サンプル
第五章 微分方程式

§1. 常微分方程式

 導関数が満足する方程式から、その導関数を与える元の関数を求めることができる。導関数が満足する方程式のことを「微分方程式」といい、それから導関数を与える元の関数を求めることを「微分方程式を解く」という。関数が満足する方程式を解いて未知の関数を求めるという意味では、これまで知っている「方程式を解く」ことと基本的には同じだが、微分方程式を解くことには通常の方程式を解くことと少し違うところもある。
 すぐに分かる違いの一つは、微分方程式の解には方程式だけでは定まらない数(不定数)が現れることである。つまり、その定数がなんであっても求めた関数が与えられた微分方程式を満足するために、その定数を決めることができないのである。この不定数の数は、微分方程式が一階の導関数を含む場合に1個、二階の導関数を含む場合に 2個と、含まれる導関数の微分の階数が増えるにしたがって増える。不定数を決めるためには不定数の数だけの条件を与えないといけない。微分方程式を解くことが「数学の問題」ならば、この不定数を定めるところに「物理学」が密接に関係する。
 微分方程式の型は三つの要素で決まる:

【微分方程式の型を決める三つの要素】

  1. (変数の数): 変数が1個の場合には、方程式はその変数に関する常微分係数を含むだけである。このような微分方程式を「常微分方程式」と呼ぶ。これに対し、複数の変数を持つ関数の場合には、異なる変数による偏微分係数が現れる。そのような方程式を「偏微分方程式」と呼ぶ。

  2. (微分の階数): 含まれる導関数の微分階数によって、微分方程式に現れる不定数の数が決まる。したがって実際に現れる不定数の総数は、微分方程式に含まれる変数ごとにその階数で生じる個数を加えた数になる。これは、不定数を定める必要が生じたときに、我々が与えなければいけない物理条件の数でもある。

  3. (方程式の線型・非線型性): 求めようとする関数を含まない項を0と置いた微分方程式を「同次方程式」というが、同次方程式の解に任意の定数をかけた関数がやはり同次方程式の解である微分方程式を「線型微分方程式」という。そして、線型微分方程式以外の全ての微分方程式を「非線型微分方程式」と呼ぶ。自然現象を表す微分方程式の多くが「線型微分方程式」であるのは自然のとても不思議なことの一つである。
 以下に、ここで解くことはしないが、物理学で現れる重要な線型微分方程式のいくつかをあげておこう。物理的な内容を深く考えずに、どのような形をした方程式があるのかを知っておくだけでよい。

  1. 【放射性元素の崩壊を記述する方程式(一階線型常微分方程式)】

    時刻tにおける放射性元素の数を N(t)とするとき、N(t )は方程式

    <5-1> (5.1.1) dNdt=- kN

    を満足する。ここでkは放射性元素の種類によって決まる「崩壊定数」とよばれる、知られた定数である。この方程式の未知関数は崩壊を始めてから時間t後に存在する放射性元素の量N(t)で、方程式に含まれる微分係数はNt に関する一階常微分係数だけであり、方程式はN線型の形で含んでいるので、この型の微分方程式を「一階線型常微分方程式」という。

  2. 【RLC回路(電気回路)を流れる電流を与える方程式(二階線型常微分方程式)】

    RLC回路とよばれる電気回路に流れる電流を表す方程式である。電気抵抗がRの抵抗、自己誘導係数(自己インダクタンス)がLのコイル、及び電気容量が Cのコンデンサーを組み合わせた電気回路に電流を流すとき、電流が流れ始めてから時間t後に回路に流れる電流 I(t)

    <5-2> (5.1.2) Ld2I dt2+RdIdt+IC=0

    によって与えられる。この方程式は未知変数I(t)0回常微分係数、1階常微分係数および2階常微分係数を線型の形で含むので「二階線型常微分方程式」である。

  3. 【量子力学におけるシュレディンガー方程式(二階線型常微分方程式)】

    「量子力学」で「波動関数」と呼ばれる関数ψ(x)

    <5-3> (5.1.3) αd2ψ dx2+V(x) ψ=

    の形の方程式を満足する。ここでαは知られている定数である。 ψ(x)0階常微分係数と二階常微分係数が線型で含まれるこの方程式は「二階線型形常微分方程式」である。

  4. 【「電磁気学」「天文学」「流体力学」など多くの自然科学分野に現れるラプラス方程式二階線型偏微分方程式)】

    物理学の様々な分野で「調和関数」とよばれる特殊な関数が現れる。調和関数 Φ(x,y,z)は方程式

    <5-4> (5.1.4) 2Φ x2+2 Φy2+ 2Φz2=0

    を満足する。Φの二階偏微分係数を線型の形で含むこの型の微分方程式は「二階線型偏微分方程式」である。

  5. 【拡散方程式(二階線型偏微分方程式)】

    物質が直線(x軸)上に拡散する(拡がっていく)様子を記述する関数 φ(x,t)が満足する方程式

    <5-5> (5.1.5) φ t=D2φ x2

    は「拡散方程式」とよばれる。Dは拡散係数とよばれる xtの関数であるが、それが定数である場合があり、そのときにφ(x, t)が満足するのが(5.1.5)式である。この方程式は「二階線型偏微分方程式」である。物質が平面や空間に拡散する場合は、右辺にy zに関する二階偏微分係数が加わる。


 しばらくは変数が一個(x)の一階または二階線型常微分方程式に話を限ろう。求める関数をy(x)とすると、それに対する二階線型常微分方程式は一般に

<5-6>  d2ydx2 に比例した項+dy dxに比例した項+ y に比例した項 =y を含まないx の関数Q(x)

という形をしている。もちろん一階線型常微分方程式の場合は左辺第一項目にある二階微分係数を含む項がない。
 線型常微分方程式は次の三つの手順にしたがって解かれる。

  1. 右辺のQ(x)0とした微分方程式(同次方程式)の解を求める。

  2. Q(x)を含む方程式の解 (「特殊解」という)を一つだけ求める。

  3. 方程式の完全な解は同次方程式の解に特殊解を加えたもので与えられる。
これでなぜ完全な解が得られるかはここでは説明しないので各自で考えるとよい。微分方程式の性格が少しわかるであろう。
 微分方程式には二次方程式に対する根の公式のような決まった解の形はない。といっても行き当たりばったりに解を探すわけではなく、方程式の特徴から解を探す方針が決まる。以下に代数的な方法を使って解くことができる方程式の特徴と、その解き方をいくつか示しておく。それぞれの方程式の特徴をしっかりと理解し、その型の微分方程式に出合ったら、以下で与えられる解法を基本にして解を求めるとよい。以下で解法を与える方程式の名称あるいは解法の名称は
  1.  「変数分離型」微分方程式
  2.  「定数変化法」で解ける微分方程式
  3.  「同次形」微分方程式(「同次方程式」と混同しないように注意すること)
  4.  「完全形」微分方程式
である。なお、「代数的な方法を使って」と断った理由は、どんな微分方程式であっても電子計算機を使えば非常に短時間で限りなく正確に方程式を「数値的に」解くことができるからである。
 解法を与える前に前章で学んだ「関数の不定積分」がこれから重要な役割を果たすので、それをもう一度思い出しておく。そこでは xで微分をしたときにf (x)となるxの関数、すなわち dF(x)dx= f(x)を満足する関数F( x)F( x)=f(x)dx+C と表し、右辺一項目のf(x)dx f(x)の不定積分と呼んだ。ここで Cは未定の定数である。大事なことは、不定積分 f(x)dxF(x)の関数部分であり、そこには付加的な未定の定数が含まれないことである。


【一階の微分方程式(変数分離型)】

 方程式は一階の常微分係数だけを含む微分方程式で、それが線型方程式であってもなくても、微分係数を含まない項が「変数 xを含む部分p (x)」と「関数yを含む部分 q(y)」に分離されているのが特徴である。すなわち

<5-7> (5.1.6) dydx=p( x)q(y)

の型の微分方程式を一階の「変数分離型」常微分方程式という。
 変数分離型の微分方程式は他の型を持つ微分方程式を解くときの基本となるので、この解法を詳しく説明する。まず(5.1.6)式の両辺を q(y)で割り算をすると、(5.1.6)式は

<5-8> (5.1.7) 1q(y) dydx=p(x)

と書き換えられる[1]。最終的にy xの関数として求められ、この式の両辺はxの関数であるから、それをxで(不定)積分することができる。すなわち

<5-9> (5.1.8) 1q(y) dydxdx=p(x) dx+C

である。右辺にあるCは不定積分の記法に関する約束によって、左辺と右辺に現れる定数をまとめたものである。
 (5.1.8)式左辺にあるdydx dxは「§2.2導関数」の(2.2.2)式で与えたように、 xを微小な量dxだけ変えたときに生じる y(x)の変化である全微分 dyを与えるので、よって(5.1.8)式は

<5-10> (5.1.9) 1q(y )dy=p(x)dx+C

と書き換えられる。もしp(x)q(y)が具体的に与えられれば、第四章で学ぶやり方でこの両辺の不定積分を実行し、yxの具体的な関数形を得ることができる。したがって(5.1.9)式は左辺の yを含む式と、右辺のx を含む式の等式を与えるので、それをyについて解くことができ、(5.1.6)式を満足するyx の関数として求まることになる。この過程でyを解くことは必ずしも簡単には実行できない。後にその例をいくつか与えることにする。
 様々なf(x)に対する不定積分 (f(x)dx)が計算され、公式として与えられている。この教科書ではそれらのいくつかを第4章の表に与えてある。その他にも例題の中でいくつかの不定積分を実際に計算する。以下は微分方程式の簡単な問題の解法と、それに関係する不定積分の例である。

【問】 dydx=y +1x+1を満足する y(x)を求めよ。

【解】 与えられた式の右辺は変数分離型である。(5.1.6)式と照らし合わせるとp (x)=1x+1q(y)=1y +1であるから、(5.1.7)式は

<5-11> 1y+1 dy=1x+1dx+C

となる。ここに現れる形の不定積分は第4章の表で与える

<5-12> (5.1.10) 1x+a dx=ln|x+a|

を使うことができる。ここでaは任意の定数である。また変数が yの場合はxyと読み換える。これを先の式の両辺に代入すると

<5-13> ln|y+1| =ln|x+1|+C

を得る。右辺の第一項目を左辺に移し対数の引き算を変形すれば

<5-14>  ln|y+1|-ln|x+1 |= lny+1x+ 1 =C

である。自然対数の定義から

<5-15> y+1 x+1=eC

である。eはネイピアの定数で、 Cも定数であるから、右辺は定数である。よって左辺の絶対値のなかが正であろうが負であろうが、それは定数でなければならない。その定数を同じ文字を使ってあらためてCと書けば、

<5-16> y+1x+ 1=C

である。上で不定数を適当に書き換えたが、実際に解を使うときにCは特定の値に定められ最終的には残らないので、どのような文字を使っておいても影響はないのである。
 これをyについて解き、求める解

<5-17> y=C(x+1) -1

を得る。念のため、このyを問題の式 dydx=y+1 x+1に代入すると

<5-18>  dydx=C y+1x+1 =C

となって、このyが解であることが確かめられる。


【一階の微分方程式(定数変化法)】

 下の例題に与える形の線型微分方程式は「定数変化法」と呼ばれる方法で解くことができる。

【問】 次の微分方程式を解きy(x)を求めよ。

<5-19> (5.1.11) dydx+p( x)y=q(x)

ただしp(x)q(x)xの適当な関数である。

【解】 この型の方程式を解くには、最初に右辺のq(x )0とした微分方程式(「同次方程式」)を解き、その解を手掛かりとする方法を使う。その方法が「定数変化法」である。したがってまず解くべき方程式は

<5-20> (5.1.12) dydx+p( x)y=0

である。これは数分離型の微分方程式であり、(5.1.6)式で p(x)-p(x)q(x) -yとした微分方程式である。その解を与える(5.1.9)式にこの置き換えをおこなうと、(5.1.12)式の解は

<5-21> 1ydy=- p(x)dx+C Cは積分定数)

によって与えられる。左辺は(5.1.8)式で与えた積分公式によりln|y |であるから、この式はln|y| =-p(x)dx+Cとなるので、前問で行ったと同じように途中で現れる定数eCもまた定数であるから、それをあらためてCと書いて

<5-22> (5.1.13) y=Ce- p(x)dx

を得る。
 しかし、このyは同次方程式の解であって、与えられた微分方程式((5.1.11)式)の解ではない。この(5.1.13)式をもとにした「定数変化法」を使って(5.1.11)式の解を求める。
 「定数変化法」は、(5.1.13)式の定数Cxの関数であると考え、(5.1.11)式の解を

<5-23> (5.1.14) y=C(x) e-p(x)dx

と仮定してC(x)を定める方法である。(5.1.14)式のyを(5.1.11)式に代入し少し計算すると、もし C(x)が方程式

<5-24> (5.1.15) dC(x) dx=q(x)ep( x)dx

を満足すればyが(5.1.11)式の解になることがわかる。指数関数の指数にある積分の符号が(5.1.14)式から反転していることに注意せよ。
 (5.1.15)式は変数分離型方程式であるから、(5.1.6)式から(5.1.8)式までに与えた方法で C(x)を求めることができる。上の方程式の右辺は xの関数であるからそれをX(x) (=q(x)ep(x )dx)と書けば、変数分離型方程式の一般形である(5.1.6)式中の y(x)p(x)q(y)がそれぞれ、 C(x)X(x)1である。よって(5.1.15)式の解は(5.1.6)式の解(5.1.9)式にこの置き換えを行って

<5-25> (5.1.16)  C(x)=X(x)dx+ C= q(x)ep(x )dxdx+C

であることがわかる。ここで右辺のCC(x)とは異なり xを含まない本当の定数である。これを(5.1.14)式に代入して、(5.1.11)式の最終的な解

<5-26> (5.1.17)  y=e-p(x)dx × {q(x)ep(x )dx}dx+C

を得る。これ以上はp(x)q(x)が具体的に与えられなければ先に進めない。
 「定数変化法」を使って微分方程式を解き、その解を使って解析を行う物理問題の具体例として、電気抵抗とコイルだけからなる「RL回路」とよばれる電気回路を流れる電流に対する方程式を考える(これにコンデンサーを組み込んだ電気回路が(5.1.2)式で回路を流れる電流が与えられる「RLC回路」であるが、今は方程式の形だけを問題とし、それらのこまかな内容は問わないことにする)。

【問】 「RL回路」のスイッチを入れて電流を流し始めた時刻をt= 0とするとき、その後の時刻tにおいて回路を流れる電流 I(t)を与える微分方程式は

<5-27> (5.1.18) LdI dt+RI=V(t)

である。Lはコイルのインダクタンスと呼ばれる定数量、 Rは回路にある抵抗(定数)である。 Vは回路の電圧であるが、一般には時間によって変化する。以下の手続きにしたがってこの方程式を解くと、 I(t)はスイッチを入れてからしばらく振動するが、十分時間がたつと一定の値になる。この電気回路に流れる電流について次の問に答えよ。

  1. 微分方程式を解きI(t)を求めよ。
  2. V(t)が時間によって変化しない定数 V0であるときに、回路に流れる電流 I(t)を求めよ。
  3. 2の場合で、時刻t =0では電流が流れていなかった条件(I (0)=0)から I(t)に含まれる未定数を決定し、 I(t)tの関数としてグラフに表せ。
ここでは(1)(2)は解だけを与え、(3)の問に答えることにする。
  • (1)の解】 <5-28>  I(t)=1Le-( R/L)t{ e(R/L)tV(t) }dt+C1 である。ここでC1は定数である。

  • (2)の解】 <5-29>  I(t)=V0R+ C2e-(R/L )t である。ここでC 2は定数である。
(3)の解】
 (3)の解は(2)の結果をていねいに調べ、I(t)の時間ふるまいを十分理解してその特徴を知ってから、I(t)をグラフにすればよい。
 (2)の解でt= 0として条件I(0)=0 を課すと、C2 =-V0Rを得る。したがって (2)の解は<5-30> (I(t)=V0R 1-e-(R/L )t) となる。 t0から増加するが、指数関数の指数 RL tが十分小さいと見なせるほどまだtが小さいときは、以前与えたマクローリン級数展開を使って<5-31>(e -(R/L)t 1- RLt)と近似できるから、<5-32> (I(t)V 0R1-{1-( RL)t}= V0Lt)となり Itとともに0から直線的に増加することがわかる。tが大きくなり RLt 1に比べて非常に大きくなれば RLt 1e-(R /L)t1に対して無視できるくらい小さくなるので、その結果I はしだいにV0Rに近づく。
 グラフは各自で描くこと。I(t)のグラフには、 t0から大きくなるとともに0から直線的に増加し、さらに tが増加すると徐々に一定の値 V0Rに近づくIの様子が描かれていればよい。回路のスイッチを入れて十分時間が経過した後で回路に流れる一定の電流は I=V0R であり、これが「オームの法則」によって電圧V0 の下で抵抗Rを流れる電流であることはいうまでもない。


【一階の微分方程式(同次形方程式)】

 次の形の微分方程式は「同次形微分方程式」と呼ばれ、以下で説明する方法でその解を求めることができる。

<5-33> (5.1.19) dydx=f yx

ここで右辺は、関数yと変数 xyx という組み合わせで含まれるという意味である(もちろん最も簡単な組み合わせは yxである)。
 解かれたyxの関数であるから、結局yxxの関数なので、それをu (x)と置く。すなわち

<5-34> y(x)x =u(x)

とする。そうすると

<5-35>  dydx=d(xu)dx = u+xdudx

であるから、(5.1.19)式は

<5-36> u+xdudx= f(u)

と書き換えられる。式を少し整理すると、これは

<5-37> (*)du dx=f(u)-ux

となり、uxの変数分離型微分方程式に帰着する。したがって、これまで使ってきた方法でuを求めることが出来る。そのようにして得られたuから y=xuによって y(x)が求められる。この方針に沿って以下の微分方程式を実際に解いてみよう。
【問】 微分方程式

<5-38> dydx=x 2+y2xy

を解け。
【解】 この右辺は

<5-39>  x2+y2xy= xy+yx = yx-1 +yx

と書き換えられるから、与えられた方程式はxyの同次形微分方程式である。そこで u=yxとおくと、(5.1.19)式は f(u)=1+1u であるから、先の(*)式は

<5-40> dudx =1/ux

となる。これは変数分離型微分方程式であるから、これまでの方法を使って解くと、

<5-41> u=ln(x2 )+C

を得ることができる。ここでCは積分定数である。 y=xuから y

<5-42> y(x)=xln (x2)+C

である。


【一階の微分方程式(完全形微分方程式)】

 「完全形微分方程式」は方程式が二つの条件を満たす場合の微分方程式である。第一は微分方程式が

<5-43> (5.1.20) dydx=- p(x,y)q(x,y)

の形を持つことである。これに加え、右辺のp(x,y )q(x,y)がもし

<5-44> (5.1.21) py =qx

を満たしていれば、(5.1.20)式の微分方程式は「完全形微分方程式」であり簡単に解くことが出来る。名前のいわれは微分方程式の中にある微分係数を元の形に戻して考えるとわかる。それを理解するために§5で与えた全微分に関連した定理をもう一度思い出しておこう。すなわち、

【定理】 xy の関数P(x,y)および Q(x,y)があり、もしそれらを xyで微分することができ、さらにPQ

<5-45> (I)  P y=Qx

を満足すれば、

<5-46> (II)   fx=P(x ,y)f y=Q(x,y)

なる関数f(x,y)が存在し、その全微分(2.5.10)式を

<5-47> (III)  df(x,y )=P(x,y)dx+Q(x ,y)dy

と書くことができる。

 この定理を思い出しておいて、(5.1.20)式の微分係数の中にあるdydxを微小量であるとして、(5.1.20)式を

<5-48> (5.1.22) p(x,y)dx +q(x,y)dy=0

と書き換える。いまp(x,y)q(x,y)が(5.1.21)式の条件、つまり定理[I]の条件 py= qxを満たすというのであるから、定理 [III]より全微分が

<5-49> (5.1.23) du(x,y)= p(x,y)dx+q(x,y )dy

である関数u(x,y)の存在することがわかる。duは全微分であるから定理 [II]よりp (x,y)q( x,y)u(x ,y)

<5-50> (5.1.24)  ux=p(x ,y) uy=q(x ,y)

のように関係しているので、与えられたp(x,y )q(x,y)を使ってこの式からu(x,y)が求められる。一方、(5.1.22)式からdu(x,y) =0であるが、これはxyを変えても関数u (x,y)が変わらないこと、すなわち uが一定であることを意味している。よってu(x ,y)=定数Cである。 u(x,y)の関数形は(5.1.24)式を解いて求めてられているので、それをCとおけば、そこから yxの関数として求めることができる。それが(5.1.20)式の解である。ピンと来ないと思うので、実際に次の問題を解いてみよう。

【例題】微分方程式

<5-51> dydx=-x +y+1x-y2+3

を解け。
【解】これを(5.1.20)式の形と比べると、p(x, y)=x+y+1q(x,y)=x -y2+3である。このとき

<5-52>  p(x,y)y =q(x,y) x =1

であるので与えられた方程式は完全形微分方程式であり、

<5-53>  u(x,y)x =p(x,y) = x+y+1 u(x,y)y =q(x,y) = x-y2+3

なる関数u(x,y)=C (定数)が存在する。上の式は u(x,y)に対する偏微分方程式であるから、それを解くために、もう一度「偏微分係数」の意味を思い出す。偏微分係数は変化させる変数以外の変数を固定し、定数であると考えたときの微分係数であるから、上の二つの式はそれぞれ一方の変数を定数とした一階の常微分方程式と同じである。第一の式の意味は、「yを定数としてxで微分をすると x+y+1となる関数がuである」というのであるから、u

<5-54> u=x22 +xy+x+g(y)

である。これは(x+y+1)の第一項目であるxの不定積分が xdx=x22であり、第二項目と第三項目にある(y+1)の不定積分が (y+1)dx= yx+xであると言っても同じことである。上式右辺にある g(y)yと定数だけを含み、したがってxで偏微分すれば0 になる関数である。このg(y)を決めるため、上で求めたu(x,y)を今度は xを定数として yで偏微分すると、

<5-55> uy =x+dgdy

であるが、これがq(x,y)= x-y2+3に等しいというのであるから、 g(y)

<5-56> dgdy=-y2 +3

を満足しなければならない。これはgに対する簡単な変数分離型の微分方程式であり、これまで学んだ方法を使ってその解を求めると

<5-57> g=-y3 3+3y+A

を得る。ここでAx にもyにもよらない定数である。したがって、 u(x,y)

<5-58> u=x22 +xy-y33+x+3 y+A

となる。与えられた微分方程式を満足するxyの関係はこのu (x,y)を定数とすると得られるので、その定数を C+Aと書けば

<5-59> x22+xy -y33+x+3y= C

を得る。これを変形してy xで表す式を与えてもよいが、このままでこれが与えられた微分方程式を満足する解であるとしてもよい。以上が「完全形微分方程式」の基本的な解き方である。

【一階の微分方程式(非線型微分方程式)】

 線型微分方程式が容易に解ける例を示してきた。一方で、気象現象のように 非線型微分方程式によって記述される重要な自然現象も少なくない。残念ながら「非線型微分方程式」を解く一般的な方法はない。しかしながら前世紀の電子計算機の発展によって、数値的にではあるが非線型微分方程式を短時間で非常に高い精度で解くことができるようになり、近年は非線型微分方程式で表される自然現象の研究がとてもさかんになった。
 ここでは非線型微分方程式を解くことはしないが、参考のために重要な非線型微分方程式の形を二つ(「ベルヌーイの微分方程式」と「リッカチの微分方程式」)を紹介しておく。

  1. 【ベルヌーイの微分方程式】

    <5-60> (5.1.25) dydx+p( x)y=q(x)yn (n0,1)

    という形を持つ微分方程式を「ベルヌーイの微分方程式」という。ここで左辺の p(x)と右辺のq( x)xの任意関数である。「微分方程式の型を決める三つの要素」の(方程式の線型・非線型性)で、微分方程式の一つの解に任意定数をかけた関数がやはり同じ微分方程式を満足していれば、その方程式は「線型微分方程式」であると述べた。そこで、(5.1.25)式を満足する解をy 0とし、それに定数Cをかけた y=Cy0がやはり(5.1.25)式を満足するかどうかを調べる。もしy=Cy0 が(5.1.25)式を満足すれば、(5.1.25)式は線型微分方程式であることになる。それを実行すると、もし n0または 1であれば(5.1.25)式は線型微分方程式であるが、今は n0,1であるため、方程式は非線型微分方程式であることがわかる。しかしながら、数学者のベルヌーイはこの型の方程式に対して解が見つけられることを発見した。それでこの方程式を彼の名を冠して呼ぶのである。

  2. 【リッカチの微分方程式】 一階の非線型微分方程式

    <5-61> (5.1.26) dydx+p( x)y2+q(x)y+r (x)=0

    を「リッカチの微分方程式」という。p(x)q(x)r(x)xの任意関数である。2 項目のy2のついた項と4項目のyを含まない項が方程式の線型性を破っている。ところがこれらの関数がある関係を満足する場合にリッカチの微分方程式はベルヌーイの微分方程式に帰着し、したがって解くことができる。


【ここで与えた方法で解くことができる、物理で重要な一階線型微分方程式の実例】

 物理学と化学で扱う自然現象を記述する微分方程式には、これまで学んだ方法を使って解くことができる重要な一階の線型微分方程式が多い。ここではこれまで学んだ解法を使う練習をかねて、特に重要な二つの方程式を実際に解くことにする。一つは化学反応で現れる「反応により生成される物質の濃度を与える方程式」であり、一つは「放射性原子核の崩壊確率を決める方程式」である。

  • 【解ける方程式の例】(1)化学反応で生成される物質の濃度を与える方程式 例:塩酸の生成反応 H2+ Cl22HCl
    (注意)この例題に出てくる言葉に対してある程度のイメージを描くには「化学」の知識が必要である。そのため高校で「化学」を学んでいなければ言葉がまったく理解できないかもしれない。そのときはこの例題をとばして先に進んでよい。また、「濃度」という言葉が出てくるが、それは反応が進行している容器中にある分子の数に比例するので、「濃度」を「分子数」という言葉で置き換えて読んでもかまわない。

     反応が時刻t=0で始まったとして、そのときの H2Cl2の濃度を ab、それから時間 tがたった後に H2 Cl2が反応してできた HClの濃度をx(t )とする。t=0HClは存在しなかったので、 x(0)=0である。 HClはその原料になる H2Cl2が多く与えられれば多量かつ速く生成されるであろうから、生成の速さ(生成物質が増加する割合、すなわち反応速度) (dx/dt)はその時点で存在する H2 Cl2の濃度に比例すると考えられる。時刻 tですでに濃度x (t)HClが生成されており、その生成のためにH2Cl2(x/2)づつ使われている。(注意:一つの H2分子と一つの Cl2分子から二つの HCL分子ができるので、 x個の HClを作るには(x/ 2)づつのH2 Cl2が使われたことになる。)したがって反応せずに残っているH 2の濃度は(a-x/ 2)、そしてCl 2の濃度は(b-x /2)である。

  • (解) dxdta-x2 およびb- x2に比例するから、その比例定数を kとすると

    <5-62> dxdt=k a-x2 b-x2

    である。この方程式は変数分離型の微分方程式であるから、積分定数をCとすると、解の一般形である(5.1.8)式から

    <5-63> (1) 1a-x2 b-x2 dx=kdt+C

    となる。しかるに左辺で積分される式は

    <5-64> 1 a-x2b- x2=1a-b 1b-x2 -1a-x2

    と書き換えられ、また(1)式右辺でdt=tであるから、(1)式は

    <5-65> (2) 1a-b1b- x2dx-1a-b 1a-x2 dx=kt+C

    となる。左辺の不定積分は、たとえば

    <5-66> 1a-x2 dx=-2ln(x-2a )

    であるから(2)式から

    <5-67> lnx-2a x-2b=-b-a 2(kt+C)

    を得る。途中は省略するが、x(0)= 0を使って定数のCを求めてから注意深く xを求めると

    <5-68> (3) x=2ab1-e (b-a)kt/2a -be(b-a)kt/2

    を得る。反応が始まってすぐの時間(t0よりわずかに大きいとき)の HCl濃度は、ey yが小さい時のマクローリン級数展開の近似式

    <5-69> ey1+y

    e(b-a)k t/2に利用して(3)式内のe (b-a)kt/2を置き換えると、x(abk)tのように、時間とともに直線的に増加することがわかる。一方、(3)式右辺にある e(b-a)k t/2の指数は、もしa bならば負になるので、時間が経過してtが十分大きくなると指数関数は非常に小さくなり無視できるようになる。その結果(3)式右辺の[⋅⋅⋅]の項は 1aとなる。したがって HCl濃度xは時間がたつにつれ 2bに近づく。一方もし abであればe(b -a)kt/2の指数は正なので、時間が経過して tが十分大きくなると分子と分母の指数関数は非常に大きくなり、今度はそれを含まない項が無視できるようになる。その結果(3)式右辺の [⋅⋅⋅]の項は 1bとなる。したがって HCl濃度 x2a にしだいに近づくことになる。
     結局、反応が始まってしばらく時間が経過すると、HCl は最初にあったH2Cl2のうち少量の分子の濃度 (の2倍)に達して化学反応が止まる。

  • 【解ける方程式の例】(2)放射性原子核の崩壊確率

     原子炉の中で、あるいは、自然の環境下で原子核が放射線を放出して他の原子核に変わることを「原子核の崩壊」という。原子核の崩壊の様子も一階の常微分方程式で表される。
     いま原子炉で原子核反応が起こり放射性原子核Aが生成された。 Aは放射性であるから時間の経過とともに崩壊し、他の原子核 Bに変わる。崩壊する Aの数はその時に存在するAが多いほど多いであろうから、Bに変わる Aの数はその時点で存在するAの個数に比例すると考え、その比例定数をλAとする。 Aが崩壊して生成された Bも放射性原子核であるとすれば、それもまた時間が経過すると崩壊し、別な原子核 Cに変わる。 Cに変わるBの 数もその時点で存在するBの個数に比例すると考え、その比例定数を λBとする。 Cは放射性ではなく、もはやそれ以上は崩壊しないとする。まとめると、 Aは時間とともに

    <5-70> A(放射性) B(放射性)C( 安定)

    のように崩壊し、最終的にCが生成される。たとえば、時刻 tに存在するA の個数をNA(t)とすると、それからΔt経過した後の Aの個数はNA(t +Δt)であり、Δt間での個数の変化(減少)は NA(t+Δt )-NA(t)ΔNA (t)(<0)である。この変化が

    1. 一定の割合λAで、
    2. 時刻tにおいて存在する Aの個数NA(t )に比例して、
    3. Δtの間に起きる

    のであるから、個数の減少( ΔNA(t)<0)に注意すると、

    <5-71> ΔNA(t) =-λANA(t)Δt

    が成り立つ。この考え方を使って以下の問に答えることにする。

    • 【問(1)】 時刻 t=0Aの崩壊が始まったとして、その後の時刻tで存在する AB Cの個数 NA(t)N B(t)NC (t)はそれぞれいくらであろうか。
    • 【問(2) Aは時間とともに減少するが、それが最初にあった数の半分まで減るにはどのくらいの時間(半減期)がかかるのであろうか。

    (1)の解】  Aが時刻t=0N0個存在したとする (NA(0)= N0)。この時点ではBCも存在しない (NB(0)=NC( 0)=0)。時刻tにおけるAB Cの個数をそれぞれ NA(t)NB(t)NC(t)とすると、

    1. tから短い時間Δt A λANA(t)Δt個が崩壊して 減少し<5-72> NA(t)-λAN A(t)Δt個になる。

    2. Bは、 λBNB(t)Δt個が Cに崩壊して減少するが、その間にAから崩壊して Bになる原子核がλAN A(t)Δt個あるからそれだけ増加するので、<5-73>NB (t)-λBNB(t )Δt+λANA(t) Δtとなる。

    3. Cは安定なので崩壊して減少することはないが、 Bから崩壊して Cになる個数λBN B(t)Δt個だけ増加して、<5-74>[NC(t) +λBNB(t)Δt] になる。

    したがって時刻t+Δtにおける各原子核の個数は

    <5-75>  (1) NA(t+Δt) = NA(t)-λA NA(t)Δt (2) NB(t+Δt) = NB(t)-λB NB(t)Δt+λA NA(t)Δt (3) NC(t+Δt) = NC(t)+λB NB(t)Δt

    となる。
     微分の原形<5-76>NA (t+Δt)-NA(t) Δt、<5-77> NB(t+Δt)-N B(t)Δt、 <5-78>NC (t+Δt)-NC(t) Δtに立ち帰って、Δtが十分短いと考え、それぞれを微分形dNA (t)dtd NB(t)dtdNC(t) dtで置き換えると、上の(1)(2)(3) 式を微分形

    <5-79>  (4) dNA(t)dt= -λANA(t) (5) dNB(t)dt=- λBNB(t)+λ ANA(t) (6) dNC(t)dt= λBNB(t)

    に書き換えることができる。
     まず(4)式から処理する。 (4)式は変数分離型の一階微分方程式で、(5.1.12)式でy NAxt p(x)λ Aとした式と一致するから、(5.1.12)式の解である(5.1.13)式に上の置き換えを行うと (4)式の解がただちにわかる。積分定数を CAとすると、 (4)式の解は

    <5-80> (7)NA (t)=CAe-λ At

    である。t=0の時に AN 0個存在したというのであるから、CA =N0でなければならない。よって NA(t)

    <5-81> (8) NA(t)=N0 e-λAt

    となる。これを(5)式に代入し、その結果を NB(t)を含む項と含まない項に分けると、(5)式は

    <5-82> (9) dNB(t)dt +λBNB(t) =λAN0e- λAt

    となる。この式は「定数変化法」を用いて解くことができる。そのために、まず右辺を0 と置いた同次方程式

    <5-83> (10) dNB(t)dt+ λBNB(t)=0

    の解を求める。これは(4)式と同じ形であるから、その解は

    <5-84> (11)NB(t)= CBe-λBt

    である。ここで積分定数をCBとした。そこで 定数CB CB(t)で置き換えて、(9)式の解が

    <5-85> (12) NB(t)=CB(t )e-λBt

    であると仮定する。そうすると

    <5-86> dNB(t )dt=dCB(t) dte-λBt- λBCB(t)e- λBt

    であるから、これと(12)式を (9)式に代入すると、CB( t)が満足すべき方程式

    <5-87> dCB(t )dt=λAN0e (λB-λA)t

    が得られる。t=0のときに NB(0)=0であったという条件を(12)式に使うと、 CB(0)=0 であるから、これを条件としてこの微分方程式を解いて

    <5-88> (13) CB(t)=λA N0λB-λA e(λB- λA)t-1

    を得る。これを(12)式に代入すると、知りたかった NB(t)

    <5-89> NB(t)= λAN0λB -λAe -λAt-e- λBt

    と得られる。
     最後に、上のNB(t)(6)式に使って NC(t)を求める。 NC(t)が満足する方程式は

    <5-90> dNC(t) dt=λAλBN 0λB-λA e-λAt -e-λBt

    となり、簡単に解くことができる。解くときに必要になる不定積分は

    <5-91> e-atdt =-e-ata

    であるから、積分定数をCCとすれば NC(t)

    <5-92> NC(t)= λAλBN0 λB-λA -e-λAt λA+e-λB tλB+CC

    である。t=0NC(0)=0であったので、その条件からCCを決めると CC=N0となるので、これを使って上の式を整理すると最終的に

    <5-93> NC(t)= N0λA-λB λA1- e-λBt-λ B1-e-λA t

    を得る。NC(t)t=0での 0から次第に増加し、十分時間がたつと(数学的にはt で)N0になり、原子核 Aが全て崩壊して最後には Cだけとなる様子は各自が確認するとよい。

    (2)の解】 原子核 Aが最初にあった数(N0 )の半分に減る時間(半減期)は(8)式から求められる。その半減期をTとすれば、 (8)式のt Tで置き換え、NA= N02とすれば、

    <5-94>  NA(T)=N0 e-λAT = N02

    であるから、第二式と第三式の対数を取ってそれを等しくおけば、T

    <5-95>  T=ln2λA 0.69λA

    と得られる。
     上の結果はたとえば次のように使われる。2011311日の東日本大震災のときに発生した福島原子力発電所の事故で大量の放射性原子核が原子炉外に漏れた。そのなかで最も危険な放射性原子核である セシウム(Cs)137は、もしそれが今 50個あるとすれば1 年間にそのうちの1個が崩壊し、比較的危険性の少ない物質に変化することが実験室での研究によって知られている。それを式で表すと、Cs137 の崩壊確率はλ=0.02[ /]ということになる。福島原子力発電所から飛散したCs137が現在ある量の半分まで減るのは今から 0.690.02/[ ]=34.5[]後である。したがって、福島原子力発電所の事故は過去のものと思い早く忘れたいのであろうが、科学的に考えればその状態は収束したとは決して言えないのである。


【二階の微分方程式】

 ここまでは一階の微分方程式を扱って来た。ここからは方程式のなかに0階微分係数、1階微分係数、2 階微分係数を含む二階の微分方程式を扱う。この節の初めに紹介したように、物理学には重要な二階の微分方程式がとても多くある(たとえば(5.1.2)式、(5.1.3)式、(5.1.4)式、(5.1.5)式)。したがって解を求めることが容易であるかどうかはべつにして、二階の微分方程式の特徴を知っておくことは非常に重要である。
 y(x)に対する次の形の二階微分方程式を考える。

<5-96> (5.1.27) d2y dx2+p(x)dy dx+q(x)y=r(x)

ここでp(x)q(x) r(x)xの適当な関数である。この方程式の特徴は、もし右辺が0であれば方程式が線型方程式になることである。理解するのが少し難しいかもしれないが、「物理学」を学ぶ過程でこの形を持つ二階の微分方程式がとても多く出てくるので、この形を持つ微分方程式の解き方を簡単に説明しよう。実際にこの形の方程式に出合った時に、この教科書を取り出してもう一度説明をたどると良い。
 (5.1.27)式で求めようとするyを含まない右辺を 0と置いた方程式

<5-97> (5.1.28) d2y dx2+p(x) dydx+q(x)y=0

を(5.1.27)式の「同次方程式」と言った。この解が(5.1.27)式の解の土台となるので、これを解くことから始める。
 最初に微分演算の線型性を使って同次方程式

<5-98> (5.1.29)  d2dx2 +p(x)ddx+q (x)yL(y) =0

と書く。もしこれが理解できなければ、以下で元の(5.1.28)式をそのまま使って同じ議論をしてもよい。しかし、この書き方はとても有用なので、これに沿って説明をおこなうことにする。いま(5.1.28)式を満足する二つの解( y1y2)があったとする。すなわち、(5.1.29)式の書き方を使うと、

<5-99> (5.1.30)  L(y1)=0 および L(y2)=0

であったとする。このときC1C2を二つの適当な定数とすると、

<5-100> (5.1.31)  L(C1y1+C2 y2) = d2(C1y1 +C2y2)dx 2+p(x)d( C1y1+C2y2 )dx + q(x)(C1y1+ C2y2) = C1d2y 1dx2+p(x )dy1dx+q( x)y1 + C2d2 y2dx2+p (x)dy2dx+q (x)y2 = C1L(y1)+C 2L(y2) = 0

であるから、(C1y1 +C2y2)もまた(5.1.28)式の解であることがわかる。このように「いくつかの解に適当な定数をかけて足すこと」を「解の重ね合わせ」という。そして「重ね合わせがまた解になること」は(5.1.28)式が線型方程式であることの本質的な特徴である。すなわち、

・ 線型微分方程式を満足する解がいくつかあれば、それらを重ね合わせたものも解である。

いくつかの解を重ね合わせて別な解を作るときに、重ね合わせる解に対して要求される重要な性質がある。それは「(一次または線型)独立性」である。かなり抽象的ではあるが重要な概念なので、変数や関数が「独立である」ことの一般的な意味をここで説明しておく。


【一次(線型)独立性】

 いくつかの変数があるときに、そのなかの一つ(Aとする)を他の変数を使って表すことができる場合と、出来ない場合がある。もしどのようにしても他の変数を使って Aを表すことが出来なければAは一次(線型)独立である」という。もし 他の変数を使ってAを表すことが出来たとすると「Aは一次(線型)独立でない」あるいは「 Aは他の変数に一次(線型)従属している」という。特に Aを他の変数を定数倍した和(または差)によって表すことができない場合は Aは「一次(線型)独立」であるといい、できた場合は Aは「一次(線型)従属」であるという。変数が関数であっても同じことがいえる。すなわち複数の関数があるとき、他の関数を使ってある関数 fを表すことができなければ、 fは一次(線型)独立である
 数学の言葉で一次(線型)従属性を表すこともできる。厳密さを求めるあまり数学の表現は常に分かりにくいので、下の記述から上に述べたことが読みとれなくても気にすることはない。

y1y2の独立性】
 適当な定数をC1および C2とするとき、変数(または関数) y1 y2に対する関係式

<5-101> (5.1.32) C1y1 +C2y2=0

が、定数がC1=C2 =0以外に成り立たなければy1y2一次(線型)独立である。 もしC1=C2 =0以外にこの式を満たす定数があればy 1y2一次(線型)従属である。簡単に言ってしまえば「変数(または関数)のどのような値に対しても、一方を何倍かして他方になれば二つの変数は互いに従属しており、ならなければ二つの変数は独立である。

 もし将来「量子力学」を学ぶようなことがあれば、関数に対する「独立性」はとても重要になるので、変数や関数の独立性を簡単に判定することができる「ロンスキー行列式」の方法を与えておく。一般的な場合は複雑になるので、二階微分方程式の解の独立性を判定するときに使われる二つの関数の場合を想定する。行列は次章で学ぶが、ここに現れる行列は「22列」なので、高校で学んだ知識を使って十分理解することができる。

【ロンスキーの行列式と関数の一次(線型)独立性】

 xを変数に持つ2つの関数をy1(x)y2(x)とし、それらの微分係数をy1'(x )y2' (x)とする。これらから作られる22列の行列式

<5-102> (5.1.33) W (x)= y 1(x)y2 (x)y1' (x)y2'(x ) =y1(x) y2'(x)-y 2(x)y1' (x)

を「ロンスキーの行列式」という。このとき、y1 (x)y2( x)の独立性に対して次の定理が成り立つ。

<5-103> (5.1.34)   もし W(x)0  なら y1 と y 2 は一次(線型)独立である。  もし  W(x)=0 なら y1  と y2  は一次(線型)従属である。

この証明は行わない。

 (5.1.27)式の二階線型微分方程式にもどる。左辺のp(x) q(x)が定数である方程式を「定係数の二階線型微分方程式」という。「定係数の二階線型微分方程式」は物理で多くの重要な場面に現れるので、ここからは「定係数の二階線型微分方程式」を考える。p(x)q(x)が定数であるから、それを p(x)p(定数)、および q(x)q(定数)と書く。そうすると、(5.1.27)式に対応する「定係数の二階線型微分方程式」は

<5-104> (5.1.35) d2y dx2+pdydx+ qy=r(x)

で与えられる。最初にこの同次方程式

<5-105> (5.1.36) d2y dx2+pdydx+ qy=0

を解く。これには標準的なやり方がある。同時に、そのやり方から(5.1.36)式の二階線型微分方程式が二つの一次(線型)独立な解を持つことがわかるが、今は独立解の個数の問題には言及せずに、「(5.1.36)式の二階線型微分方程式には二つの一次(線型)独立な解を与えなければならない」ことを証明なしに要求しておくことにする。
 同次微分方程式を解く標準的なやり方は、定数λを持つ指数関数 eλxを(5.1.36)式に代入するのである。思いつきのようであるが、後で説明するように、これには方程式の線型性を背景とするしっかりとした理由がある。 eλxを代入すると、d eλxdx=λeλxd2eλx dx2=λ2eλx であり、かつeλx0 であるから、eλxを代入して得られた式の両辺をeλxで割り算すると、 λについての方程式

<5-106> (5.1.37) λ2++ q=0

が得られる。これを(5.1.36)式の「特性方程式」という。
 これと同じ特性方程式を簡単に得る方法がある。以前に少しだけ説明した微分演算子 ddx=Dを思い出し、それを使って(5.1.36)式を

<5-107>  D2y+pDy+qy=(D 2+pD+q)y(x) = 0

のように表す。そしてDをあたかも普通の数のように考えて、それを λと書くと、上式は

<5-108> (λ2+pλ +q)y(x)=0

となる。y(x)として 0でない解を求めているので、この両辺を y(x)で割ると先の特性方程式が出てくる。
 これが微分演算の線型性に基づいた本当の考え方である。eλx を代入したのは、それをxで微分すると演算の回数に応じて定数 λが現れることが微分演算の線型性に由来するので、それを利用して特性方程式を導いたのである。同じ特性方程式が導かれるのであるから、どちらの考え方を用いてもよい。
 特性方程式((5.1.37)式)はλに関する二次方程式であるから、必ず二つの根を持ち(言及しないといったが、これと「二階線型微分方程式が二つの一次(線型)独立な解を持つ」こととが密接に関係する)、根の公式を使ってそれらを簡単に求めることができる。求められるλpqによって 3通りの場合( A.2根が実根、 B.2根が複素根、 C.2根が重根)の場合が考えられる。それぞれの場合に対して特性方程式((5.1.36)式)の解が以下のように与えられる。

  1. p2-4q>0 のとき: λは二つの異なる実根となり、それらを λ1λ2とすると、

    <5-109>  λ1=12(- p+p2-4q) λ2=12(- p-p2-4q)

    である。λ1λ2 であるから(eλ1 x)( eλ2x)は一次独立であることを示すことができるので[8]、これらが(5.1.36)式の独立な二つの解になる。したがって(5.1.36)式の一般的な解(「一般解」)を、 C1C2を定数として二つの解を重ね合わせて

    <5-110> y=C1e λ1x+C2 eλ2x

    と与えることができる。このy

    <5-111>  y=C1y1(x)+ C2y2(x) ここで y1 (x)=eλ1x y2(x)=eλ2 x

    の形に書いておこう。憶えておくべき重要なことは、y1 y2が一次独立であることである。

  2. p2-4q<0 のとき: このときもλは二つの根を持つ。それらを λ1λ2とすると、それらはともに複素数であって

    <5-112>  λ1=-12 +λ2=- 12- ここで γ=4q- p22

    である。したがって、C1C2を二つの定数とすると、(5.1.36)式の一般解は

    <5-113>  y=C1e(-p/2 +)x+C2e (-p/2-)x =e-(p/ 2)x[C1'cos( γx)+C2'sin(γx) ]

    と書ける。ここでe±iγx= cos(γx)±isin(γx)を用い、 C1+C2 =C1'i (C1-C2)=C 2'と定数を組み換えた。再びこのy

    <5-114>  y=C1y1(x)+ C2y2(x) ここで y1( x)=e-(p/2)x cos(γx)y2(x)=e-(p/2)x sin(γx)

    の形に書いておく。ここでも憶えておくべき重要なことは、y1 y2が一次独立であることである。

  3. p2-4q=0 のとき:このときλは重根 λ=-(p/2)である。この場合には独立な解が一つしかない。とにかくその解をy1 とすれば

    <5-115> y1=e- (p/2)x

    であるが、これと独立なもう一つの解y2がわからない。そこで y2を探すために定数変化法を使うことにする。
     定数変化法の出発点は「解に含まれる定数を変数の関数とする」ことである。 すなわちy2y1と同じ形の y2=Ce -(p/2)xに考え、そして Cxの関数として、

    <5-116> y2(x)= C(x)e-(p/2) x

    とする。もしこれでC(x)が定数なら、それはあきらかに y1の指数関数の前にある係数 1の定数倍で表され、 y2y1は一次独立でなくなる。したがってやるべきことは(5.1.36)式を満足する、定数でないC( x)を持つy2を求めることである。
     そこで、このy2を(5.1.36)式に代入し、そこに含まれる微分係数を計算する。p2-4q =0であり、e-( p/2)x0であるから、計算の結果 C(x)は方程式

    <5-117> d2C(x )dx2=0

    を満足することが分かる。C(x)x2度微分を実行すると0となるのであるから、二つの定数を C1'C2'とすれば C(x)

    <5-118> C(x)=C1 '+C2'x

    である。上で注意したように、ここではC(x)が定数でない解の部分を探しているので、(C2'x )だけを考えればよい。よってy1と独立な解y2

    <5-119> y2=C2 'xe-(p/2)x

    となる。
     これをすでに求められている解y1(x )=e-(p/2)x に重ね合わせれば特性方程式が重根を持つ時の同次方程式の解が与えられる。あらためて y1にかかる定数を C1とし、 C2'C2 と書きかえれば、この場合の同次方程式の解は

    <5-120> y=(C1+ C2x)e-(p/2 )x

    となる。この解もまた

    <5-121>  y=C1y1(x)+ C2y2(x) ここで y1(x)=e-(p/2)x y2(x)=xe -(p/2)x

    の形に書いておく。

 このようにA、B、Cいずれの場合にも、同次方程式((5.1.36)式)の解を一次独立な関数 y1(x) y2(x)を重ね合わせて

<5-122> (5.1.38) y(x)=C 1y1(x)+C2 y2(x)

の形で与えることができる。しかしこれはあくまでも同時方程式((5.1.36)式)の解であって、右辺が 0でない与えられた方程式((5.1.35)式)の解ではない。(5.1.35)式の解を求めるためには、もう一度、(5.1.38)式を出発点にした定数変化法を使う。
 そこで、(5.1.38)式にある二つの定数をxの関数と考えて、もとの微分方程式である(5.1.35)式の解が

<5-123> (5.1.39) y(x)=C 1(x)y1(x)+ C2(x)y2(x)

であると仮定し、y(x)が(5.1.35)式を満足するように C1(x)C2(x)を決める。 y1(x)y2(x)は(5.1.36)式の独立な解であり、上で具体的に与えられている。
 大事なことが一つある。このように解を仮定したとき、C1 (x)C2( x)勝手な一つの条件を与えてもよいことである。残念がらその証明は少し複雑であり、それをこの段階で与えることは混乱を招くだけになる。したがってここではそれを証明なしに使い、今の場合に都合のよい条件を与えることにする。その条件はC1(x )C2(x) が方程式

<5-124> (5.1.40) dC1( x)dxy1(x)+ dC2(x)dxy2 (x)=0

を満足することである。この条件を与えた理由は、(5.1.39)式を(5.1.35)式に代入して計算を行うとき、途中に(5.1.40)式の左辺と同じ式が現れ、それが0になるとそれからの計算がとても簡単になるからである。実際に(5.1.39)式を(5.1.35)式に代入し、この条件を使うと

<5-125> (5.1.41) dC1( x)dxdy1(x) dx+dC2(x) dxdy2(x)dx =r(x)

を得る。この式と(5.1.40)式はdC1 (x)dxd C2(x)dxについての連立方程式であるから、それから dC1(x) dxdC2 (x)dxを求めることができ、

<5-126> (5.1.42)  dC1(x)dx= -y2(x)r(x) W(x) dC2(x)dx= y1(x)r(x) W(x) ここで、 W(x)=y1(x)y 2'(x)-y1'(x )y2(x)

となる。dC1(x )dxdC 2(x)dxを与える式の右辺が複雑な形をしているが、その中にある関数はすべてわかっている関数であり、どちらの微分方程式も変数分離型の微分方程式であって、 C1(x) C2(x)を解くこと自体はむずかしくない。そのときに現れる不定の定数を C1''C2''として解を与えれば、 C1(x)C2(x)

<5-127> (5.1.43)    C1(x) =C1''-r(x )y2(x)W(x) dx C2(x)=C2'' +r(x)y1 (x)W(x)dx

である。ゆえに微分方程式(5.1.35)式の解は最終的に

<5-128> (5.1.44)  y(x)=C1 "-r(x)y 2(x)W(x) dxy1(x) + C2"+r( x)y1(x)W(x )dxy2(x) = C1"y1(x)+ C2"y2(x) - y1(x) r(x)y2 (x)W(x)dx +y2 (x)r(x) y1(x)W(x) dx

である。これが任意の関数r(x)を持つ(5.1.35)式の微分方程式に対する解の一般形である。右辺にいろいろな関数が現れているので、それらを整理しておくと、

  •  ・ y1(x)y2(x)は同次方程式((5.1.36)式)の一次独立な解として求められている

  •  ・ W(x)=y1 (x)y2'(x)- y1'(x)y2( x)は、y1(x )y2(x) がわかれば、それから求められる

  •  ・ r(x)は最初に与えられた方程式 ((5.1.35)式)の右辺にある任意関数で、ここでは具体的に与えられていない
である。実際には(5.1.44)式最後の二つの積分を実行しなければならないが、これが結構大変な作業になる。 r(x)が具体的に与えられたとしても、最終的な結果を得るまでにはまだまだ相当な苦労をしないといけない。


§2. 振動と微分方程式

 自然界に多く現れる様々な振動現象を記述する運動方程式はすべて前節で学んだ二階の線型微分方程式で与えられる。第 2節でマクローリン級数展開の例に使った単振子の振動を表す方程式((5.1.5)式)も時間に関する二階の線型微分方程式であった。この節では、前節で学んだ線型微分方程式の解法の練習として、物理的考察ぬきに色々な振動を表す運動方程式を与え、その解を求めることにする。そして最後に、(5.1.35)式型の微分方程式によって表される「強制減衰振動」の方程式を解くことにする。


【単振動】 第二章「§2. テーラー級数とマクローリン級数」で単振動を表す二階線型微分方程式(2.2.6)式の解を説明なしに与えた。ここでそれを解いて、実際に解を求めることにする。(2.2.6)式では変数をθとしていたが、ここではそれを xと書く。そうすると単振動の方程式を表す(2.2.6)式は

<5-129> (5.2.1) d2x dt2=-gx

である。式を簡単にするために実数ω(g /)を使って上の方程式を書き換えると

<5-130> (5.2.2) d2x dt2+ω2x=0

となる。この方程式は右辺が0であるから、二階線型微分方程式の同次方程式を解く方法で解を求めることができるので、前節で学んだ方法にしたがって解を求めることにする。(5.2.2)式に対する特性方程式は

<5-131> (5.2.3) λ2+ω2 =0

である。これを満足するλの二つ根は λ1=λ2=-である。したがって(5.2.2)式の解は

<5-132> (5.2.4) x(t)=C 1eiωt+C2e- iωt

である。二つの定数C1C2を決めるには二つの条件が必要である[7]。そこで、振動を開始するとき(t=0で)質点は

・ ① x=0であり、かつ、②  dxdt=ω0 (定数)であった

とする。(5.2.4)式から<5-133>dxdt= C1eiωt-C 2e-iωtなので、この二つの条件は(5.2.4)式の二つの係数に対して

<5-134> (5.2.5)    C1+C2 =0(C1- C2)=ω0

を与える。これからC1C2を求めると

<5-135>    C1=ω0 2C2 =-ω02

を得る。これらをあらためて(5.2.4)式に代入し、eiωt -e-iωt=2isin( ωt)を使うと、上の二つの条件を満足する(5.2.2)式の解として

<5-136> (5.2.6) x(t)= ω0ωsin(ωt)

を得る。第三章の(2.3.7)式で与えたA(振幅)は ω0ωのことである。


【減衰振動】 物理学で重要な振動様式に、気体や液体など粘性がある媒質のなかで媒質の抵抗を受けながら行なう「減衰振動」がある。この振動を表す方程式も同次方程式型であり、

<5-137> (5.2.7) d2x dt2+2γdxdt +ω02x=0

の形をしている。ここでγω0は正の定数である。この方程式の特性方程式は

<5-138> (5.2.8) λ2+2γλ +ω02=0

であるから、λの二つの解 λ1λ2

<5-139>    λ1=-γ+ γ2-ω02 λ2=-γ-γ 2-ω02

である。したがって、二つの定数をC1C2とすれば、(5.2.7)式の解は

<5-140> (5.2.9) x (t)= e-γtC1 eγ2-ω02 t+C2e-γ 2-ω02t

で与えられる。この場合の特徴は、γω0の大きさによって平方根のなかが正にも負にもなり、それが負の場合には平方根が虚数になるのでe± γ2-ω02tが複素数になることである。そのためγω0の大きさによって、とても特徴的な運動形態が生じるが、それは物理学で学んでほしい。この場合にも二つの定数はx(t )に二つの条件を与えると決まるが、それは省略する。


【強制減衰振動】  最後に(5.1.35)式型の方程式である「強制減衰振動」を考える。「強制減衰振動」の方程式は

<5-141> (5.2.10)  d2xdt2 +2γdxdt+ω02 x=fcos(ωt), (ただしω 0>γとする)

によって与えられる。ここで(γ ω0fω)はいずれも定数である。
 この型の方程式の解は以下のような面白い考え方で与えられる。いま、偶然であれ、どのようなやり方であれ、(5.2.10)式を満足する解がなんでもよいから一つ分かったとする。それをx0とすると、 x0

<5-142> d2x0 dt2+2γd x0dt+ω02x 0=fcos(ωt)

を満足する。このとき(5.2.10)式の完全な解がxであったとして、それからこの x0を引き算した関数 F=x-x0を考える。もちろん完全な解xが分かっていないのだから Fも分からない。このF に対して演算<5-143>d 2Fdt2+2γ dFdt+ω02Fを行う。tの任意関数f (t)g(t) に対して<5-144>d(f+ g)dt=dfdt+dgdt であり、Fを作っている(しかしいずれも未知の) xx0 はともに(2.3.10)式を満足する解であるとしているから

<5-145>  d2Fdt2 +2γdFdt+ω02 F = d2xdt 2+2γdxdt+ω 02x -d2x0 dt2+2γd x0dt+ω02x 0 =0

となる。すなわち、Fは(5.2.10)式の 同次方程式を満足することがわかる。ところが(5.2.10)式の同次方程式の解は(5.2.9)式であるとすでにわかっている。すなわち

<5-146> (5.2.11)  F(t)=e- γtC1e γ2-ω02t +C2e-γ2 -ω02t

である。そして(5.2.10)式の完全な解であるxはこの Fx 0を加えたx=F+ x0である。すなわち、

(5.2.10)式の解は、どういう方法でもよいからそれを満足する解 (x0)を一つ求め、その解に同次方程式の解である(5.2.11)式を加えると得られる。

上の「解を一つ」という意味は「(5.2.10)式を満足するならどのような解であってもよい」という意味である。ばくぜんとした言い方で不安に思うかも知れないが、その背景にはきちんとした数学的根拠があるとだけ述べておくことにする。
 このように、(5.2.10)式の解は、その同次方程式の解はすでに知られており(5.2.11)式で与えられているので、(5.2.10)式を満足する一つの解(「特殊解」または「特解」という)を探すことに帰着する。ここからはその特解を求めることにする。それを標準的なやり方で行うこともできるが、複素数に関する知識を使うともっと簡単に解が求まる。複素数を扱う演習にもなるので、ここではあえてその方法を採用する。
 そのために、複素数を含む等式について復習をしておく。

【複素数の等式】
 いま二つの複素数をz wとし、zの実数部分と虚数部分を xy (すなわちz=x +iywの実数部分と虚数部分をuv (すなわちw=u +ivとする。以上で (x,y,u,v)はすべて実数である。もし等式 z=wが成り立てば、左辺の実数部と右辺の実数部が等しく、左辺の虚数部と右辺の虚数部が等しい。すなわちz=wなら x=uおよび y=vである。

 いま問題にしているxは物体あるいは質点の位置という意味を持つので実数であるが、これとは別に仮想的な実数yを使って z=x+iyという複素数を作り、 zについての等式

<5-147> (5.2.12) d2z dt2+2γdzdt +ω02z=feiωt

が成り立つと仮定する。このとき

<5-148>    z=x+iy dzdt=dxdt+idy dtd2z dt2=d2x dt2+id2 ydt2 eiωt=cos(ωt)+isin( ωt)

であるから、(5.2.12)式の実数部分は今考えている微分方程式((5.2.10)式)と一致する。したがって、もし(5.2.10)式より(5.2.12)式を扱うほうが簡単なら、それを解いてz(t)を求め、その実数部を取り出すことによってx(t)を得てもよい。このとき虚数部のy(t)も同時に得られるが、それに特別な意味はない。実際に今の場合、z(t)についての方程式((5.2.12)式)の方がx(t)についての方程式((5.2.10)式)より扱い易いので(5.2.12)式を解くことにする。
 これを解くのに使うのが「代入法」とよばれる方法である。代入法は(5.2.12)式の右辺をヒントにして、その解の形を推測する。今の場合、(5.2.12)式の右辺に似せたz(t)= Aeiωtが(5.2.12)式の解になっている可能性を考える。定数 Aは決めないでおいて、これを(5.2.12)式に代入し、 z(t)が(5.2.12)式を満足するように Aを決めることができれば、その Aを持つz( t)が解になるという論法である。<5-149> deiωtdt= eiωt、<5-150> d2eiωt dt2=-ω2e iωtを使ってzを代入した計算を行うと、もしA

<5-151> (5.2.13) A=fω 02-ω2+iωγ

であればz(t)=Ae iωtが(5.2.12)式を満足し、その解になることがわかる。(5.2.13)式右辺の分母に iのあることからわかるように Aは複素数であるから、それを大きさ(a)と偏角()(後で便利になるので“-”をつけておく)を使って A=ae- と書くことが出来る。複素数の節で学んだ(2.6.5)式にしたがって、(5.2.13)式右辺に含まれる実定数 (f,ω0,ω ,γ)を使ってAの大きさ aと偏角φを表すと、それらは

<5-152> (5.2.14)  a=f(ω02 -ω2)2+4γ 2ω2tanφ =2γωω02- ω2 または φ=tan-12γω ω02-ω2

で与えられる。このときz(t)=A eiωt

<5-153> (5.2.15) z(t)=a ei(ωt-φ)

である。求める特解x(t)はこの z(t)の実数部であるから、 ei(ωt-φ )=cos(ωt-φ)+isin (ωt-φ)より

<5-154> (5.2.16) x(t)=a cos(ωt-φ)

となる。
 強制減衰振動を表す(5.2.10)式の解は、すでに知っている減衰振動を表す同次方程式の解((5.2.9)式)と上で求めた特殊解の和であるから、よって(5.2.10)式の解は

<5-155> (5.2.17)  y(t)=e- γtC1e γ2-ω02t+ C2e-γ2- ω02t + acos(ωt-φ)

となる。ここでaφは(5.2.14)式で与えられる。


[1] もしq(y )0なら、(5.1.6)式の両辺を q(y)で割ることはできない。その時には(5.1.6)式の右辺が0となり、したがって(5.1.6)式は、 xで微分を実行した時に 0となるyを求める問題に帰着する。よって、そのような yは任意の定数であり、方程式を解くまでもなく解が求まる。この定数は微分方程式と独立に与えられた他の条件によって定められる。