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第七章 実践的な積分法

 第四章「不定積分と定積分」§1「不定積分」で与えたような簡単な関数の不定積分を手掛かりに、様々な方法を使ってさらに複雑な関数の不定積分を求めることができる。そのときに最も普通に使われる手段が「置換積分」と「部分積分」である。複雑な関数の不定積分はこれらを組み合わせて求められる場合が多い。


§1. 置換積分と部分積分

 最初に「置換積分」を説明する。

置換積分
 いま関数f(x)が与えられたとき、その不定積分を

<7-1> (7.1.1) F(x)=f (x)dx

とする。復習のために繰り返すが、(7.1.1)式は、F(x) は「xで微分をすると f(x)となる関数、すなわち dF(x)dx=f(x)」ということである。ところが、与えられたf(x)から右辺の不定積分を求めようとしてもf(x)が複雑で、基本的な関数の不定積分からそれを簡単に推測できない場合がある。そのようなときにまず考えるのが「置換積分」である。
 「置換積分」は第二章「§5.偏微分」で学んだ合成関数の微分を利用する。すなわち、適当な関係式 x=g(y)によって、今積分を実行しようとしている変数xと関係した変数 yを導入する。そして、(7.1.1)式の右辺に含まれる f(x)を変数が yとなるように書き換えて、

<7-2> (7.1.2) f(x)=f( g(y))

とする。また(7.1.1)式の右辺の微小量dxは第二章(2.2.2)式から

<7-3> (7.1.3) dx=dxdydy =dg(y)dydy

であるから、(7.1.1)式は

<7-4> (7.1.4) F(x)= f(g(y)) dg(y)dydy

であることがわかる。もしxを変数とする(7.1.1)式の積分が困難であり、 x=g(y)によって置き換えられた(7.1.4)式の右辺の積分が容易であれば、これを実行してF(x )を得てもよい。これが「置換積分」の公式である。ただし、(7.1.4)式右辺は yの関数 f(g(y)) dg(y)dyの不定積分であるから、もしそれが実行できて結果が得られとしたら、その結果はyの関数である。したがって最後に y=g(x)を使ってその結果を xの関数に戻さなければならない。
    まとめると、「置換積分」を実行するには以下の3つの手続きにしたがう:

  • ① f(x)を、 xx= g(y)によって関係したyを使って表す。これによってf(x)f(x)f g(y)と、結局は yの関数になる((7.1.2)式)。

  • ② 積分記号のなかにある微小量dxを、対応する yの微小量dyを使って表す。これによって、dxdx=dx dydyとなる((7.1.3)式)。

  • ③ もし考えている積分が定積分なら、xに対して指定された積分の上限と下限を対応するyの上限と下限に変更する。
 ①に関しては、x=g(y)の関係を使ってxyで表すだけであり、それほどむずかしくはないが、②に関しては多少説明を要する。
 積分の変数を変えた時、同時に微小量を変えるのは、いわば目盛単位の違った物差しを換えた時に単位の違いを考慮に入れるようなものである。例えば二人の人物A Bが与えられた物差しを使って同じ物体の長さを測り、その結果を Cに報告することを考える。
 いまAに目盛単位が [mm]の物差しが与えられ、Bに目盛単位が[cm]の物差しが与えられたが、二人は互いの物差しの目盛単位が違うことを知らなかったとする。
 最初にAが物体の長さを測り、次いで Bがその長さを測った。その結果、 「Aが測った物体の長さは Aの物差し1目盛の 5倍」であり、「 Bが測った物体の長さはBの物差しのちょうど 1目盛」であった。 ABはその結果を Cに報告したが、二人とも互いが同じ目盛単位の物差しを使ったと思い、単位を言わずに数値だけをCに報告した。数値を聞いた Cも二人が異なる目盛単位の物差しを使ったとは思わずに、 「AB は違う物体を持っており、Aの物体は Bの物体より5 長い」と結論した。
 もちろん、二人が長さを報告した物体は同じ物体である。Cに誤った結論を出させないためには、二人は数値とともに自分が使った物差しの目盛単位をCに告げ、Cは単位が同じになるよう数値を換算しなければならなかったのである。すなわちC Bが報告した数値を10倍し、それを Aの数値と比べなければならなかったのである。
 積分の変数を換えることは使っている物差しを異なる目盛単位を持つ物差しに取り換えるのと似ていて、微小量 (dxdy )も変数によって大きさが異なり、変数を変える時にはそれらの微小量も換算しないといけない。どのような調整を行えば良いかはxyの関数関係で決まる。具体的には(7.1.4)式を得る過程からわかるように、ΔxΔyと、Δy= dydxΔx、またはΔx= dxdyΔyによって関係づけられるから、 dxも変数変換によって

<7-5> (7.1.5) dx=dxdydy

で置き換えられなければならない。これが(7.1.3)式の意味である。今の場合は、x yを使って表されているので dxdy yの関数であり、それが積分される量に余分に現れるのが置換積分の特徴である。(7.1.5)式の関係は後節(§5の副節「面積分と変数変換」)の多変数を含む積分の変数変換に現れる「ヤコビアン」とよばれる量の最も単純な場合と考えてよい((7.5.23)式、(7.3.25)式、(7.3.31)式、(7.3.32)式、参照)。
 ③の積分領域の変更に関しては定積分を行うときにだけそれが必要になるので、後に与える定積分の具体例で示す。
 いくつかの実例で「置換積分」の有用性を示そう。これから与える例の結果は今後も利用する。

  • 【例1】 まず、置換積分の感覚をつかむために、簡単な不定積分( x3dx)を使って置換積分の道筋を実際にたどってみる。もちろんこの結果は(x3dx= x44)である。ただし (xdx=x 22+C) (Cは積分定数)であることが分かっているものとする。
     この関数(f(x)= x3)に対して、xの代わりに y=x2で関係する yをあらたな積分変数に選ぶ。(7.1.5)式の微分係数 dxdyを計算するために y=x2から yを使ってxを表わすとx=±yであり、 xは正にも負にもなり得るが、もし考えている xが正の値を持つ領域にあれば x=yxyの関係とし、xが負の領域にあればx=-yxyの関係としなければならない。したがってxが正の領域にあるときは dxdy=12 yであり、xが負の領域にあるときは dxdy=-12yであるから、したがって求める積分は、 xが正の領域にあっても負の領域にあっても、

    <7-6>  I=x3dx =±y 3±12y dy= 12ydy= 12y22 =y24 =x44

    と、xの符号に関係なく、すでに知っている結果が得られる。この最後の式で y=x2を使い変数を元の xに戻したが、y =x2であると明確に与えておけば、結果を元の変数に書き換える必要は必ずしもない(しかしながら、面倒でないなら、結果を元の変数で表すことをすすめる)。

  • 【例2】 置換積分を行なっても、与えられた関数のままでは積分を簡単に実行できないが、適当な公式を使って関数の形を変えると置換積分が実行できるようになる場合がしばしばある。そのような例として、前節の積分公式表に与えた f(x)=sin2 xの不定積分を置換積分を使って実行する。
     これを行うためには正弦(サイン)関数と余弦(コサイン)関数の「倍角公式」を知らないといけない。それらは

    <7-7> (7.1.6)  sin2x=2sinxcosx cos2x=cos2x-sin2 x =2cos2x-1 =1-2sin2x

    である。最下段にある余弦(コサイン)関数に対する公式より

    <7-8> (7.1.7) sin2x=1 2(1-cos2x)

    であるから、考えている積分は

    <7-9>  I=sin2xdx =12 1-cos(2x) dx =121dx- cos(2x)dx

    と書き換えられる。この一項目の不定積分1dxは簡単で結果は xであるが、二項目の不定積分は簡単にはわからない。そこで二項目で 2x=yとして積分変数を xからyに置換する。x=y2であり、したがってdxdy=12であるから

    <7-10> cos (2x)dx=cosydxdy dy =12cosydy =12siny =12sin2x

    となり、したがってI

    <7-11> I=x2- 14sin2x

    となるので、確かに前節の積分公式にある結果が得られる。

  • 【例3】 最後に、前節で与えた積分公式で最も面倒と思われる関数 f(x)=a 2+x2の積分を置換積分を使って実行する。これは、変数の一回の置換では積分が簡単に行える形が現れず、再度置換を行ってやっと積分が実行できる形になる例である。物理ではこのような場合がとても多く出てくるので、この程度の面倒な手続きを避けてはいけない。その例として、少し煩雑ではあるがこの積分を行なうことにする。
     行うべき積分は

    <7-12> (7.1.8) I=a2 +x2dx

    である。
     まず、三角関数の公式を少し知っていると、積分変数をx=a tanyの関係を使って変数yに置き換えると関数の形が簡単になりそうな気がする。もっとも、このようにすると上手く行くと最初からすぐに気がつく人はどこにもいない。何度も同じようなことを繰り返し、思考錯誤を繰り返し、すべて経験的に知ることである。将来数学や物理学を必要とする仕事をしたければ、ゲームと思ってよいから難しそうな積分の公式を証明する訓練を自ら多く行い、できるだけ多くの経験を積むことである。
     さて、(7.1.8)式の積分にもどる。積分をしようとする関数にx=a tanyの置換を行うと、三角関数の公式で

    <7-13> 1+tan2y= 1cos2y

    であるから

    <7-14>  a2+x2 =a1+tan2 y =acosy

    となり、さらに

    <7-15>  dxdy=adtanydy =acos2y

    であるから、求める積分(7.1.8)式は

    <7-16> I=a2 1cos3ydy

    となる。これでもまだ積分が簡単に求まる形ではないから、さらに変数yz=sinyで関係する zに置換する。そうずると cosy=1-z2 であるから、この置換によって積分される関数部分は

    <7-17> 1cos3y=1 (1-z2)3

    であり、また

    <7-18>  dydz=1dzdy =1cosy =11-z2

    であるから、積分は

    <7-19>  I=a21(1 -z2)31 1-z2dz =a21(1 -z2)2dz

    となる。右辺の積分される関数は

    <7-20>  1(1-z2)2 =12(1 1+z+11-z) 2=1 41(1+z) 2+1(1-z)2 +21-z2

    と変形できる。最後の式のかっこ内一項目と二項目は簡単に積分が実行でき

    <7-21>  1(1+z)2dz +1(1-z)2 dz=-11+z+1 1-z= 2z1-z2

    である。三項目21 -z2は、積分される関数をさらに

    <7-22>  21-z2=1 1-z+11+z =1z+1-1z -1

    と書き換えれば、それぞれが簡単な不定積分を持つ形に帰着するので、それに対して積分を実行すると三項目の積分は

    <7-23>  21-z2dz= 1z+1dz-1 z-1dz =ln|z+1|-ln|z- 1|=ln z+1z-1

    となる。以上をまとめると求める不定積分I

    <7-24> I=a24 2z1-z2+ a24lnz+ 1z-1

    となる。
     最後に変数zを元の変数 xで表さないといけない。x=atan yでありz=sinyであったから、

    <7-25>  x2=a2sin2 ycos2y = a2z21-z 2

    であり、これからzx で表すと

    <7-26> z=xa2 +x2

    である。よって

    <7-27>  2z1-z2= 2xa2+x2 a2 z+1z-1= (a2+x2+x )2a2

    となる。これを(7.1.8)式に代入すれば、最終的に

    <7-28>  a2+x2dx= x2a2+x2 +a22ln a2+x2+x- a22lna

    と、表に与えた不定積分と同じ結果が得られた。


 以上の具体例で、なかなか積分が出来そうにない関数の積分を置換積分を利用して行うということがどのようなことであるか、その様子が分かったと思う。あとはこれを参考にして色々な積分に挑戦することである。

部分積分
 様々な関数の積分を実行するために、単独に、あるいは置換積分と組み合わせて用いる非常に有用なもう一つの積分方法に「部分積分」がある。それは導関数の節で与えた二つの関数の積に対する微分公式

<7-29> (7.1.9) df (x)g(x)dx= df(x)dxg(x)+ f(x)dg(x)dx

を利用する方法である。最初に、これを使って「部分積分」の公式を導き、それからその公式をいくつかの例題に使ってみる。
 上式の両辺はxの関数なので、その xに関する不定積分を考えることができる。左辺の不定積分 d{f(x) g(x)}dxdxは 「xで微分すれば d{f(x)g(x)}dx となる関数」であるから、それはf(x)g (x)そのものである。したがって(7.1.9)式の両辺にある関数の xによる不定積分は

<7-30> f(x)g(x) =df(x)dxg(x )dx+f(x)dg(x )dxdx

である。これを、項を入れ替えて

<7-31> (7.1.10) f(x) dg(x)dxdx=f(x) g(x)-df(x) dxg(x)dx

とした式が「部分積分の公式」である。使い方は以下に与える例題で理解できるであろう。
 部分積分の公式を利用すると、とても簡単に積分が実行できる例を二つあげよう。

  • 【例題1】 次の不定積分を求めよ。

    <7-32> I=xcosxdx

  • 【例題1の解】 (7.1.10)式でf(x) =x、およびdg(x )dx=cosxであるとする。そうすると、(7.1.10)式の右辺に現れる df(x)dxg(x)は、 df(x)dx =1およびg(x) =sinxである。したがって(7.1.10)式をこれらに代入し、右辺第二項目の簡単な不定積分を実行すれば、

    <7-33>  xcosxdx=xsinx-sin xdx =xsinx+cosx

    と、要求された不定積分が得られる。

  • 【例題2】 次の不定積分を求めよ。

    <7-34> I=xlnxdx

  • 【例題2の解】 (7.1.10)式でf(x)= lnxおよびdg(x) dx=xであるとすれば、その右辺に現れる df(x)dx=1xおよびg(x)=x2 2であるから、(7.1.10)式は

    <7-35>  xlnxdx=x22lnx -1xx22dx =x22lnx-12 xdx =x22lnx-x2 4

    である。

 部分積分の公式の使い方と、それがかなり有用な公式であることはこれで理解できたのではないかと思う。部分積分から得られた不定積分の変数に(7.2.7)式にしたがって、指定された上限値と下限値を与えれば定積分の値が得られることは言うまでもない。


§2. 線積分

 第四章§2で、

定積分baf(x )dxは不定積分f(x )dxによって与えられるxの関数 F(x)が、 xbから aまで変わるときどれだけ変わるかを表す量

<7-36> (7.2.1) baf( x)dx=F(a)-F(b)

であるとした((4.2.1)式)。詳しくは説明しないが、ba f(x)dxにはもともと「 x=bからx=a までxをわずか( dx)変えながらf(x)dxを加える」という意味があるので、そのことから結論される結果である。「わずかな大きさずつ変えながら」に意味があるが、それは数学の「解析学」で学んでもらいたい。
 一般に、空間内の曲線上の一点一点で値を持つ関数を(時にはそれに「おもみ」とよばれる量をかけて)その曲線に沿って足し上げたものを「線積分」という。その意味で、§2で与えた「定積分」は関数f(x )x軸上で行なわれる「線積分」であると考えてもよい。しかし通常「線積分」という場合には、空間内におかれた曲線に沿っての積分を意味する。
 その中でも「物理学」で特に重要な線積分は、空間の一点一点で値と方向を持つベクトル量 A(r)Cと名付けられた曲線に沿って、その接線方向の大きさを少しずつ加える線積分で、

<7-37> (7.2.2) I=CA (r)ds

のような形をしている。記号Cは線積分を曲線 Cに沿って実行することを意味している。
 dsについては少し詳しい説明が必要である。どのような複雑な曲がりくねった曲線も適当な長さの線分をつなげて描くことができる。一般に、となり合う二つの線分は接続点で向きを変えるので、元の曲線が持つ滑らかさがそれで失われるように思うかもしれない。しかし、スクリーンや紙面上の画像や文字が小さな点の集まりで作られていてもそれにまったく気づかないのと同じように、線分の長さを十分短くすればその不自然さは認識できなくなる。(7.2.2)式右辺の dsCを形成するそのような短い線分である。一般に Cは曲がりくねった曲線であるため、それを形成する線分も次々と方向を変えなければならない。そのため線分は一般にすべて異なる方向を持つ。したがって線分はベクトルで表される。つまり、ベクトル dsの大きさは曲線 Cを形成する線分の長さで、方向はその点における曲線の接線方向である。
 (7.2.2)式の形をした線積分は「物理学」でとても多く現れ、それぞれ非常に重要な役割を果たす。一般に、ベクトル A(r )

<7-38> (7.2.3) A(r )=iAx(x ,y,z)+jAy (x,y,z)+kA z(x,y,z)

で与えられ、またds

<7-39> (7.2.4) ds=i dx+jdy+k dz

と書ける。ここで(dx,dy,dz) dsのそれぞれ (x,y,z)方向への射影であり、第三章「§2.ベクトルと行列」で学んだ「内積」を使って

<7-40>  dx=(ids) dy=(jds) dz=(kd s)

と書くこともできるが、この表現は必要ない。
 (7.2.3)式と(7.2.4)式を使って(7.2.2)式をていねいに書くと

<7-41> (7.2.5) I=CA x(x,y,z)dx+ CAy(x,y,z)dy +CAz(x,y, z)dz

である。くりかえすが、dsC上の短い線分であって、その間は A(r )の方向も大きさも変わらないと考えてよい。
 線積分がどのように計算されるか実例を挙げて説明しよう。簡単のために線積分を行う曲線が (x-y)平面にあると考える。そうすると A dsz成分は考えなくてもよい。次の練習問題にある線積分を計算する。

  • 【練習問題】 「力学入門」を学ぶと原点と平面上の点(x ,y)を結び、長さが1で原点から離れる向きを向く位置ベクトルの単位ベクトルが出てくるが、それを位置ベクトル( r=ix+j y)を使って表すと

    <7-42> (7.2.6) er= rr=i xr+jyr

    と表されることを知る。ここでr=x2 +y2である。今はこのことを知っているものとする。もしA(r )

    <7-43> A(r )=erx

    で与えられるとして、(x-y)面内の曲線 y=xに沿って x=0から x=3まで(したがってy=0 からy=3まで)線積分 A (r)ds を行え。

  • 【解】 (x-y)面内におけるこの積分の経路である与えられた曲線を7.2.1図に示し、その下でそれがどのような図であるかを詳しく説明している。今の場合、 xyも正の値しか取れないために、図には正の部分しか描かれていない。

    (図7.2.1)【線積分例題の積分経路】

    【(図7.2.1)の説明】 紙面下方にx軸を表す水平な直線が描かれ、紙面左側にそれと直角に交わるy軸を表す垂直な直線が描かれている。それら直線の右先端と上先端には右向きおよび上向きを表す矢印がついている。紙面左下で交わる二直線の交点(原点)から右上方に凸の滑らかな曲線 y=xが描かれている。描かれた曲線上で原点から 1/3くらいのところに dsを表す矢印のついた短い線分が曲線に重ねて描かれており、その少し上にそれがベクトルであることを示す文字ds が記されている。曲線上に描かれた小線分ベクトルの始点からx軸と y軸に向かって点線で表された垂線が降ろされている。 x軸に降ろされた垂線の足の下にその点の x座標を表す文字x が記され、垂直なy軸に降ろされた垂線の足の左にその点の y座標をxで表したxが記されている。曲線の右上方、描かれた曲線の終点近くの点からx軸に向かって点線で垂線が降ろされ、その足の下にxの積分の上限値を表す3が記されている。

       次のように考える。この問題で曲線は(x-y) 面にあるから、dsAを直交座標で ds=i dx+jdyA=i Ax+jAyのように表すことが出来、したがって求めるべき積分をI={ Axdx+Aydy}と書くことが出来る。ここで、A(r )=erxであるから Ax=xr xAy= yrxである。
     曲線y=x上の点 (x,y)までの距離 r=x2+ y2は、y= xであるからr=x (x+1)=xx +1である。ゆえに、A xAy

    <7-44>  Ax=xxr= xx+1 Ay=yxr= yx+1=y y2+1

    である。積分の区間はx=03であり、指定された積分の曲線y=x上で yy= 03と変わるから、よって求める(7.2.4)式の積分は

    <7-45> I=03x x+1dx+ 03yy 2+1dy

    を計算すれば良いことがわかる。二つの積分を

    <7-46>  I1=03 xx+1dx I2=0 3yy2+1 dy

    として積分を実行する。まずI2から始める。あらためて y=xを使って積分変数を yからxに変換する。y=x であるから、 I2の中にある微小量 dyxの微小量 dx

    <7-47> dy=dydxdx =12xdx

    によって関係する(「2.2 導関数」のまとめ6参照)ので、yxで置き換えると同時に dy1 2xdxで置き換える。このとき yに対する積分区間の下限 (0)と上限(3)xに対する積分区間に読み換えなければならない。関係 y=x を使ってこの読み換えを行うと、下限のy=0 x=0に読み換えられ、上限のy= 3x=3に読み換えられる。したがってI2

    <7-48> I2=03 xx+11 2xdx =12 031x+1 dx

    となる。
     I1 I2の定積分を得るには、それらの不定積分が必要になる。先に与えた積分表を使い、部分積分を利用すればそれらの不定積分が

    <7-49>  xx+1dx =23(x+1)3 /2-2(x+1) 1/2J1(x) 1x+1dx= 2(x+1)1/2 J2(x)

    と得られる。したがって

    <7-50>  I1=J1(3)-J 1(0)=83 I2=12[J2( 3)-J2(0)]=1

    を得るから、最終的に求める線積分I

    <7-51>  I=I1+I 2=113

    となる。

 繰り返すが、線積分は物理学できわめて重要な役割を演じる。その重要さを理解するために、上の練習問題で使った関数と似ているが、さらに簡単な関数(A=i x+jx)を使って (x-y)面の点 (0,0)から点 (1,1)まで、 二つの異なる経路に沿った、二つの線積分を考える。二つの異なる経路は以下に与えられる。念のために記しておくが、Ay成分(j の係数)がxであるのは間違いではない。

【第一の経路C1に沿う線積分】

 最初の経路は直線y=xに沿った経路である。この経路上を点 (0,0)から点 (1,1)まで(7.2.2)式(またはdz=0とした(7.2.4)式)の積分を行う。 ds=i dx+jdyであるから、この経路上の (x=01,y= 01)の積分は

<7-52> I1=C 1Ads= 01xdx+01 xdy

である。1項目の不定積分は簡単で xdx=x22である。2項目にあるxは、積分の経路がいつも直線y=x上にあることから yに等しい。したがってその不定積分は xdy=ydy であり、y22 である。よってI1

<7-53>  I1=01xdx+ 01ydy =x 2201 +y22 01=1

である。ここで記号[]ab を用いたが、これは括弧内にある関数(変数をxとする)が x=bの時に持つ値から、 x=aの時に持つ値を引いた量を意味する。したがって今の場合は、たとえば1項目では x22x =1に対する値12から x=0に対する値 0を引いた12である。

【第二の経路C2に沿う線積分】

 同じ(A=i x+jx)に対して、今度は (x-y)面上にある y=x2の放物線に沿って、点 (0,0)から点 (1,1)まで同じ (x=01,y =01)の線積分を行なう(二つの点が放物線上にあることに注意せよ)。この経路上での積分は

<7-54>  I2=C2A (r)ds = 01xdx+01 xdy

であるが、y=x2より二項目の xx= yなので、したがって

<7-55> I2=0 1xdx+01y dy

となる。1項目の不定積分は xdx=x222項目の不定積分は ydy=23y3 /2であるから、

<7-56>  I2=x2 201 +2 3y3/2 01 = 76

となりI1と異なる結果が得られる。
 このように、同じ関数を積分しても線積分の経路が異なると、一般にその結果も異なる 。ところが世の中には、どのように経路を変えて線積分を行っても、その結果が経路の始点と終点だけで決まるような関数、言い換えると、

始点と終点が同じでありさえすれば、どのような経路に沿った線積分を行っても、線積分の結果が同じになる関数が存在する。

ここではその意味を詳しく説明することはできないが、もし自然界のすべてを支配する自然原理があるとすれば、それはこのことと密接に関係しているとだけ述べておく。
 物理的な意味には立ち入らずに、線積分が経路によらず同じ結果を与える数学的な意味だけを考えよう。上の例で扱った関数を一般化し A=i P(x,y)+jQ( x,y)であるとして、線積分が

<7-57> (7.2.7)  I=CAds = CP(x,y)dx +CQ(x,y)dy

であったとする。もしP(x,y)Q(x,y)の間に

<7-58> (7.2.8) P x,yy= Qx,yx

の関係があれば、(7.2.7)式の線積分は経路Cによらず、その始点と終点だけで決まる。これを「グリーンの定理」という。(7.2.7)式右辺の積分が二つある変数( x,y)のどちらの変数での積分か、(7.2.8)式の微分がどちらの変数での微分であるかに十分注意せよ。証明は与えないが実例を使ってこのことを確かめる。

【グリーンの定理が成り立つことを示す例】

いまA=i xy2+jx2y であるとする。このときPx ,y=xy2Q(x,y)= x2yであるから、

<7-59>  P(x,y)y =2xyQ( x,y)x=2xy

なので(7.2.7)式で与えられた関係式P y=Qx が成り立つ。よって「グリーンの定理」にしたがえば、線積分はどのような経路をたどっても同じ答えになるはずである。そのことを先の例に使った二つの経路、すなわち一つはx=yの直線 (C1)、一つは y=x2の放物線 (C2)に沿う線積分を実行して確かめることにする。

(経路C1の場合) 経路C1の直線 y=x上を点 (0,0)から点(1 ,1)までA =ixy2+j x2yの線積分を行う。この経路上の積分は

<7-60>  I1=C1A ds = C1Axdx+ C1Aydy = 01xy2dx+ 01x2ydy

であるが、C1上では y=xであるから、一項目では yxで置き換え、二項目ではxyで置き換えると

<7-61>  I1=01x3 dx+01y3dy = x4401 +y 4401= 12

となる。

(経路C2の場合)経路 C2である y=x2の放物線上を点( 0,0)から点(1, 1)まで積分する。この経路での積分は

<7-62>  I2=C2A ds = 01xy2dx+ 01x2ydy

と、I1と同じように思えるが、積分を行う経路が異なる。しかしながら、この場合の経路C2上では y=x2であるから、一項目では yx2 で置き換え、二項目ではx2yで置き換えて積分を行うと

<7-63>  I2=01x5 dx+01y2dy = x6601 +y3 301= 12

となって、この関数を使った線積分の結果はI1と一致し、確かに「グリーンの定理」と矛盾しない結果が得られる。

 「グリーンの定理」の証明は行わないと書いたが、以下にその証明を簡単に与えておく。むずかく感じれば飛ばして先に進んでさしつかえない。証明には以前((3.1.11)式と(3.1.13)式で)与えた以下の定理を利用する。

【定理】 xy の関数P(x,y)および Q(x,y)に対し、 ΔxΔyが十分に小さな量であるとき、それをdx dyと書くと、もし

<7-64> (7.2.9) P(x,y )y=Q(x, y)x

の関係が成り立てば、その全微分が

<7-65> (7.2.10) df(x,y)= P(x,y)dx+Q(x,y )dy

となる関数f(x,y)が必ず存在する。

 「グリーンの定理」の条件(7.2.8)式はこの(7.2.9)式に対応する。ここで証明するのは、この PQを成分に持つベクトル関数 Aの線積分が経路によらず、その始点と終点だけで決まることを示すことである。
 いま(7.2.10)式の両辺を(x,y)の値が (x1,y1 )から(x2,y 2)まで積分を行う。座標(x1 ,y1)をまとめてa と書き、座標(x2,y 2)をまとめてbと書けば、

<7-66> (7.2.11) abdf= abP(x,y)dx+ abQ(x,y)dy

である。

 左辺は簡単に積分ができ、b=(x2 ,y2)におけるf( x,y)の値とa=( x1,y1)における f(x,y)の値の差を与えるから、よってこの式は

<7-67> (7.2.12)  f(x2,y2)-f (x1,y1) = abP(x,y)dx+ abQ(x,y)dy

となる。この左辺は始点と終点におけるf(x,y )の値だけで決まり、その間がどのような経路で結ばれているかには関係がない。よって右辺の積分も積分経路の始点と終点だけでその値が決まることになり、「グリーンの定理」が証明された。
 実際に、線積分の例として最初にあげた関数<7-68>(A =ix+jx) の場合は<7-69>P(x ,y)=x、<7-70> Q(x,y)=x であり、したがって<7-71> Py=0、 <7-72>Q x=1であるので <7-73>P yQx となりグリーンの定理に合致しない。実際に示したように Aの線積分は経路によって異なる。その次の例<7-74> (A=ixy2 +jx2y)では <7-75>P(x, y)=xy2、 <7-76>Q( x,y)=x2yであり、 <7-77>P y=2xyかつ <7-78>Q x=2xyであるから <7-79>P y=Qx となり、線積分をどのような経路に沿って行っても、グリーンの定理によってすべて同じになる。実際に上例の結果は経路によらず同じ値であった。
 すでに述べたように、グリーンの定理が物理にもたらした結果の重要さを簡単に説明することはできない。ぜひ「物理学」の学習を通じてそれを実感してもらいたい。


§3. 面積分

 「物理学」で線積分と同じくらい重要な役割を果たす積分に、空間に置かれた曲面の上で関数値を(時にはそれに「おもみ」と呼ばれる量をかけて)足し上げる「面積分」がある。“曲面”という言葉が意味するように、関数の値が与えられる面は平面であってもよいが、一般には凹凸のある曲面である。面積分は一般に

<7-80> (7.3.1) A=Sϕ (x,y,z)dS

という形で与えられる。ここで、記号Sは積分が Sで指定される曲面上で行われることを表している。 dSS内にある任意の点(x,y,z) を囲んだ小さな面積で、その大きさはdSのなかならどこでも ϕ(x,y,z)が同じ値を持つと考えられる大きさである。したがってもしϕ(x ,y,z)の値が変わらないなら dSをいくら大きく選んでもよいし、少し位置を変えただけでϕ( x,y,z)が値を変えるようなら、 dSϕ(x,y,z )の値が変わらない程度に小さく取らなければならない。

【余談】 「関数ϕが一定とみなせる小面積」といった表現が数学の教科書にはよく出てくる。慣れないうちは、値がどの程度変わらなければ変化しないとみなしてよいのか判断できないであろう。そしてこの種の表現に何度か出合っているうちに、数学の教科書が面倒に感じ始める。その気持ちは分からないでもないが、具体的な状況が与えられなければ何が小さく何が大きいかを言うことはむずかしい。また同じ状況であっても、ある量を小さいとして扱わなければいけない場合もあり、同じ量を大きいとして扱わなければいけない場合もある。その意味が以下のたとえ話で分かるかもしれない。
 「短い」時間を表す表現に「瞬間」という言い方がある。人間がまばたきをするほど短い時間という意味である。つまり“まばたき”は我々が感じる短い時間の代表なのである。この時間は約0.1秒程度である。これがどのくらい短かい時間であるかを理解するために人の一生とこの時間を比べよう。
 計算を簡単にするため人の一生が100年であると考える。そうすると 0.1秒は100年の約 1億分の1程度になる。つまり人間は自分たちの一生に比べて1億分の 1程度の時間を短いと感じる感覚を持っており、それを「瞬間」という言葉で表現しているのである。
 話を変えて、我々が住む宇宙について考えよう。宇宙は今から137億年前に誕生した。仮に宇宙が“瞬きをする”として、その瞬きの時間もやはり宇宙の人生(?)の1億分の1であるとする。そうすると宇宙が“瞬く”時間は 137年であり、長寿の人の寿命とほぼ同じ長さになる。つまり、宇宙が一回“瞬く”間に人の一生が始まり終わる。言いかえると、人にとって長い一生でも、それは宇宙にとっては“またたく間”なのである。このように、何が短く(小さく)何が長い(大きい)かは、何を基準に考えるかによってとても違うことがわかるであろう。

 前節で空間内に指定された曲線Cに沿って実行する「線積分」を学び、この節では空間内で指定された曲面S上で行う「面積分」をこれから学ぶ。さらに後続の節では空間内で指定された立体領域V内で行う「体積分」を学ぶことになる。これらの空間内にある曲線、曲面、立体を指定するためには立体的な空間(三次元)座標系を使うのが便利である。三次元座標系を紙面上でもっともらしく描くことも可能だが、結局はどれも平面上の図であり、それから各自が頭の中で空間図を再生することになる。以下に、比較的頭の中で再生しやすい三次元座標系の紙面上における表現を与える。
 まず適当な長さの3辺を持つ立方体を想像する。立方体の頂点のどれか一つを三次元座標(x-y-z) 系の原点と考える。そして、その頂点から発する三つの辺を直交座標( x-y-z)系のx 軸、y軸、z軸とする。どの辺をどの軸に割り当てるかは、第六章で外積を説明するときに与えた次の「右手の規則」にしたがう。

  • 【右手の規則】
  • 右手”の薬指と小指を握ったまま、親指、人差し指、中指の三本の指を互いに直角となるように開く(厳密に直角でなくてもよいが、直角であると想像する)。このとき三本の指が交差する指の付け根を座標系原点とした立方体の頂点であると考え、三本の指をその頂点から発する立方体の三辺であると考える。このとき親指、人差し指、中指に対応する立方体の辺をその順にx 軸、y軸、z 軸とし、各指が向く方向を対応する軸の正方向とする。

 このように「右手の規則」にしたがって各軸を割り当てた三次元直交座標系を「右手系」という(ちなみに、左手を使って同じことを実行してできる三次元直交座標系を「左手系」という)。そして、もし(x, y,z)の正方向を向く単位ベクトル( i,j,k) が必要なら、それらはx軸、 y軸、z軸に沿った長さ 1のベクトルであるとする。別な言い方をすれば、始点を共有するベクトル (i,j ,k)は長さ 1の辺を持つ単位立方体の互いに直交する三辺である。三次元空間の図が与えられるときは、いつもこの右手系のなかに描かれた図であるとする。
 空間座標を使った例として、空間に与えられた面上で行なう面積分の比較的簡単な例題を以下に与える。
  • 【例題】 <7-81>(2x+2y +z=2)の関係を満足する( x,y,z)を三次元直交座標系内にある点の座標とすれば、それは脚注[1]で説明するように、一つの平面上にある。その面は原点からx軸上に長さ 1の点、原点からy軸上に長さ1の点、原点から z軸上に長さ2の点をつないだ三角形を含む平面である。この三角形の面は座標系の原点を直角の頂点とする直角三角錐の底面(三角形)でもある[2]。この面をSとする。S面に垂直で三角錘の外側に向いた単位ベクトル(Sの外向き単位法線ベクトルという)を nとするとき、 (rn )にそれを囲む小さな面積dSをかけた量を S面上で足し上げた(積分した)

    <7-82> I=S(r n)dS

    を求めよ。ここでdSはその内部で (rn)が変わらないとみなせる程度の大きさであり、x軸、 y軸、z軸に沿った単位ベクトルが i jkであるとき<7-83>(r= ix+jy+k z)である。

  • 【解】 (2x+2y+ z=2)の表す面Sx軸、y軸、 z軸と交わり原点O を直角の頂点とする直角三角錐の底面(三角形)を形成することは脚注[2]でくわしく説明されている。面Sが各軸と交わる点の座標は次のようにして求められる。たとえば(2x+2y +z=2)y =z=0とすればx= 1となるが、この点A(1,0,0)x軸上にあり、同時にS 上にもあるから、したがって点Aは面が x軸と交わる点の座標を与える。同様に、 z=x=0として面 Sy軸と交わる点Bの座標、 x=y=0として面Sz軸と交わる点C の座標を求めると、B(0,1,0)C(0,0,2)となり、 (A,B,C)3点を結ぶと三角形 ABCができる。
     次に、この三角形の面に垂直でOから外向き単位法線ベクトル nを求める。そのために次のベクトル積(外積)の性質を利用する:

    •  【ベクトル積(外積)】 二つのベクトルabの外積 [a×b ]はベクトルであり、その方向は「右手の規則」にしたがう。すなわち、直角に開いた右手の親指と人差し指を a bに対応させるとき、[a ×b]の方向は中指が向く方向である。

     AO から1離れたx 軸上にある点であるから、Oから Aに向かうベクトルは x軸上の単位ベクトルiに他ならない。同様にBO から1離れたy 軸上にある点であるから、Oから Bに向かうベクトルは y軸上の単位ベクトルjそのものである。そこでAから Bに向かうベクトル(辺ABに沿ったベクトル)を aとすると、 i+a =jであるから、 a=-i+j となる。
     同様にOから Cに向かうベクトルは2k である。したがってBから Cに向かうベクトルを bとするとj +b=2kであるから、 b=-j +2kである。
     以上からabをまとめて与えると
    <7-84>    a=-i+j b=-j+2k
    となる。
     a bの外積は考えている面に垂直なベクトル nと同じ方向を向くベクトルを与える。それが nと違うのは、[a ×b]の長さ(大きさ)は一般に 1でないことである。それと同じ向きを持ち長さが 1のベクトル(単位ベクトル)を望むなら、そのベクトルに適当な数をかけて長さを1とすればよい。このベクトルの長さを 1とする手続きをベクトルの「規格化」という。
     規格化を実行して三角形ABC面に垂直な単位ベクトルを作ろう。 (i,j ,k)に対する積の規則(3.3.2)式を使い、外積で掛け算の順番を変えるとその符号が変わることに注意しながらa× b=(-i+j )×(-j+2k )を注意深く計算すると、
    <7-85>  a×b=(-i )×(-j)+( -i)×(2k) +(j)×(-j )+(j)×(2k ) = k+2j+2i
    となる。このベクトルの大きさは<7-86>| 2i+2j+k |=22+22 +11=3であるから、 a×b 3で割ってその大きさを 1にすると(規格化を実行すると)望んでいるn が得られる。すなわち、考えている面に垂直な単位法線ベクトルは

    <7-87> (7.3.2) n=1 3(2i+2j +k)

    である。
     これでnは求められたが、点 C(0,0,2) と点A(1,0,0 )を結ぶ辺を表すベクトルc =-i+2kaの外積を計算して、それを規格化しても同じ nを得ることができる。上のやり方のまねをして、このことを各自で確かめてもらいたい。

 実は、ある面の単位法線ベクトルを求めるためにここで行った一連の方法は次のように公式化されている。

f(x,y,z) =0が表す面の単位法線ベクトル】  f(x ,y,z)=0が空間に作る面上にある点 (x,y,z)における単位法線ベクトルは

<7-88> (7.3.3) n(x, y,z)=f(x,y ,z)|f(x,y, z)|

である。右辺の分子が面上の点(x,y,z )における面に垂直なベクトルであり、それを大きさで割り規格化することによって単位法線ベクトルを作っている。 fが変数を一次で含めば面は平面であり、法線ベクトルは面上のどこにあっても同じ方向を向くが、fが二次以上の変数を含む時は曲面となり、考えている点が面上のどこにあるかによって法線ベクトルは一般に異なる方向を向く。今後は証明なしに(7.3.3)式を公式として用いることにする。

 試しに、上の例題で要求された単位法線ベクトルをこの公式を使って求めてみよう。面の方程式は <7-89>f(x,y,z )=2x+2y+z-2=0 であったから、その勾配(ナブラ)は

<7-90>  f(x,y,z) = ix +jy +kz 2x+2y+z- 2=2i +2j+k

であり、面は平面であるから、確かに平面を表す方程式の勾配は面上のどこでも同じ方向を向いたベクトルを発生する。このベクトルの大きさは <7-91>|f( x,y,z)|= 22+22+12 =3であり、それを使ってベクトル f(x,y,z)を規格化し、(7.3.3)式にしたがってnを求めれば(7.3.2)式と同じ結果が得られる。
 さて本題にもどり、次の段階に進む。次は問題で与えられた関数<7-92>( r=ix+j y+kz)nとの内積を作ることである。これは簡単に実行できる。直交する単位ベクトルの内積は0であるから、 (rn )をていねいに計算すると
<7-93>  rn=(i x+jy+kz )13(2i+2 j+k) =2x+2y +z3
が得られる。
 要求された積分は、これをS面上で積分すると得られる。 S面上では3変数 (x,y,z)の間に関係 <7-94>(2x+2y+ z=2)が成り立っているので、 (x,y,z)のどれか二つの変数を与えれば他の一つが定まる。言い換えると独立な変数は二つなので、今それをxyに選ぶことにする。そうすると、 xyを与えれば <7-95>(z=2-2x -2y)によってzが定まるから、 S面上にあるr nの中のz (2-2x-2 y)で置き換えると、<7-96> rn=23 と定数になる。したがって、求める積分はこの定数にS面 (三角形ABC)の面積を単にかけるだけでよい。
 そこでABCの面積を計算する。一般に、座標が (x1,y1 ,z1)(x 2,y2,z2)の二点を結ぶ線分の長さは<7-97>(x1- x2)2+(y1 -y2)2+( z1-z2)2 で与えられるから、ABCの頂点の座標A(1,0,0) B(0,1,0 )C(0, 0,2)から各辺の長さを計算すると、 AB¯=2 BC¯=5CA¯=5 を得る。したがってABCは二辺(BC¯CA¯)の長さが 5で底辺の長さが 2の二等辺三角形であるから、その面積を計算して 32を得る。よって求める積分I23にこの面積をかければよいから、
<7-98> I=23×3 2=1
となる。

 【線積分と面積分とストークスの定理

 「物理学」で出てくる物理量の多くは空間の一点の座標を与えることによって値が決まる関数であり、そのような関数に対して、ある長さを持つ線上で行われる「線積分」、境界線で囲まれた面内で行われる「面積分」、境界面で囲まれた体積内で行われる「体積分」が時に応じて必要になる。前節では関数値を「ある曲線に沿って行われる線積分」、「ある面内で行われる面積分」と二つの型の積分を学んだ。この節と次節では線積分と面積分の間に成り立つ「ストークスの定理」と、面積分と体積分の間に成り立つ「ガウスの定理」を学ぶが、いずれも物理学では非常に重要な定理である。
 最初に「線積分」と「面積分」を関係づける「ストークスの定理」について学ぶ。「ストークスの定理」は物理学で「エネルギーの保存則」を理解する時に必要になる。
 「ストークスの定理」は、ベクトル関数A (x,y,z)に対し「閉じた経路(たとえば円のように経路の始点と終点が同じ経路)」C上で行われる線積分を、 Cを境界とした面上で行われる面積分に関係づける定理である。 Cが境界でありさえすれば、それが囲む面がどのような形をしていても面積分の値は同じになる。
 「ストークスの定理」の具体的な表現は

<7-99> (7.3.4) CA (r)ds= SrotA (r)ndS

である。ここでCは空間内にある一つの閉じた経路を表し、右辺の rotA (r)n[rotA(r )]n(r )の意味、すなわちベクトルrot A(r)の点 rにおける面に垂直な方向の成分である。また r=i x+jy+kz であり、左辺のdsC上に作った小線分を表すベクトルで、方向は積分が進む方向(その点における曲線の接線方向)に一致し、その長さの間には A(r)の方向も大きさも変わらないと見なせる程度の大きさを持つ。また右辺の SCを境界とする面上の面積分を表し、Cが境界である限り、それが平らな面であっても、盛り上がっていても、くぼんでいても、凹凸があっても構わない。dSはその面上に取った 小面積で、そのなかではA (r)の向きも大きさも変わらないと考えてもよい程度の大きさを持つ。さらにn(r )S上の点 rにおける面に垂直な単位法線ベクトルである。 n(r )の方向は線積分がCを回る向きに対する「右巻き規則」 にしたがうとする。つまり、右手の親指を立て、それを除く4本の指を Cの回る向きに巻いた時、親指の向く方向が n(r )の方向である。
 「ストークスの定理」の厳密な証明は数学の授業に任せることにして、ここではそれが物理に使われた時に導き出される重要な結論を与えることにしよう。
 「ストークスの定理」を証明する過程で、考えているA が面上のどこにあっても、それに妙なことが起きさえしなければ(数学的にはもう少し厳密な言い方がある) Aから経路Cを経て Bに至る線積分を<7-100> ABA( r)dsI C(AB)とすれば、 IC(AB )の値は始点Aと終点 Bを与えるだけで決まり、途中の道筋を変えても積分値は変わらないことが示される。すなわち、AからB に至る二つの異なる道筋をC1C2とすると、それぞれの道筋をたどって Bに至る二つの積分は等しく

<7-101>  IC1(AB)= IC2(AB)

である。
 右辺の経路C2を持つ積分と同じ経路を反対に BからAへとたどる積分はIC2(A B)と反対の符号を持つから、上の関係式は

<7-102> IC1(A B)=-IC2(B A)

と書き換えられる。この右辺を左辺に移し

<7-103> IC1(A B)+IC2(B A)=0

とする。左辺の一項目と二項目の積分経路を想像してもらいたい。一項目の積分経路はA を出発して、C1を経由し Bに至る経路である。二項目の積分経路は Bを出発して、C 2を経由しAに至る経路を表す。すなわち一項目と二項目を合わせると、結局この線積分は、Aを出発し Bに至り、そこから来た時と異なる経路をたどって再び Aに戻る、閉じた回路を一周する線積分を表していることが分かる。すなわち

<7-104> CA( r)ds=0

である。この線積分は、Aから C1を経由してBに達し、そこから C2を経由して出発点の Aに戻る閉じた経路C を一周することから「周回積分」と呼ばれる。
 これと(7.3.4)式のストークスの定理を合わせると

<7-105> S rotA(r) ndS=0

ということになる。(7.3.4)式の下で述べたように、SCを境界とする面であって、 Cが境界である限り平らであっても盛り上がっていてもくぼんでいても凹凸があっても構わない。とにかく、その面上で計算された左辺の積分が必ず0になるということである。
 この話の前提として「A(r )がどこにあっても『妙なこと』が起きなければ」という条件をつけた。「妙なこと」が具体的に何を意味するかは分からないとしても、「『妙なこと』さえ起きなければ」上の積分経路CC1 C2を合わせた経路)がどうであっても、どのような面 Sを考えたとしても、上式は成り立つ。そこで「その内部でA (r)が変わらないとみなせる」とした小面積 dS自体を囲む小さな経路を一つの Cと考えよう。その経路が囲む面積の内部ではどこでもA (r)が変わらないのであるから、上式の面積分は経路内の適当な点rにおける関数の値 rot A(r)n に面積dSをかけたものになる。上の式はそれが 0であるというのであるから、したがって rot A(r)n (r) 0でなければならず、n( r)0でないから、 rの点で

<7-106> rotA (r)=0

が成り立つことになる。さらに、A( r)に妙なことが起きなければr をどこにとってもよいから、この式は“妙なことが起きない”ところならどこでも成り立つことがわかる。
 ここで、以前証明無しに与えた、どのような関数f(r )に対しても成り立つ(3.3.27)式の公式

<7-107> rot gradf(r)=0

を使うことにする。すなわち、この公式は「f(r )がどのような関数であっても、その関数のベクトル関数 gradf(r)を作ると、その回転は必ず0になる」ことを意味している。この定理は逆も成り立ち、それは重要なことを教えてくれる。すなわち

  • ある領域でその回転(ローテーション)が0になるベクトル関数があれば、適当なスカラー関数f(r)を使って必ずそれをgradf( r)のように表わすことができる。
この定理を使うと、ここで考えているA( r)

<7-108> A(r )=gradf(r )

と表すスカラー関数f(r)が必ず存在することになる。
 ここで使った一連の説明をすぐに理解するのは難しいかもしれないが、このスカラー関数 f(r)の存在こそ、自然界で様々な形に姿を変えて現れるエネルギーの存在に関係し、ここで行った一連の解釈が我々に「エネルギー保存則」を発見させた道筋なのである。またここで用いた数学は宇宙の成り立ちに関係する理論を作るときにも用いられる。それらは「物理学」で学ぶことにして、ここでは数学がどのようにそれに関わっているかだけを知ってもらいたい。


 【面積分と変数変換

 前節で知ったように面積分は指定された面領域のなかでの積分であり、もしそれが平面であれば、あらためてその面を (x-y)面と考え、面内の一点を (x,y)座標で表すことができる。そして面積分を与える(7.3.1)式にある小さな面積dSを二辺が dxdy の小さな長方形の面積(dxdy)を考え、(7.3.1)式を

<7-109> (7.3.5) I=Sf( x,y)dxdy

と書くことができる。もしこの積分が(x-y)面内の<7-110>(x1x x2)と<7-111>(y 1yy2)で囲まれた領域で行われるときには、それを明示するためにI

<7-112> (7.3.6) I=x1 x2dxy1 y2dyf(x,y)

のように書くことがある。f(x,y) のように、二つの変数を持つ関数を積分する時、まず変数yに関する積分を与えられた領域で実行してxの関数 y1y2 dyf(x,y)を得、それを xについて与えられた領域で積分する、積分の手続きをはっきりと示した表現である。
 ここで、これまでと違う一つのことに気がついたかも知れない。これまでは、xの関数F(x)があるとき、それを領域 (axb)で行う積分を abF(x )dxと書いていた。ここではそれをa bdxF(x)のように書いている。これは間違いでもなければ、どちらでも良いからでもなく、意図があってのことである。しかしこの段階でその違いは重要ではないので詳しくは説明しない。簡単に言うと、記号 q1 q2dqは 「dqの右側にくるqの関数をqの領域q 1からq2まで積分せよ」と我々に命ずる「積分演算子」である。以前、「関数f(x)に対するxの微分演算子 ddxの演算 <7-113>ddxf (x)と微分係数<7-114> df(x)dx は結果が同じでも意味が違う」と書いた。ここでもそれは同じで、「関数f (x)に対して演算子 x1x2dxを作用させた<7-115>x 1x2dxf(x )と積分<7-116> x1x2f( x)dxは同じ結果を与えるが、その意味は違う。」高校までは微分係数に対して df(x)dxを使い、積分に対して上の第二の形を使うが、それはともに演算子という考え方の使用を避けたいからである。ここで話そうとしている積分の変数変換に関しては第一の記法がより分かりやすいので、しばらくはその記法を借りることにする。
 この教科書では出てこないが、2変数を含む積分を行うとき、変数のどちらか一方に関する積分の上限と下限が他方の関数である場合がある。たとえば(x, y)のうちyの積分の下限が xの関数y1 (x)、上限がxの関数 y2(x)となる場合である。このときはyについての積分を実行し、不定積分の yに積分の上限値と下限値を与えると結果が xの関数になるため、その結果を含めて xで積分しなければならない。すなわち積分を行う順番が重要なのである。これを先に xについて積分し、それから yの積分を行うこともできるが、そのときは面倒な手続きが必要になる。このような積分を「重複積分」というが、これに関してはこれ以上ふれないので、必要ならば数学で学んでほしい。
 これから説明するのはx yの積分区間がそれぞれ他方の変数の関数でなく、互いに独立している場合である。このような時に、二つの変数の組みをやはり独立な二つの変数の組みに組み換えることによって、積分が簡単に実行出来る場合がある。そのような変数の組み換えを一般に「変数変換」と言う。§3で行なった一変数の場合の「置換積分」はこれから行う「変数変換」の単純な場合として以下の扱いに含まれる。物理で現れる積分の多くはこの変数変換を行って積分を実行することになるので、変数変換の基本を知っておくことは非常に重要である。
 変数変換を行うときに必ず行わなければいけないことが二つある。それは

  1. ヤコビアン」と呼ばれる量の計算

  2. 新しい変数に関する積分領域の設定
である。「置換積分」を学んだとき、「(7.1.5)式の関係は後節の多変数を含む積分の変数変換に現れる「ヤコビアン」とよばれる量の最も単純な場合と考えてよい」と書いたのは、この①のことである。これから①と②を2変数が関わる積分の場合について説明するが、その基本は変数の数が増えても変わらない。
 直交座標変数(x,y)に関する積分で最も多く使われる変数変換は

<7-117> (7.3.7)  x=rcosθ y=rsinθ

による(x,y)から円座標 (r,θ)への変換である。この変換に対して上の二つの手続きを実行する。簡単のために(x,y) 2変数の積分区間を無限の空間とし、行うべき積分を

<7-118> (7.3.8) I=- +dx-+ dyf(x,y)

とする(もちろん区間を無限にしなくてもよいが、そうすると議論が少し面倒になる)。(7.3.7)式にしたがって変数 (x,y)を変数 (r,θ)に変換すると、(7.3.8)式の積分は

<7-119> (7.3.9) I=r1 r2drθ 1θ2|J| f(rcosθ,rsinθ)

で置き換えられる。ここで(r1, r2)(θ1 ,θ2)は新しい変数( r,θ)に対する積分の上限と下限であり、後で定めることにする。関数 fの前にある|J |が上の①にある「ヤコビアン」と呼ばれる量Jの絶対値であり、以下にしたがって計算される。
 最初に、変換前後の変数(x,y)(r,θ)を使って、「ヤコビ行列」とよばれる2×2行列

<7-120> (7.3.10)   xr xθ yry θ

を与える。この行列要素をそのまま要素とした行列式がヤコビ行列式であり、それを Jと書く。以前に注意したことであるが、

  • 行列」は行と列に配列された数の並び

  • 行列式」は一つの数
であることをもう一度強調しておく。ヤコビ行列は変換前後の変数に関する4種の微分係数から出来ており、それらを行と列にどのように配列してもヤコビ行列は作れるが、その配列のまま行列式としてその値を計算すると符号が正になったり負になったりする[2]。変数変換の際はヤコビ行列式の大きさだけが重要なので、したがって(7.1.27)式のようにヤコビ行列式には |J|のように絶対値をつけるのである。
 (7.3.7)式にある(x,y)から (r,θ)への変換の場合、それに必要な偏微分係数を具体的に計算し、ヤコビ行列式を計算する。この変換は物理学で非常に多く現れるので、以下で与えるのと同じ結果が得られることを自分で確かめてほしい:

  • 【偏微分係数の計算】 (7.3.7)式を使って偏微分を実行すると、4つの偏微分係数

    <7-121>  xrx θ y ryθ = cosθ-rsinθ sinθrcosθ

    を得る。

  • 【ヤコビ行列式の計算】 上の微分係数を使って(7.3.9)式の行列式を計算すると、

    <7-122>  J= cosθ-rsinθsinθ rcosθ =rcos2θ+ rsin2θ =r

    を得る。

 これでヤコビ行列式が求められたので、次に第二段階の、積分変数(r ,θ)の積分領域を設定する。これは簡単そうに思えるが、実は結構面倒で、この簡単な場合でさえそれを正しく実行できる学生はそれほど多くない。ここでは結論を与えるだけにするので、ぜひ自力で確認してほしい。結論は

【積分領域】 変数(x,y)の領域は

<7-123>  x =-+y=- + r=0 θ=02π

に従って新しい変数(r,θ)の領域に移される。

 以上より、(7.3.9)式で与えられた積分は

<7-124> (7.3.11) I=0 dr02πrf(rcosθ,rsinθ )

となる。
 練習のために、この2変数の積分に関する変数変換を利用して、「ガウス積分」と呼ばれる非常に重要かつ有用な積分公式を証明することにしよう。

【ガウス積分の計算】ガウス積分」とは

<7-125> (7.3.12) -+ e-x2dx= π

であり、物理学や理工系学部の諸分野は言うにおよばず、経済学のような文系分野でも必要かつ重要な積分公式である。
 この証明には憶えておくと便利な面白い方法が用いられる。(7.3.12)式左辺の積分を Iとおき、Iを計算する代わりに I2を計算して、その平方根から Iを求めるのである。なぜそのような面倒なことをするかというと、 IよりもI 2の方が計算しやすいからである。ではそれを実行してみよう。
 I2 I×Iと書き、一つのIの積分に現れる変数を xとし、もう一つのI の積分に現れる変数をyとすると

<7-126>  I2=- +e-x2 dx×- +-y2 dy = -+dx -+dye -(x2+y2)

と書ける。もちろんxy は独立である。
 そこでxyに対して円座標変換(7.3.7)式を行なう。<7-127>(x2+ y2=r2)であり、変換した結果、積分は(7.3.11)式になるから、

<7-128>  I2=0 e-r2rdr 02π = 2π0e-r2 rdr

となる。残された積分を行なうため、積分の変数をrから r=sで定義される sに変換(置換)する。これに関しても変換のヤコビアンを計算する必要があるが、この場合は1変数であるから行列式の要素はただ一項で、 <7-129>J=drds =12sである。また sの積分領域はrと同じ(0)であるから、

<7-130>  I2=2π0 e-s|J| sds =π0 e-sds

である。しかるに<7-131>e -sds=-e-s であるから、この積分は

<7-132>  I2=-πe -s0 =π

となる(なんとなれば、e- =0e0=1 である)。この両辺の平方根をとると、Iは正でなければならないから、

<7-133> I=π

となって公式(7.3.12)式が証明された。
 (7.3.11)式でf(r cosθ,rsinθ)の積分を半径Rの球内で行って、その後に半径を無限に大きくし、求める結果を得る方法もある。すなわち、

<7-134> limR 0Rrdr 02πdθflim RI(R)

のように行うこともあるが、これでもしf=1とすると <7-135>0R rdr=R22および <7-136>02 π=2πであるから、 <7-137>I(R)= πR2となり半径R の円の面積πR2が現れる。これは偶然ではなく、このI(R)の積分が球の面積を求める正しい代数的方法なのである。
 ここで学んだ円座標への変数変換は、自然界に非常に多く存在する「回転対称性」という特徴を持つ力の下で運動する物理系(例えば太陽系)を取り扱う時に当たり前のように使われるので、是非とも理解しておかなければならない。さもなければ、物理の面白さのかなりの部分が理解出来ないことになり、物理を学ぶ楽しさと意味が失われてしまう。


§4. 体積分

 物理法則は一般に三次元空間で表現される。したがって、その表現に必要な積分にも関数を三次元空間で足しあげる「体積分」が現れる。一般的な体積分の形は

<7-138> (7.4.1) I=Vϕ( x,y,z)dV

である。ここで、記号VdVは積分が Vで指定される体積を持つ空間内で実行されることを表している。 dVV内にある一点の周りにとった小体積であり、dVの内部では関数 ϕ(x,y,z) の値が変わらないとみなせる小さな体積である。その大きさは関数が変化しなければいくらでも大きく取れるし、もし関数が激しく変化するようなら、dVはその内部で関数の変化が無視できるほどに小さく取られなければならない。つまりdVの大きさは関数の変化状況に応じて決まるが、始めから十分に小さくとっておけば何も問題は起きないので、そのような小さな体積であると考える。
 「物理学」で体積分は重要な役割を演じるが、これ以上の説明や具体的な例をあげることをここではせずに、「面積分と線積分」を結ぶ「ストークスの定理」と似た、「体積分と面積分」を結ぶ「ガウスの定理」を以下で与えるだけにする。

 【面積分と体積分とガウスの定理

 前節の「ストークスの定理」に加え、もう一つ重要な積分定理が物理で必要になる。体積分と面積分の間に成り立つ「ガウスの定理」である。
 2008年に3人の日本人物理学者(南部[3]、小林、益川)がノーベル物理学賞を同時に受賞した。その内容を報じるニュースで「対称性」という耳慣れない言葉が使われていたことを憶えているかもしれない。「ガウスの定理」はその対称性を表現する数学に密接に関係している。ここでは「ガウスの定理」の証明の詳細に立ち入らずに数学的な形だけを与えることにする。もし将来「物理学」を学ぶ過程で「ガウスの定理」が出て来たら、ここを思い出して、そこでの物理内容を理解してほしい。物理学を学ぶ過程で「ガウスの定理」は最初に「電磁気学」で現れるが、「電磁気学」には似た名前を持つ「ガウスの法則」と呼ばれる物理法則がある。数学定理である「ガウスの定理」と物理法則の「ガウスの法則」は異なるので混同しないよう注意しなければならない。言いかえれば、「ガウスの法則」は数学的に証明することは出来ないが、「ガウスの定理」は数学的に証明することができる。
 いま空間の各点で方向と大きさが決まるベクトル関数があり、それをE (r)とする。「ガウスの定理」は Eの発散 divE( r)の体積分と、その体積を囲む領域の境界面 S上で行なった( E(r)n (r))の面積分を関係づける積分定理である。ここで r=i x+jy+kz であり、n(r )S上の点 (r)における法線ベクトルである。ガウスの定理の具体的な形は

<7-139> (7.4.2) SE (r)n(r )dS=Vdiv E(r)dV

である。ここで右辺のVは体積 V内での体積分を表し、左辺の Sはその体積を囲む領域の境界面をSとしたとき、その面上で計算される面積分を表す。左辺のdSS面上にありその内部では (En)が変わらないとみなせる小面積、右辺のdVは体積V 内にあり、その内部ではdivE が変わらないとみなせる小体積を表す。繰り返すが、(7.4.2)式は証明しようと思えばできるがここでは与えない。もし知りたければ、適当な数学の教科書を参照してほしい。

 【体積分と変数変換】

 面積分における変数変換と同じように、体積分の場合にも変数変換を行って積分を実行することがある。関数の特徴によって適切な変数変換を選ばなければならないが、ここでは物理ではもっとも重要で、かつ多く現れる「球対称性」と呼ばれる特徴が関数にある場合に使われる「球座標」への変数変換を与える。
 体積分が直交座標(x,y,z) で与えられていたとすると、それから球座標(r,θ ,ϕ))への変換

<7-140> (7.4.3)  x=rsinθcosϕ y=rsinθsinϕ z=rcosθ

を考える。関数f(x,y,z )の積分を行なう領域が無限にひろがっているとするとfの体積分は、

<7-141> (7.4.4)  I=-+dx -+dy -+dzf(x, y,z) =r1r2 drθ1θ2 ϕ1ϕ2 |J|f~(r, θ,ϕ)

である。ここでf~(r, θ,ϕ)は関数f(x ,y,z)の中にある変数( x,y,z)を(7.4.3)式を使って新しい変数 (r,θ,ϕ)に置き換えてできた関数である。また(r1, r2)(θ 1,θ2)(ϕ1, ϕ2)はそれぞれ (r,θ,ϕ)に対する積分の下限値と上限値を表す。また、 Jはこの変換のヤコビアンで、

<7-142> (7.4.5)  J= xrx θxϕ yr yθy ϕz rzθ zϕ

である。2変数の場合と同じように計算を行う。

  1. 【偏微分係数の計算】 (7.4.3)式より、各変数間の偏微分係数は

    <7-143>  xr=sinθcos ϕ xθ=rcosθ cosϕ xϕ=-rsin θsinϕ yr=sinθsin ϕ yθ=rcosθ sinϕ yϕ=rsinθ cosϕ zr=cosθ zθ=-rsin θ zϕ=0

    である。

  2. 【ヤコビ行列式の計算】 上の微分係数と(3.1.14)式を使って3×3ヤコビ行列式の計算を慎重に行えば、

    <7-144>  J= sinθcosϕ rcosθcosϕ-rsinθsin ϕ sinθsinϕrcos θsinϕrsinθcosϕ cosθ-rsinθ0 = r2sinθ

    を得る。

  3. 【積分領域】 極座標への領域の変換はかなりやっかいである。特に元の領域のひろがりが有限な時には、できないこともある。それが、ここで積分の領域を無限空間にとった理由でもある。
     領域が無限空間の場合は変数(x,y,z )の領域は

    <7-145>  x=-+ y=-+ z=-+ r=0 θ=-ππ ϕ=02π

    に移される。以上より、直交座標(x,y, z)から球座標(r,θ, ϕ)への変換によって(7.4.4)式の体積分は

    <7-146> (7.4.6)  I=0r2dr -ππsinθdθ0 2πf~(r,θ ,ϕ)

    のように変換される。ここでf~(r ,θ,ϕ)は、(7.4.4)式の時と同じように、(7.4.3)式を使って関数 f(x,y,z)の変数(x,y,z)(r,θ,ϕ)に置き換えて出来た関数である。

 2変数の場合と同じように、この場合も rの積分をr= 0Rとして実行し、その結果をR としてもよい。それをf=1 のときに実行すれば、

<7-147> 0R r2dr- ππsinθ0 2π=4π3 R3

となり、よく知っている半径Rの球の体積が出てくる。これが偶然でないことは円の面積の場合と同じである。

[1] (2x+2 y+z=2)の関係を満足する座標点 (x,y,z)が空間に一つの平面を作ることは次のように理解される。空間に直交する(x,y,z) 軸を持つ右手系の座標系をx軸の正方向が右水平方向になり、 y軸の正方向が垂直上向きになるように頭の中に描く。そうすると、 (x-y)面がこちらに対面し、 z軸がこちらに真っすぐ向かうことになる。その座標系で:

  1. z座標が0で、任意のxyを座標を持つ点の集まりを考える。それらの点はz=0であるから必ず (x-y)面上にある。 z=0とした与えられた式はその点の x座標とy座標の間に y=-x+1という関係を与える。これは(x-y)面内に 「y軸を1で切り、傾きが-1で減少し、 x=1x軸を切る直線」を描く。結果的に、原点を頂点とし、原点からx軸上に長さ 1の辺、原点からy軸上に長さ1の辺、そしてこの直線を斜辺にした直角三角形が (x-y)面にできる。
  2. zの値を0から少しだけ動かし0.2とする。そうすると z=0のときに対面した (x-y)面が 0.2だけこちらに近づく。 z=0.2のとき与式はy=- x+0.9の関係を与え、これはz= 0.2(x-y)面上で「y軸を0.9で切り、傾きが(-1)で減少し、 x=0.9x軸を切る直線」を描く。結果的に原点を頂点として、原点から x軸上に長さ0.9 の辺、原点からy軸上に長さ 0.9の辺、この直線を斜辺とした直角三角形がこちらに近づいた( x-y)面にできる。
  3. zの値を0.2からさらに少しだけ動かし0.4とする。そうすると z=0.2のときの (x-y)面がさらに 0.2だけこちらに近くなる。 z=0.4のとき与式はy= -x+0.8の関係を与える。z =0.4(x-y)面上でこれは「y軸を0.8で切り、傾きが-1で減少し、 x=0.8x軸を切る直線」を描く。結果的に原点を頂点として、原点からx軸上に長さ 0.8の辺、原点からy軸上に長さ 0.8の辺、この直線を斜辺とした直角三角形がこちらに近づいた (x-y)面にできる。
これをzの値を連続的に変えて実行すると、x軸上の長さ1のところにある点、y軸上の長さ 1のところにある点、こちら側に向いている z軸上の長さ2のところにある点と原点を結ぶ斜面の出来上がるのが分かるであろう。これは三辺が直角に交わっている原点を一つの頂点とする直角三角錐である。

[2] 行列式はその行あるいは列を入れ換えるとその値の符号が変わる。

[3] 南部陽一郎は日本人ではあるが、国籍は米国の物理学者である。南部は 1952年に朝永眞一郎の推薦を受けプリンストン高等研究所に赴任した後、そのまま米国にとどまり、1970年に米国に帰化した。