しかるに左辺で積分される式は
<5-64>
と書き換えられ、また(1)式右辺でであるから、(1)式は
<5-65>
となる。左辺の不定積分は、たとえば
<5-66>
であるから(2)式から
<5-67>
を得る。途中は省略するが、を使って定数のを求めてから注意深く を求めると
<5-68>
を得る。反応が始まってすぐの時間(が よりわずかに大きいとき)の濃度は、のが小さい時のマクローリン級数展開の近似式
<5-69>
をに利用して(3)式内のを置き換えると、のように、時間とともに直線的に増加することがわかる。一方、式右辺にある
の指数は、もしならば負になるので、時間が経過してが十分大きくなると指数関数は非常に小さくなり無視できるようになる。その結果式右辺のの項はとなる。したがって濃度は時間がたつにつれ
に近づく。一方もしであればの指数は正なので、時間が経過して
が十分大きくなると分子と分母の指数関数は非常に大きくなり、今度はそれを含まない項が無視できるようになる。その結果式右辺の
の項は
となる。したがって
濃度
はにしだいに近づくことになる。
結局、反応が始まってしばらく時間が経過すると、は最初にあったとのうち少量の分子の濃度
(の倍)に達して化学反応が止まる。
原子炉の中で、あるいは、自然の環境下で原子核が放射線を放出して他の原子核に変わることを「原子核の崩壊」という。原子核の崩壊の様子も一階の常微分方程式で表される。
いま原子炉で原子核反応が起こり放射性原子核が生成された。
は放射性であるから時間の経過とともに崩壊し、他の原子核
に変わる。崩壊するの数はその時に存在するが多いほど多いであろうから、に変わるの数はその時点で存在するの個数に比例すると考え、その比例定数をとする。
が崩壊して生成されたも放射性原子核であるとすれば、それもまた時間が経過すると崩壊し、別な原子核
に変わる。に変わるの
数もその時点で存在するの個数に比例すると考え、その比例定数を
とする。
は放射性ではなく、もはやそれ以上は崩壊しないとする。まとめると、
は時間とともに
<5-70>
のように崩壊し、最終的にが生成される。たとえば、時刻 に存在するの個数をとすると、それから経過した後のの個数はであり、間での個数の変化(減少)は である。この変化が
<5-71>
が成り立つ。この考え方を使って以下の問に答えることにする。
したがって時刻における各原子核の個数は
<5-75>
となる。
微分の原形<5-76>、<5-77>、
<5-78>に立ち帰って、が十分短いと考え、それぞれを微分形、、
で置き換えると、上の、
、式を微分形
<5-79>
に書き換えることができる。
まず式から処理する。式は変数分離型の一階微分方程式で、(5.1.12)式で、、とした式と一致するから、(5.1.12)式の解である(5.1.13)式に上の置き換えを行うと
式の解がただちにわかる。積分定数を
とすると、
式の解は
<5-80>
である。の時に は個存在したというのであるから、でなければならない。よっては
<5-81>
となる。これを式に代入し、その結果を を含む項と含まない項に分けると、式は
<5-82>
となる。この式は「定数変化法」を用いて解くことができる。そのために、まず右辺をと置いた同次方程式
<5-83>
の解を求める。これは式と同じ形であるから、その解は
<5-84>
である。ここで積分定数をとした。そこで 定数をで置き換えて、式の解が
<5-85>
であると仮定する。そうすると
<5-86>
であるから、これと式を式に代入すると、が満足すべき方程式
<5-87>
が得られる。のときに であったという条件を式に使うと、 であるから、これを条件としてこの微分方程式を解いて
<5-88>
を得る。これを式に代入すると、知りたかった が
<5-89>
と得られる。
最後に、上のを
式に使ってを求める。が満足する方程式は
<5-90>
となり、簡単に解くことができる。解くときに必要になる不定積分は
<5-91>
であるから、積分定数をとすれば は
<5-92>
である。で であったので、その条件からを決めると となるので、これを使って上の式を整理すると最終的に
<5-93>
を得る。が
でのから次第に増加し、十分時間がたつと(数学的にはで)になり、原子核
が全て崩壊して最後には
だけとなる様子は各自が確認するとよい。
【の解】 原子核が最初にあった数の半分に減る時間(半減期)は式から求められる。その半減期をとすれば、式のをで置き換え、とすれば、
<5-94>
であるから、第二式と第三式の対数を取ってそれを等しくおけば、が
<5-95>
と得られる。
上の結果はたとえば次のように使われる。年
月日の東日本大震災のときに発生した福島原子力発電所の事故で大量の放射性原子核が原子炉外に漏れた。そのなかで最も危険な放射性原子核である
は、もしそれが今
個あるとすれば年間にそのうちの個が崩壊し、比較的危険性の少ない物質に変化することが実験室での研究によって知られている。それを式で表すと、の崩壊確率はということになる。福島原子力発電所から飛散したが現在ある量の半分まで減るのは今から
後である。したがって、福島原子力発電所の事故は過去のものと思い早く忘れたいのであろうが、科学的に考えればその状態は収束したとは決して言えないのである。
【二階の微分方程式】
ここまでは一階の微分方程式を扱って来た。ここからは方程式のなかに階微分係数、階微分係数、階微分係数を含む二階の微分方程式を扱う。この節の初めに紹介したように、物理学には重要な二階の微分方程式がとても多くある(たとえば(5.1.2)式、(5.1.3)式、(5.1.4)式、(5.1.5)式)。したがって解を求めることが容易であるかどうかはべつにして、二階の微分方程式の特徴を知っておくことは非常に重要である。
に対する次の形の二階微分方程式を考える。
<5-96> (5.1.27)
ここで、
、はの適当な関数である。この方程式の特徴は、もし右辺がであれば方程式が線型方程式になることである。理解するのが少し難しいかもしれないが、「物理学」を学ぶ過程でこの形を持つ二階の微分方程式がとても多く出てくるので、この形を持つ微分方程式の解き方を簡単に説明しよう。実際にこの形の方程式に出合った時に、この教科書を取り出してもう一度説明をたどると良い。
(5.1.27)式で求めようとするを含まない右辺を
と置いた方程式
<5-97> (5.1.28)
を(5.1.27)式の「同次方程式」と言った。この解が(5.1.27)式の解の土台となるので、これを解くことから始める。
最初に微分演算の線型性を使って同次方程式を
<5-98> (5.1.29)
と書く。もしこれが理解できなければ、以下で元の(5.1.28)式をそのまま使って同じ議論をしてもよい。しかし、この書き方はとても有用なので、これに沿って説明をおこなうことにする。いま(5.1.28)式を満足する二つの解とがあったとする。すなわち、(5.1.29)式の書き方を使うと、
<5-99> (5.1.30)
であったとする。このときと を二つの適当な定数とすると、
<5-100> (5.1.31)
であるから、もまた(5.1.28)式の解であることがわかる。このように「いくつかの解に適当な定数をかけて足すこと」を「解の重ね合わせ」という。そして「重ね合わせがまた解になること」は(5.1.28)式が線型方程式であることの本質的な特徴である。すなわち、
・ 線型微分方程式を満足する解がいくつかあれば、それらを重ね合わせたものも解である。
いくつかの解を重ね合わせて別な解を作るときに、重ね合わせる解に対して要求される重要な性質がある。それは「(一次または線型)独立性」である。かなり抽象的ではあるが重要な概念なので、変数や関数が「独立である」ことの一般的な意味をここで説明しておく。
【一次(線型)独立性】
いくつかの変数があるときに、そのなかの一つ(とする)を他の変数を使って表すことができる場合と、出来ない場合がある。もしどのようにしても他の変数を使って
を表すことが出来なければ
「は一次(線型)独立である」という。もし
他の変数を使ってを表すことが出来たとすると「は一次(線型)独立でない」あるいは「
は他の変数に一次(線型)従属している」という。特に
を他の変数を定数倍した和(または差)によって表すことができない場合は
は「一次(線型)独立」であるといい、できた場合は
は「一次(線型)従属」であるという。変数が関数であっても同じことがいえる。すなわち複数の関数があるとき、他の関数を使ってある関数
を表すことができなければ、は一次(線型)独立である。
数学の言葉で一次(線型)従属性を表すこともできる。厳密さを求めるあまり数学の表現は常に分かりにくいので、下の記述から上に述べたことが読みとれなくても気にすることはない。
【と
の独立性】
適当な定数をおよび
とするとき、変数(または関数)
とに対する関係式
<5-101> (5.1.32)
が、定数が以外に成り立たなければと は一次(線型)独立である。 もし以外にこの式を満たす定数があればとは一次(線型)従属である。簡単に言ってしまえば「変数(または関数)のどのような値に対しても、一方を何倍かして他方になれば二つの変数は互いに従属しており、ならなければ二つの変数は独立である。
もし将来「量子力学」を学ぶようなことがあれば、関数に対する「独立性」はとても重要になるので、変数や関数の独立性を簡単に判定することができる「ロンスキー行列式」の方法を与えておく。一般的な場合は複雑になるので、二階微分方程式の解の独立性を判定するときに使われる二つの関数の場合を想定する。行列は次章で学ぶが、ここに現れる行列は「行 列」なので、高校で学んだ知識を使って十分理解することができる。
【ロンスキーの行列式と関数の一次(線型)独立性】
を変数に持つつの関数をと とし、それらの微分係数をととする。これらから作られる行 列の行列式
<5-102> (5.1.33)
を「ロンスキーの行列式」という。このとき、との独立性に対して次の定理が成り立つ。
<5-103> (5.1.34)
この証明は行わない。
(5.1.27)式の二階線型微分方程式にもどる。左辺のとが定数である方程式を「定係数の二階線型微分方程式」という。「定係数の二階線型微分方程式」は物理で多くの重要な場面に現れるので、ここからは「定係数の二階線型微分方程式」を考える。と が定数であるから、それを (定数)、および (定数)と書く。そうすると、(5.1.27)式に対応する「定係数の二階線型微分方程式」は
<5-104> (5.1.35)
で与えられる。最初にこの同次方程式
<5-105> (5.1.36)
を解く。これには標準的なやり方がある。同時に、そのやり方から(5.1.36)式の二階線型微分方程式が二つの一次(線型)独立な解を持つことがわかるが、今は独立解の個数の問題には言及せずに、「(5.1.36)式の二階線型微分方程式には二つの一次(線型)独立な解を与えなければならない」ことを証明なしに要求しておくことにする。
同次微分方程式を解く標準的なやり方は、定数を持つ指数関数
を(5.1.36)式に代入するのである。思いつきのようであるが、後で説明するように、これには方程式の線型性を背景とするしっかりとした理由がある。を代入すると、、
であり、かつであるから、を代入して得られた式の両辺をで割り算すると、
についての方程式
<5-106> (5.1.37)
が得られる。これを(5.1.36)式の「特性方程式」という。
これと同じ特性方程式を簡単に得る方法がある。以前に少しだけ説明した微分演算子を思い出し、それを使って(5.1.36)式を
<5-107>
のように表す。そしてをあたかも普通の数のように考えて、それを と書くと、上式は
<5-108>
となる。として
でない解を求めているので、この両辺を
で割ると先の特性方程式が出てくる。
これが微分演算の線型性に基づいた本当の考え方である。を代入したのは、それをで微分すると演算の回数に応じて定数
が現れることが微分演算の線型性に由来するので、それを利用して特性方程式を導いたのである。同じ特性方程式が導かれるのであるから、どちらの考え方を用いてもよい。
特性方程式((5.1.37)式)はに関する二次方程式であるから、必ず二つの根を持ち(言及しないといったが、これと「二階線型微分方程式が二つの一次(線型)独立な解を持つ」こととが密接に関係する)、根の公式を使ってそれらを簡単に求めることができる。求められるは
とによって
通りの場合(根が実根、根が複素根、根が重根)の場合が考えられる。それぞれの場合に対して特性方程式((5.1.36)式)の解が以下のように与えられる。
<5-109>
である。であるからとは一次独立であることを示すことができるので[8]、これらが(5.1.36)式の独立な二つの解になる。したがって(5.1.36)式の一般的な解(「一般解」)を、 と を定数として二つの解を重ね合わせて
<5-110>
と与えることができる。このを
<5-111>
の形に書いておこう。憶えておくべき重要なことは、とが一次独立であることである。
<5-112>
である。したがって、と を二つの定数とすると、(5.1.36)式の一般解は
<5-113>
と書ける。ここでを用い、 、と定数を組み換えた。再びこのを
<5-114>
の形に書いておく。ここでも憶えておくべき重要なことは、とが一次独立であることである。
<5-115>
であるが、これと独立なもう一つの解がわからない。そこで
を探すために定数変化法を使うことにする。
定数変化法の出発点は「解に含まれる定数を変数の関数とする」ことである。
すなわちを
と同じ形の
に考え、そして
をの関数として、
<5-116>
とする。もしこれでが定数なら、それはあきらかに
の指数関数の前にある係数
の定数倍で表され、とは一次独立でなくなる。したがってやるべきことは(5.1.36)式を満足する、定数でないを持つを求めることである。
そこで、このを(5.1.36)式に代入し、そこに含まれる微分係数を計算する。であり、であるから、計算の結果
は方程式
<5-117>
を満足することが分かる。は で度微分を実行するととなるのであるから、二つの定数を と とすれば は
<5-118>
である。上で注意したように、ここではが定数でない解の部分を探しているので、だけを考えればよい。よってと独立な解は
<5-119>
となる。
これをすでに求められている解に重ね合わせれば特性方程式が重根を持つ時の同次方程式の解が与えられる。あらためて
にかかる定数を
とし、をと書きかえれば、この場合の同次方程式の解は
<5-120>
となる。この解もまた
<5-121>
の形に書いておく。
このようにA、B、Cいずれの場合にも、同次方程式((5.1.36)式)の解を一次独立な関数とを重ね合わせて
<5-122> (5.1.38)
の形で与えることができる。しかしこれはあくまでも同時方程式((5.1.36)式)の解であって、右辺が
でない与えられた方程式((5.1.35)式)の解ではない。(5.1.35)式の解を求めるためには、もう一度、(5.1.38)式を出発点にした定数変化法を使う。
そこで、(5.1.38)式にある二つの定数をの関数と考えて、もとの微分方程式である(5.1.35)式の解が
<5-123> (5.1.39)
であると仮定し、が(5.1.35)式を満足するように
と
を決める。
と
は(5.1.36)式の独立な解であり、上で具体的に与えられている。
大事なことが一つある。このように解を仮定したとき、とに勝手な一つの条件を与えてもよいことである。残念がらその証明は少し複雑であり、それをこの段階で与えることは混乱を招くだけになる。したがってここではそれを証明なしに使い、今の場合に都合のよい条件を与えることにする。その条件はとが方程式
<5-124> (5.1.40)
を満足することである。この条件を与えた理由は、(5.1.39)式を(5.1.35)式に代入して計算を行うとき、途中に(5.1.40)式の左辺と同じ式が現れ、それがになるとそれからの計算がとても簡単になるからである。実際に(5.1.39)式を(5.1.35)式に代入し、この条件を使うと
<5-125> (5.1.41)
を得る。この式と(5.1.40)式はとについての連立方程式であるから、それから とを求めることができ、
<5-126> (5.1.42)
となる。とを与える式の右辺が複雑な形をしているが、その中にある関数はすべてわかっている関数であり、どちらの微分方程式も変数分離型の微分方程式であって、とを解くこと自体はむずかしくない。そのときに現れる不定の定数を と として解を与えれば、 と は
<5-127> (5.1.43)
である。ゆえに微分方程式(5.1.35)式の解は最終的に
<5-128> (5.1.44)
である。これが任意の関数を持つ(5.1.35)式の微分方程式に対する解の一般形である。右辺にいろいろな関数が現れているので、それらを整理しておくと、
自然界に多く現れる様々な振動現象を記述する運動方程式はすべて前節で学んだ二階の線型微分方程式で与えられる。第 節でマクローリン級数展開の例に使った単振子の振動を表す方程式((5.1.5)式)も時間に関する二階の線型微分方程式であった。この節では、前節で学んだ線型微分方程式の解法の練習として、物理的考察ぬきに色々な振動を表す運動方程式を与え、その解を求めることにする。そして最後に、(5.1.35)式型の微分方程式によって表される「強制減衰振動」の方程式を解くことにする。
【単振動】
第二章「§2. テーラー級数とマクローリン級数」で単振動を表す二階線型微分方程式(2.2.6)式の解を説明なしに与えた。ここでそれを解いて、実際に解を求めることにする。(2.2.6)式では変数をとしていたが、ここではそれを
と書く。そうすると単振動の方程式を表す(2.2.6)式は
<5-129> (5.2.1)
である。式を簡単にするために実数を使って上の方程式を書き換えると
<5-130> (5.2.2)
となる。この方程式は右辺がであるから、二階線型微分方程式の同次方程式を解く方法で解を求めることができるので、前節で学んだ方法にしたがって解を求めることにする。(5.2.2)式に対する特性方程式は
<5-131> (5.2.3)
である。これを満足するの二つ根は と である。したがって(5.2.2)式の解は
<5-132> (5.2.4)
である。二つの定数と を決めるには二つの条件が必要である[7]。そこで、振動を開始するとき(で)質点は
・ ① であり、かつ、② (定数)であった
とする。(5.2.4)式から<5-133>なので、この二つの条件は(5.2.4)式の二つの係数に対して
<5-134> (5.2.5)
を与える。これからと を求めると
<5-135>
を得る。これらをあらためて(5.2.4)式に代入し、を使うと、上の二つの条件を満足する(5.2.2)式の解として
<5-136> (5.2.6)
を得る。第三章の(2.3.7)式で与えた(振幅)は のことである。
【減衰振動】
物理学で重要な振動様式に、気体や液体など粘性がある媒質のなかで媒質の抵抗を受けながら行なう「減衰振動」がある。この振動を表す方程式も同次方程式型であり、
<5-137> (5.2.7)
の形をしている。ここでと は正の定数である。この方程式の特性方程式は
<5-138> (5.2.8)
であるから、の二つの解とは
<5-139>
である。したがって、二つの定数をと とすれば、(5.2.7)式の解は
<5-140> (5.2.9)
で与えられる。この場合の特徴は、と の大きさによって平方根のなかが正にも負にもなり、それが負の場合には平方根が虚数になるのでが複素数になることである。そのためと の大きさによって、とても特徴的な運動形態が生じるが、それは物理学で学んでほしい。この場合にも二つの定数はに二つの条件を与えると決まるが、それは省略する。
【強制減衰振動】
最後に(5.1.35)式型の方程式である「強制減衰振動」を考える。「強制減衰振動」の方程式は
<5-141> (5.2.10)
によって与えられる。ここではいずれも定数である。
この型の方程式の解は以下のような面白い考え方で与えられる。いま、偶然であれ、どのようなやり方であれ、(5.2.10)式を満足する解がなんでもよいから一つ分かったとする。それをとすると、
は
<5-142>
を満足する。このとき(5.2.10)式の完全な解がであったとして、それからこの を引き算した関数 を考える。もちろん完全な解が分かっていないのだから も分からない。このに対して演算<5-143>を行う。の任意関数とに対して<5-144>であり、を作っている(しかしいずれも未知の) とはともに(2.3.10)式を満足する解であるとしているから
<5-145>
となる。すなわち、は(5.2.10)式の 同次方程式を満足することがわかる。ところが(5.2.10)式の同次方程式の解は(5.2.9)式であるとすでにわかっている。すなわち
<5-146> (5.2.11)
である。そして(5.2.10)式の完全な解であるはこの
にを加えたである。すなわち、
(5.2.10)式の解は、どういう方法でもよいからそれを満足する解 ()を一つ求め、その解に同次方程式の解である(5.2.11)式を加えると得られる。
上の「解を一つ」という意味は「(5.2.10)式を満足するならどのような解であってもよい」という意味である。ばくぜんとした言い方で不安に思うかも知れないが、その背景にはきちんとした数学的根拠があるとだけ述べておくことにする。
このように、(5.2.10)式の解は、その同次方程式の解はすでに知られており(5.2.11)式で与えられているので、(5.2.10)式を満足する一つの解(「特殊解」または「特解」という)を探すことに帰着する。ここからはその特解を求めることにする。それを標準的なやり方で行うこともできるが、複素数に関する知識を使うともっと簡単に解が求まる。複素数を扱う演習にもなるので、ここではあえてその方法を採用する。
そのために、複素数を含む等式について復習をしておく。
【複素数の等式】
いま二つの複素数をととし、の実数部分と虚数部分を
と
、の実数部分と虚数部分をととする。以上ではすべて実数である。もし等式
が成り立てば、左辺の実数部と右辺の実数部が等しく、左辺の虚数部と右辺の虚数部が等しい。すなわちなら
およびである。
いま問題にしているは物体あるいは質点の位置という意味を持つので実数であるが、これとは別に仮想的な実数を使って という複素数を作り、 についての等式
<5-147> (5.2.12)
が成り立つと仮定する。このとき
<5-148>
であるから、(5.2.12)式の実数部分は今考えている微分方程式((5.2.10)式)と一致する。したがって、もし(5.2.10)式より(5.2.12)式を扱うほうが簡単なら、それを解いてを求め、その実数部を取り出すことによってを得てもよい。このとき虚数部のも同時に得られるが、それに特別な意味はない。実際に今の場合、についての方程式((5.2.12)式)の方がについての方程式((5.2.10)式)より扱い易いので(5.2.12)式を解くことにする。
これを解くのに使うのが「代入法」とよばれる方法である。代入法は(5.2.12)式の右辺をヒントにして、その解の形を推測する。今の場合、(5.2.12)式の右辺に似せたが(5.2.12)式の解になっている可能性を考える。定数
は決めないでおいて、これを(5.2.12)式に代入し、
が(5.2.12)式を満足するように
を決めることができれば、その
を持つが解になるという論法である。<5-149>、<5-150>を使ってを代入した計算を行うと、もしが
<5-151> (5.2.13)
であればが(5.2.12)式を満足し、その解になることがわかる。(5.2.13)式右辺の分母に のあることからわかるようには複素数であるから、それを大きさと偏角(後で便利になるので“-”をつけておく)を使って と書くことが出来る。複素数の節で学んだ(2.6.5)式にしたがって、(5.2.13)式右辺に含まれる実定数 を使っての大きさ と偏角を表すと、それらは
<5-152> (5.2.14)
で与えられる。このときは
<5-153> (5.2.15)
である。求める特解はこの の実数部であるから、 より
<5-154> (5.2.16)
となる。
強制減衰振動を表す(5.2.10)式の解は、すでに知っている減衰振動を表す同次方程式の解((5.2.9)式)と上で求めた特殊解の和であるから、よって(5.2.10)式の解は
<5-155> (5.2.17)
となる。ここでと は(5.2.14)式で与えられる。
[1] もしがなら、(5.1.6)式の両辺を で割ることはできない。その時には(5.1.6)式の右辺がとなり、したがって(5.1.6)式は、 で微分を実行した時にとなるを求める問題に帰着する。よって、そのような は任意の定数であり、方程式を解くまでもなく解が求まる。この定数は微分方程式と独立に与えられた他の条件によって定められる。