「ニュートンの運動三法則」とは、ニュートンが1687年に完成した著作「自然哲学の数学的諸原理(通称プリンキピア)」のなかで与えた三つの法則である。それらを以下に分かりやすい表現で与える:
<2-3> (2.1.3) md2x( t)dt2=F
に書きなおし、(2.1.1)式に代わってこれが第二法則「運動の法則」を表す式であるとしておこう。
その詳細を深く理解することは難しいが、物体に作用してその運動を引き起こす力について知っておくべきことがある。力は我々が日常生活で経験的に知る概念であるが、対象が原子・分子や素粒子になると、そこでは力という概念はなくなり、少し違った考え方が力に与えられる[4]。そこからわかったことは:
<2-4> (2.2.1) md2x( t)dt2=0
の解が示すように起きる。dx(t) dt=v(t)と置き換えれば、この微分方程式は
<2-5> (2.2.2) mdv(t) dt=0
であり、これは(1.1.4)式右辺でa(t)=0 とした式であるから、その解である(1.1.5)式から(2.2.2)式にしたがうv( t)は
<2-6> v(t)=C2
で与えられる。C2は定数であるが、それをあらためて v0と書けば、(2.2.2)式にしたがう v(t)は
<2-7> (2.2.3) v(t)=v0
である。 (2.2.3)式のv(t)を x(t)を与える(1.1.3)式の右辺に代入すれば、この場合(力を受けていない質点の場合)のx(t)は
<2-8> x(t)=∫v0 dt+C1
となる。右辺第一項目の積分は簡単に実行できv0tなので、第二項目の定数C1を改めて x0と書けば、力を受けずに運動する質点の時刻 tにおける位置は結局
<2-9> (2.2.4) x(t)=v0 t+x0
となる。 (2.2.3)式および(2.2.4)式は、力を受けずに運動する質点がもしt=0 で静止(v0=0)していれば質点はいつまでもx0に静止 (v0=0)を続け、もしt=0で速度 v0で動いていれば、質点はいつまでも同じ速度( v0)で運動を続け、質点の位置は(2.2.4)式にしたがって時々刻々変化することを示している。静止を続ける場合も含め、このようにv(t )が変わらない運動の形態を「等速度運動」という。 質点に力が働いていない場合の運動方程式から得られるこの結論はニュートンの第一法則「慣性の法則」と同じ内容を表しており、これが先に運動の「第一法則」は「第二法則」に含まれると書いた理由である。 質点に力が働いていないのと似た状況がある。一定の力が質点に働いている場合である。たとえば地表近くにある質点が地球から受ける重力を考えるとよい。質量を持った物体に働く重力はもし物体が鉛直方向に大きく移動しなければほぼ一定であると考えられ[6]、その大きさは物体が持つ質量 mに比例して、方向は地球の中心に向かう。その力を mgと書いたときgを「重力加速度」という。 【道草】 「鉛直」と「垂直」を混同する人がよくいる。「鉛直」な方向は文字通り地球上で鉛のおもりに糸をつけて垂らした時におもりが指す方向(したがって地球の中心に向かう方向)を意味し、「垂直」な方向は適当な方向を持つ直線があったとき、それと90°の角度をなす方向である。したがって、たとえば「鉛直方向に垂直な方向は水平方向」である。また、鉛直な方向は一つしかないが垂直な方向は常に二つある。 一定の力が働くときに起きる運動の例として、質量mの物体を地表から h持ち上げて手を放した時に地面に向かって落下する「自由落下」とよばれる物体の運動を考える。地表面上の一点を原点にして、そこから鉛直上向きにx軸をとる。物体には鉛直下向き(x軸の負方向)に (-mg)の重力が働くから、物体の運動方程式は <2-10> (2.2.5) md2x( t)dt2=-mg である。両辺からmを消去すればこの微分方程式は§1.1で与えた、直線( x軸)上を加速度 a(t)=-gで運動する物体の方程式と同じになる。(2.1.4)式~(2.1.7)式でa(t) =-gとおけば、(1.1.7)式が与える時刻tにおける速度v(t)は <2-11> (2.2.6) v(t)=v0 -∫gdt=v0-gt であるから、(2.1.4)式が与える位置x(t)は <2-12> (2.2.7) x(t)=x0+∫v(t )dt=x0 +∫(v0-gt)dt =x0+v0 t-12gt2 となる。(2.2.6)式と(2.2.7)式中のx0と v0は運動を開始する時刻 (t=0)を与えたときの物体の位置と速度であるから、この運動をどこからどのように始めるかという条件(初期条件)を表す。今の場合はx0 =hおよびv0=0 であるから、したがって高さhからの自由落下(速度 0での落下)運動は <2-13> (2.2.8) v(t)=-gt x(t)=h-12g t2 となる。 この結果が示すように位置と速度の式には物体の質量が入っていない。したがって、どのような質量の物体が落とされたとしても、すべて同じように落下することがわかる。これが、中世にガリレオがピサの斜塔の頂上から質量の異なる二つの球を同時に落とし、両者が同時に着地するのを観測して得た結論「落下する物体の運動は物体の重さに関係ない」が意味する内容である。 【道草】 ちなみに、ガリレオは1564年に生まれ、ニュートンは1642年に生まれている。したがってガリレオがニュートンの運動方程式を知っていたわけではなく、彼は実験からこの結論を得たのである。もっとも「ピサの斜塔からの落下実験」は創作であって、ガリレオが実際に行ったのは斜面を使って重さの違う球を転がり落とす実験であった。 §3 位置に依存する力 前節で述べたように、力は物体を構成する原子や分子も含めた多数の要素が及ぼし合う複雑な現象を直接観測される量を使って簡単に表現した概念である。いま二つの物体1と2が直線(x軸)上にあって、作用・反作用で及ぼし合う互いの力以外に他から力を受けていないとする。それらの質量、時刻tにおける位置、それらに働く力、それらの運動を決める運動方程式を以下の表に与える: 物体 質量 位置 もう一つの物体から受ける力 運動方程式 物体1 m1 x1(t) F21 <2-14> m1 d2x1(t)d t2=F21 物体2m2 x2(t) F12 <2-15> m2 d2x2(t)d t2=F12 二つの物体に働く力F12と F21が物体間の距離 |x1-x2 |≡xの関数であるとする。それらは「作用反作用の法則」から <2-16> (2.3.1) F12(x)= -F21(x) である。このことだけから二つの重要な法則(「運動量保存の法則」と「力学的エネルギー保存の法則」)が現れる。以下にそれを示す。 §4 運動量保存の法則 二つの物体の距離だけで大きさが決まり、「作用・反作用の法則」にしたがう(2.3.1)式の力の下で運動する二つの物体に対して表に与えられた運動方程式の両辺を加える。そうすると右辺にある力の足し算は(2.3.1)式から0になり、左辺でm1と m2は定数であるから微分の影響を受けないので、 <2-17> (2.4.1) m1d2 x1dt2+ m2d2x2d t2=d2[m 1x1+m2x2 ]dt2=0 を得る。 そこで、二つの物体の質量と位置座標を使って <2-18> (2.4.2) X(t)=m 1x1(t)+m2 x2(t)m1+m 2 という量を作る。(m1+m2 )は二つの物体の質量の和であり、それをMと書いて系の「全質量」と呼ぶことにする。 数学で二つの量Q1と Q2に対して Q1+Q22 によって与えられる二つの量の中間的な値を「Q1 とQ2の相加平均」という。しばしばQ1と Q2が持つ重要さ(重み)が異なることがあり、それを取り入れた平均を作ることがある[7]。そのときは、1と2の重みをそれぞれw1と w2として、相加平均の代わりに <2-19> (2.4.3) Q=w 1Q1+w2Q2 w1+w2 を平均とする。この量を「Q1と Q2の加重平均」という。相加平均が二つの値の平均値であるのに対して、加重平均はより重みの大きい値の方にその値が近くなる。(2.4.2)式で与えられるXは質量を重みとした二物体の位置の加重平均であるが、このXを物体 1と2の「質量中心」という。また後で示すが、 m1と m2がそれらを質量に持つ物体を地球が引く力(すなわち物体の重さ)に比例することから Xを「質量中心」の代わりに二つの物体の「重量中心(重心)」ともいう。この「重心」という言葉は物理以外でもよく使われる。 X(t)を使うと(2.4.1)式は <2-20> (2.4.4) Md2X( t)dt2=0 と書き換えられる。これは重心X(t)が力を受けずに等速度運動をすることを示している。(2.4.4)式は二つの物体に働く力が「作用反作用の法則」に従う限り、すなわち F12=-F21 である限り必ず成り立ち、力が(2.3.1)式のような距離の関数である必要は必ずしもない。まとめると 「作用反作用の法則」に従う力を及ぼしあって運動する二物体の重心は必ず等速運動をする。 これを少し違った考え方で理解するため、力Fの作用の下で直線 (x軸)上を運動する質量m を持つ物体の運動方程式((2.1.3)式)にもどる。この物体の速度はv( t)=dx(t)dtであったから、(2.1.3)式を <2-21> (2.4.5) mdv(t) dt=F と書くこともできる。またmが定数であることから、それを微分のなかに入れてこの式を <2-22> (2.4.6) d[mv(t) ]dt=F と書いてもよい。左辺にある時間の関数 <2-23> (2.4.7) mv(t)≡p( t) を質量mと速度vを持つ物体の「運動量」という。運動量を使って、力Fの下で運動する物体の運動方程式を <2-24> (2.4.8) dp(t)dt =F と書くことができる[8]。 あらためて、物体1と2 の速度をv1(t)= dx1(t)dtおよび v2(t)= dx2(t)dt、それらの運動量を p1(t)= m1v1(t)および p2(t)=m 2v2(t)とすれば、前節の表にある物体 1と2の運動方程式はそれぞれ <2-25> (2.4.9) dp1(t)dt= F21dp2(t) dt=F12, である。また(2.4.2)式で与えられる重心X(t)の速度を <2-26> (2.4.10) V(t)=dX (t)dt とすると、重心の運動方程式である(2.4.4)式は <2-27> (2.4.11) MdV(t) dt=0 とも書ける。重心に対してもその運動量をP(t)= MV(t)として、この式を <2-28> (2.4.12) dP(t)dt =0 と書いてもよい。 (2.4.2)式の重心の定義を(2.4.10)式のX(t)に代入しm1とm2が時間によらないことを考えると、重心の速度を与える(2.4.10)式は <2-29> V(t)=dm 1x1(t)+m2 x2(t)m1+m 2dt =1Md m1x1 dt+1Md m2x2 dt = p1M+p2 M となる。重心の運動量がP(t)=MV( t)であったからこの式は <2-30> (2.4.13) P=p1+ p2 を意味する。二つの物体が持つ運動量の和に等しいPをこの系の「全運動量」という。「作用・反作用の法則」にしたがう力の下で運動する二物体に対して(2.4.12)式が必ず成り立ち、そのような二物体が持つ全運動量は系の重心が持つ運動量に等しいので、次の結論が得られる。 【運動量保存則】 二つの物体に働く力が「作用・反作用の法則」にしたがう時、その系の重心は等速運動を行い((2.4.4)式)、その系の全運動量は時間が経っても変わらない(すなわち保存する)((2.4.12)式)。 §5 仕事と力学的エネルギー保存の法則 位置に依存する力の下で運動する物理系の運動方程式がもう一つの非常に重要な物理法則「力学的エネルギー保存の法則」を内包していることを示す。大事な点を正しく理解するために次のような簡単な状況を考える。力は常に二つの物体間に働くことを知った。以前にも述べたように、一方の物体の質量が他方の質量に比べて非常に大きければ、大きな質量の物体に対する他方からの力の影響を無視することができる。その結果、大きな質量の物体は慣性の法則にしたがって静止を続けるか、あるいは等速度運動を続ける。もしそれが静止していれば、その物体を他方の物体の運動に対する座標原点にとることができる。たとえば、地球上の物体の運動に対して地球は静止しているとしてその地表面を原点にとることや、壁に一端を取りつけたバネの他端にある物体の運動に対して、壁が静止しているとして壁を原点とするのはその例である。 いま物体aと Aがあると考えて、Aの質量が aに比べて非常に大きいとする。そこで Aを座標原点として aの位置を考え、aは Aからの距離によって変わる力を受けて Aを原点とする直線上を運動すると考える。その直線を x軸として時刻tにおけるaの位置座標を x(t)とし、そこでaが受ける力をF(x)とする。 aの質量をmとすると運動方程式は <2-31> (2.5.1) md2x dt2=mdvdt=F (x) である。ここでv=dxdtは xにおけるaの速度である。 ここで高校数学の微分の学習で学び、また「物理数学」で学んだ合成関数の微分に関する公式を利用する。その公式を復習しておく。いま yを変数に持つ関数f (y)があるとする。yがさらに xの関数y( x)であれば、fは結局 xの関数となり、fをxで微分することができる。その結果は <2-32> (2.5.2) df(y(x) )dx=df(y)dy dy(x)dx であった。ここではこれを利用する。 いま速度v(t)を変数に持つ運動エネルギーを考える。物体-の質量をmとすると、運動エネルギーは <2-33> (2.5.3) T(v)=m2 v2 である。vはtの関数なのでTもtの関数であるから、それをtで微分することができる。(2.5.2)式を使うと、 <2-34> dTdt=dTdvdvdt =m2dv 2dvdvdt =m2(2v) dvdt=v mdvdt である。この最後の式は(2.5.1)式の真ん中の式にvをかけた式に等しく、したがって(2.5.1)式の最後の式にvをかけた式と等しい。よって vをdxdt にもどせば、等式 <2-35> dTdt=F(x) dxdt を得る。この両辺を時刻tで t1からt2まで積分をする。 そうすると、上の式を使えば <2-36> ∫t1t2 dTdtdt=∫t1 t2F(x)dxdtdt となる。この式の両辺は次のように書き換えられる。左辺では、時刻 t1のとき質点が x1にあって速度 v1を持ち、時刻 t2のとき質点が x2にあって速度 v2を持っていたとする。 そのときの運動エネルギーをそれぞれm2v 12≡T1と m2v22≡T2 とすれば、左辺は <2-37> ∫t1t2dTdt dt=∫T1T2dT =T2-T1 となる。一方右辺は <2-38> ∫t1t2 F(x)dxdtdt=∫ x1x2F(x)dx であるから、ゆえに <2-39> (2.5.4) T2-T1 =∫x1x2F(x )dx が成り立つ。物理では上の式の右辺に現れた量を特別な言葉で呼ぶ。 ・ ∫x1x2 F(x)dxを「力F が質点をx1から x2まで移動するために行う仕事」という[9]。 物理では「仕事」をこのように積分で定義するため「仕事」は符号を持ち、その符号が意味を持つ。すなわち <2-40> (2.5.5) ∫x1x2 F(x)dx=-∫x2 x1F(x)dx であるから、「力Fが質点を x1からx2まで移動するために行う仕事」は「力Fが質点を x2からx1まで移動するために行う仕事」のマイナスである。 【道草】 このように、物理における「仕事」には「正の仕事」「負の仕事」といった独特の表現がある。これが物理を学ぶときにしばしば混乱を起こす原因になり、ついには物理に対し拒絶反応を抱かせるようなことになる。そのためこの表現を与えることに躊躇するが、多くの教科書でそのような表現を使っており、もし知らなければ重要な内容も理解できないことがあるので、ここであえてその表現を与えておく。例えば人間がバーベルを持ち上げるときの仕事が正であれば「人間がバーベルに仕事をした」ことになるが、それが負ならば「バーベルが人間に仕事をした」ことになる。後者を「人間がバーベルから仕事をされた」と表現することもある。 (2.5.4)式が持つ重要な概念を引き出すために次のようなことを考える。今xで微分すると(-F(x))となるような関数V(x)があったとする。すなわち F(x)が <2-41> (2.5.6) F(x)=- dV(x)dx であったとする。そうすると(2.5.4)式の右辺を <2-42> (2.5.7) ∫ x1x2F(x)dx= -∫x1x2dV (x)dxdx =V(x1)-V(x2 ) と書くことができるから、(2.5.4)式は <2-43> (2.5.8) T1+V(x 1)=T2+V(x2 ) と書き換えられる。 (2.5.4)式の積分の上限(x2)と下限 (x1)はどこの点であってもよかったから、x1をあらためて任意の点を表す xと書き、x2 を適当に定めた定点x0と書く。 x0の決め方に不安を感じるかもしれないが、それがどこであってもこれから与える結果には関係がない。これからそれを示しながら、(2.5.8)式が持つ意味を考えていく。 (2.5.7)式で積分の上限(任意の点)をx、下限(定点)を x0とすると、(2.5.7)式は <2-44> ∫x0xF (x)dx=V(x0)-V (x) であるから、これからV(x)を <2-45> (2.5.9) V(x)=V( x0)+-∫x0 xF(x)dx と表すことができる。そうすると(2.5.7)式の右辺は <2-46> V( x1)-V(x2) =V(x0) +-∫x0x1 F(x)dx- V(x0)+ -∫x0x2F( x)dx =-∫x0x1 F(x)dx+∫x0 x2F(x)dx =+∫x1x0 F(x)dx+∫x0 x2F(x)dx =∫x1x2F(x )dx となってV(x0)が消え(2.5.7)式の左辺と完全に一致する。これでわかったように、x0をどこに選んでも上式は(2.5.7)式の左辺を必ず与える。すなわちx0をどこに選んでも(2.5.7)式の等式を成り立たせることができるので、x0 をどこに選んでもよい。そこであらためて、V(x) =0を満足する点があったとして、その点をx0 とすることにする(このことをV(x)の零点をx0に選ぶ」という)。もちろん V(x)の零点は F(x)が具体的に与えられなければ決まらない。そうすると(2.5.9)式の右辺の第一項目は0になるから、 V(x)は <2-47> (2.5.10) V(x)=- ∫x0xF(x)dx となる。この関数V(x)を xで力F(x )を受ける質点のxにおける「位置エネルギー」という。そして(2.5.8)式の左辺または右辺が与える位置エネルギーと運動エネルギーの和を「質点が持つ全力学的エネルギー」という。そうすると(2.5.8)式の左辺は時刻t1における全力学的エネルギーであり、右辺は時刻t2における全力学的エネルギーである。したがってそれらが等しいことを示す(2.5.8)式は時刻t1と時刻 t2における全力学的エネルギーが等しいことを表しており、t1と t2はいつの時刻であってもよいから、したがって(2.5.8)式はこの物理系の全力学的エネルギーが時間が経っても変わらないことを表している。このことを系の「全力学的エネルギーは保存する」あるいは「全力学的エネルギーの保存則」といい、この結論を与える条件の(2.5.6)式を満たす力、すなわち位置エネルギーを持つような力を「保存力」という。以上をまとめると 【力学的エネルギー保存則】 もし力が保存力であれば(すなわち力が(2.5.6)式を満たす位置の関数V(x )を持てば)、任意の時刻におけるその系の運動エネルギー mv22 と位置エネルギーV(x)の和(全力学的エネルギー)は時間が経っても変わらない。その変わらないエネルギーをEと書けば <2-48> (2.5.11) m2v2+ V(x)=E である。改めて書くと、左辺第一項目は「運動エネルギー」、左辺第二項目は「ポテンシャル・エネルギー」であり、定数 Eを「全力学的エネルギー」という。 「力学的エネルギーの保存則」が持つ意味を次のように解釈することができる。 T=m2v2 は速度v(t)を通じて時間 tとともに変わり、V (x)も位置x(t)を通じて時間tとともに変わる。したがって(2.5.10)式の左辺は時間とともに変化する量の和である。それがいつも変わらず一定の(E)であるということは、もしTが増えればその増えた量だけ V(t)が減り、もし Tが減ればその減った量だけ V(t)が増える。 すなわち位置エネルギーはその一部を運動エネルギーと交換することができる潜在的な能力を持つ量であると言ってもよい[10]。 「力学的エネルギーの保存則」は物体がどこにあるかによって強さが変わる力を受け運動する物体の運動方程式((2.5.2)式)から直接得られる結論である。その意味で「力学的エネルギーの保存則」と運動方程式は等価であると言えるが、数学的に考えると僅かな違いがある。次節ではそのことを学ぶ。 §6 位置によって変わる力を受け運動する質点の運動 ここでは運動方程式((2.5.2)式)にしたがって運動する質量mの質点の運動を、運動方程式と等価なエネルギー保存則((2.5.11)式)を利用して知る方法を学ぶ。質点に働く力が具体的に与えられれば V(x)の具体的な形が分かり物理系の運動を求めることができるが、ここでは力を決めないで話を進める。したがって以下の議論は位置によって変わる力によって運動するどのような質点に対しても成り立つ。 簡単な例で知ったように、ニュートンの運動方程式を解いて質点の運動を求めると二つの定数が現われ、それを決めるために二つの条件(たとえばある時刻における質点の位置と速度)を与えなければならなかった。これはニュートンの運動方程式が質点の位置に対する二階微分係数を含む二階微分方程式であり、それを解くと必ず二つの決まらない定数が現れるためであって、「微分方程式の解は含まれる微分係数の階数だけの決まらない定数を必ず含む」ことは数学的に避けることができない。 一方、力が与えられてそれからV(x)がわかれば、(2.5.10)式は速度v(t)についての二次方程式とみなせるので、それを解いてv(t)を求めることができる。速度は質点の位置の一階微分であるから、速度が求められれば位置に対する一階微分方程式が与えられたことになる。簡単に解けるかどうかは別にして、もし解けたとするとその解は決まらない定数を必ず含む。この場合は一階の微分方程式なので決まらない定数は一個だけであり、したがってそれを決めるために与える条件も一個でよい。 先に、「力学的エネルギーの保存則と運動方程式は等価である」と書いた。すでに知っているように、運動方程式は二階の微分方程式であるから、それを解くと決めるべき定数が必ず二個現れる。それに対して「力学的エネルギーの保存則」からは一個の定数しか現れない。そのため二つの方法は等価ではないと思うかもしれない。しかし、実は「力学的エネルギーの保存則」は一階の微分方程式を与えるにもかかわらず、その解は二個の決めなければならない定数を含んでいるのである。その一個は最初から含まれている全力学的エネルギーのE で、この値もどこかで運動の条件を与えてその値を決めなければならない。運動を調べる時に「運動方程式」と「力学的エネルギーの保存則」のどちらを使っても同じ解が得られる。与えられた物理系の運動を調べる時に「運動方程式」を使った方が便利か、あるいは「力学的エネルギーの保存則」を使った方が便利かは場合による。以下に「力学的エネルギーの保存則」を使った運動の調べ方の例を与えるので、もし「力学的エネルギーの保存則」を使って運動を調べなければならないときはその真似をすればよい。 (2.5.10)式から出発して質量mを持つ質点の運動を求めるには、まず(2.5.10)式を <2-49> (2.6.1) v2=2[ E-V(x)]m と書き換えることが最初である。vは物体の速度であるから、もしそれが正であれば質点はx軸上を右側に動き、負なら左側に動く。いずれにせよ、 vの正負にかかわらずv 2は必ず正または0であり、このことは(2.6.1)式右辺の分子内の関数に条件 <2-50> (2.6.2) E-V(x)≥ 0 を与える。この不等式は質点の位置座標xが変化する範囲を制限し、その範囲は Eの値によって定まる。 【道草】ここで学んでいる力学は、20世紀以降に発展した「量子力学」と区別され「古典力学」と呼ばれる。「量子力学」を学ぶと「古典力学」ではあり得なかったいくつかのことに出合う。その一つが質点(粒子)の運動を「量子力学」を使って扱うと、質点(粒子)がここで与えた領域を越えた、(2.6.1)式の左辺が負となる領域にも条件によっては存在し得ることがわかる。この「トンネル効果」と呼ばれる現象を利用して開発されたのが半導体である。また原子力発電でエネルギーを提供する核分裂現象もその一つである。「古典力学」では起きないことが起きるとする「量子力学」に神秘的な(あるいはSF的な)イメージを抱く人がいる。しかし正しく理解すれば、残念ながらそこには何も神秘的なことはない。ポイントは「量子力学的な現象」が現れるのはここで学んでいる力学が扱う世界に比べはるかに小さな世界であって、日常生活で我々が気がつかないだけである。 (2.6.2)式が与える物体が存在出来る領域はV(x)を与えると定まるが、その定まり方は xの全領域(-∞≤ x≤+∞)で運動が起きる。 xの限られた領域( a≤x≤b)でのみ運動が起きる。 xの正または負の領域でのみ運動が起きる。 のいずれかになる。ここでは(2.6.2)式が2の場合を与えると想定して、(2.6.1)式からその運動を求める方法を与える。すなわち <2-51> (2.6.3) a≤x≤b のとき v2=2[E- V(x)]m≥0 であるとする。v=dxdtであるから、ゆえに <2-52> (2.6.4) v=dxdt=± 2mE-V(x) である。vが正の時は物体がx の正方向に進んでいる状態を表し、負の時はxの負方向に進んでいる状態を表す。この右辺はxの関数であるから、この式は xに関する変数分離型の微分方程式である。したがって、この方程式を標準的なやり方で <2-53> (2.6.5) ∫ 1E-V(x)dx= 2m∫dt+C =2mt+C と解くことができる。左辺はもしV(x)が与えられれば積分が実行でき、その結果x(t)に関する普通の代数方程式が現われ、それからx(t)が求められる。 x(t)を求めるこの方法は (2.6.5)式左辺の不定積分を行う。 その結果から現れるxの方程式を代数的に解いて x(t)を求める という二つの過程を含んでおり、それらが必ずしも容易に実行できるとは限らない。それにもかかわらずこの方法が重要なのは、 二階微分方程式であるニュートンの運動方程式とは違って(2.6.4)式は一階微分方程式であるから、比較的簡単に解ける場合が多い。 もし(2.6.5)式以降の処理が困難であっても、それを近似的に処理することができれば、考えている物理系の運動の様子が大体わかる。実際にこの近似的な方法がいくつか与えられている。 簡単な運動でこの方法の例を示そう。直線x軸上にあり力を受けずに運動する質量mの質点を考える。この運動に対するニュートンの運動方程式は(2.2.1)式であって、時刻t=0で位置 x0から速度v0をもって運動が始まるとき、時刻tにおける速度 v(t)と位置 x(t)は(2.2.3)式および(2.2.4)式、すなわち <2-54> (2.6.6) x(t)=x0+v 0tv(t)=v 0 であった。この結果を「エネルギー保存の法則」を使って求めることにする。 力が働いていないので(2.5.10)式でF=0である。 V(x)を xで微分して符号を反転したものが Fであるから((2.5.6)式)、それが0であるためには Vは定数でなければならない。ここではそれを 0とすると、(2.5.11)式の「エネルギー保存則」は <2-55> (2.6.7) m2v2( t)=E である。運動を開始するt=0における位置を x0、速度を v0(≥0)とする。(2.6.7)式の Eは時間で変わらないから、したがってその Eにt=0 で値を与えると <2-56> (2.6.8) E=m2v 02 である。このとき(2.6.5)式は <2-57> (2.6.9) ∫1Edx =±2mt+C であり、定数Eは(2.6.8)式の定数であるから、左辺の積分は簡単に実行できて xE= 2mxv0 を与える(v0≥0としたことを思い出せ)。よって(2.6.9)式は <2-58> (2.6.10) 2m xv0=±2m t+C となる。t=0で x=x0であったから、よってC は <2-59> (2.6.11) C=2m x0v0 である。したがってCを左辺に移項して(2.6.10)式は <2-60> 2mx- x0v0=± 2mt となる。書き換えると <2-61> x-x0=± 2mtm2v0 =±v0t であるから、よって整理して <2-62> (2.6.12) x=x0±v 0t となる。時刻tにおける速度はこれを tで微分した <2-63> v(t)=dx( t)dt=±v0 であり時間によって変わらない一定の値になるが、時刻t=0における速度をv0としたので v(t)もまた同じ値でなければならない。よって <2-64> (2.6.13) v(t)=v0 である。これは(2.6.12)式の複合±が+でなければならないことを意味している。以上をまとめると、力学的エネルギー保存則が(2.6.8)式で与えられる質量mの質点の時刻tにおける位置と速度は <2-65> (2.6.14) x(t)=x0+v 0tv(t)=v 0 となり、まちがいなく(2.6.6)式と同じ結果が得られた。 力が位置に依存するもっと一般的な場合が第4章でもう一度出てくるので、次は力学的エネルギー保存則が適用できない特別な種類の力が働く場合を扱うことにする。それは動く速度によって物体に働く力が変わる場合である。 §7 速さによって変わる力を受け運動する質点の運動 運動の速さに依存する力の典型的な例は、軽い物体が空気中を移動するときにそれが空気から受ける「抵抗力」である。この「空気の抵抗力」の正体は運動する物体や空気を構成する微小な要素間(分子間)に働く複雑な力が総合的かつ平均的に表された力であり、物体の運動の速さによって異なる。多くの教科書や参考書では、物体の速さが比較的遅ければ空気の抵抗力は速さに比例し、運動が速くなると抵抗力の大きさは速さの二乗に比例するとされているが、このことはそれほど明確に検証されていない。しかしここでは運動方程式を数学的に処理する例題として、その二つの場合を考えることにしよう。 いま、空気中で直線(x軸)上を速さ vで運動する質量mの物体が空気から(運動方向と反対の方向に)受ける抵抗力の大きさがvの関数で R(v)(≥0)であり、この物体には空気の抵抗力以外に働く力がないとする。物体が軸上を右方に進むとき(v≧0) 、それに抵抗する力は左方に向かって働くので、抵抗力は-Rであり、物体が左方に進むとき(v≦0)、それに抵抗する力は右方に向かって働くので、抵抗力は+Rである。したがって、この物体の運動方程式は <2-66> (2.7.1) md2x dt2= -R(v)(v が正、すなわち物体がx軸上を右方に進むとき) +R(v)(v が負、すなわち物体がx軸上を左方に進むとき) である。(ちなみに上式の右辺は- vvR( v)とも書ける。これが確かに上式の右辺を与えることは各自が確かめよ。) ここでは質点がx軸上を右方に進行する(すなわち vが正である)場合を考える。 d2xdt2= dvdtであるから、そうすると(2.7.1)式は簡単な一階の変数分離型の微分方程式 <2-67> (2.7.2) mdvdt=-R (v) であるから、 <2-68> (2.7.3) m∫1R(v)dv =-∫dt+C =-t+C と解かれる。ここで右辺のCは積分定数である。もし R(v)の具体的な形が与えられれば左辺の積分が実行でき、その結果からtの関数として v(t)を求めることができる。以下に簡単な、しかし現実的な例を与える。 冒頭に述べたように、空気の摩擦力は物体の速さが小さいときにはvの一次に比例し、速さが大きくなるとv2に比例するとされている。そこでR(v)として <2-69> (2.7.4) R(v)= αv(v が小さい時)βv2 (vが大きい時) とする。αとβは正の定数であり、実験や観察から物体が何から抵抗を受けるかによって、それらの数値が与えられている。上の二つの場合に対し、かつ物体が x軸上を右方に進行するとき((2.7.1)式の第一式の場合)に、(2.7.3)式左辺の積分を実行する。その結果は <2-70> m∫1αvdv=mα lnv=-t+C(v が小さい時)m∫1 βv2dv=-mβv =-t+C(v が大きい時) である。そこでt=0の時の速度を v0として定数Cを決めると <2-71> C= mαlnv0 (vが小さい時) -mβv0 (vが大きい時) であるから、これを解に代入して整理すると、(2.7.2)式の解は <2-72> (2.7.5) v(t)= v0e-αt (vが小さい時) v01+(β/m )v0t(v が大きい時) となる。 さらにv=dxdtであるから、(2.7.5)式はx(t)についての変数分離型の微分方程式である。詳細は省くが、v(t)を求めたのと同じようなやり方でこれからx(t)を求めると、最終的に <2-73> (2.7.6) x(t)= v0∫e- (α/m)tdt+C'= -mv0αe-( α/m)t+C' (vが小さい時) v0∫11+(β /m)v0tdt+C' =mβln(1+v0 βmt)+C' (vが大きい時) を得る。ここで右辺のC'は積分定数であり、物体が運動を始める(t=0における)位置を x0とすることでそれを決めると <2-74> (2.7.7) C'= x0+mv 0α(vが小さい時 )x0(v が大きい時) であるから、最終的に <2-75> (2.7.8) x(t)= x0+mv 0α1-e- (α/m)t( vが小さい時)x0 +mβln1+ v0βmt( vが大きい時) を得る。 【考えよ】 (2.7.8)式の結果は、十分時間が経過すると(t→∞ になると)物体は <2-76> x(t)→ x0+mv0 α(vが小さい時) ∞(vが大きい時) となり、x0から mv0α 離れた点まで徐々に速さを遅くしながら動いて最終的に静止するか、あるいは徐々に遅くなりながらも無限遠方まで走り去ることになる。この結果は妥当であるか。もし妥当でないとするとなぜ妥当でないか。 [1] 「力が作用しない」を文字通り「力が働いていない」と考えてはいけない。もちろんその場合もあるが、複数の力が働いていても「力が作用しない」状況の生じる場合がある。たとえば一つの物体を前後から同じ力で押すと物体は動かない。これを「慣性の法則」を使って表現すると、物体は静止を続けているので物体には力が作用していない。 [2] 「質量」にはこの他に「重力質量」とよばれる、定義が異なる質量がある。詳しい説明は省くが、我々が住む地球環境下では「重力質量」と「慣性質量」は同じになるので、この教科書ではそれらを区別せずに単に「質量」と呼ぶことにする。 [3] 常に直線上にある二つの物体が及ぼし合う力は大きさが同じで直線に沿って反対方向を向いているが、二つの物体が直線上になくてもよいなら、及ぼし合う力の方向がそれらを結ぶ直線上にあるとは必ずしも限らない。その場合でも「作用反作用の法則」は成立する。そのときは、第六章でわかるように、物体は直線上からずれて運動する(回転する)。 [4] その違った考え方を慣習上“力”と表現することもあるが、それはここでいう力とは違って、むしろ“エネルギー”とよぶべき量である。 [5] もしこれが水中や空気中を運動する物体であって、物体表面の分子と水や空気の分子の間に働く力が無視できないときは、その力を物体と水や空気の間に働く「粘性抵抗」とよぶ仮想的な力でおきかえる。 [6] 例えば、体重が60Kgである人の体重は(物理の言葉を使って正確に言えば「体重が60Kg重である人の体重は」 地上1000mの飛行機の中で約20g軽くなる。 [7] 「重み」はその量の“重要さ”を表す量であると思えばよい。 [8] むしろ、(2.4.8)式が質量mを持つ質点(物体)の運動を表す方程式の正しい形であって、もしmがどのようなときも変わらないならmは時間微分の影響を受けないので(2.4.5)式となる。実際には mは物体の速度とともに変化するので、そのときは(2.4.8)式でなければならない。しかしそれを気にしなければならないのは物体の速度が極端に大きい時で、日常の出来事でm の変化を考える必要はまったくない。 [9] ここではFを xの関数であるとしているが、必ずしも xの関数であるとは限らない。その場合であっても仕事をこの形で定義する。 [10] 位置エネルギーは「ポテンシャル・エネルギー」とよばれる一般的なエネルギー形態の一つである。「potential(ポテンシャル)」は「潜在的能力」を表す英語であり、この場合は位置エネルギーが運動エネルギーに変化する能力を持っていることを意味している。
【道草】 「鉛直」と「垂直」を混同する人がよくいる。「鉛直」な方向は文字通り地球上で鉛のおもりに糸をつけて垂らした時におもりが指す方向(したがって地球の中心に向かう方向)を意味し、「垂直」な方向は適当な方向を持つ直線があったとき、それと90°の角度をなす方向である。したがって、たとえば「鉛直方向に垂直な方向は水平方向」である。また、鉛直な方向は一つしかないが垂直な方向は常に二つある。
<2-10> (2.2.5) md2x( t)dt2=-mg
である。両辺からmを消去すればこの微分方程式は§1.1で与えた、直線( x軸)上を加速度 a(t)=-gで運動する物体の方程式と同じになる。(2.1.4)式~(2.1.7)式でa(t) =-gとおけば、(1.1.7)式が与える時刻tにおける速度v(t)は
<2-11> (2.2.6) v(t)=v0 -∫gdt=v0-gt
であるから、(2.1.4)式が与える位置x(t)は
<2-12> (2.2.7) x(t)=x0+∫v(t )dt=x0 +∫(v0-gt)dt =x0+v0 t-12gt2
となる。(2.2.6)式と(2.2.7)式中のx0と v0は運動を開始する時刻 (t=0)を与えたときの物体の位置と速度であるから、この運動をどこからどのように始めるかという条件(初期条件)を表す。今の場合はx0 =hおよびv0=0 であるから、したがって高さhからの自由落下(速度 0での落下)運動は
<2-13> (2.2.8) v(t)=-gt x(t)=h-12g t2
となる。
この結果が示すように位置と速度の式には物体の質量が入っていない。したがって、どのような質量の物体が落とされたとしても、すべて同じように落下することがわかる。これが、中世にガリレオがピサの斜塔の頂上から質量の異なる二つの球を同時に落とし、両者が同時に着地するのを観測して得た結論「落下する物体の運動は物体の重さに関係ない」が意味する内容である。
【道草】 ちなみに、ガリレオは1564年に生まれ、ニュートンは1642年に生まれている。したがってガリレオがニュートンの運動方程式を知っていたわけではなく、彼は実験からこの結論を得たのである。もっとも「ピサの斜塔からの落下実験」は創作であって、ガリレオが実際に行ったのは斜面を使って重さの違う球を転がり落とす実験であった。
前節で述べたように、力は物体を構成する原子や分子も含めた多数の要素が及ぼし合う複雑な現象を直接観測される量を使って簡単に表現した概念である。いま二つの物体1と2が直線(x軸)上にあって、作用・反作用で及ぼし合う互いの力以外に他から力を受けていないとする。それらの質量、時刻tにおける位置、それらに働く力、それらの運動を決める運動方程式を以下の表に与える:
<2-16> (2.3.1) F12(x)= -F21(x)
である。このことだけから二つの重要な法則(「運動量保存の法則」と「力学的エネルギー保存の法則」)が現れる。以下にそれを示す。
二つの物体の距離だけで大きさが決まり、「作用・反作用の法則」にしたがう(2.3.1)式の力の下で運動する二つの物体に対して表に与えられた運動方程式の両辺を加える。そうすると右辺にある力の足し算は(2.3.1)式から0になり、左辺でm1と m2は定数であるから微分の影響を受けないので、
<2-17> (2.4.1) m1d2 x1dt2+ m2d2x2d t2=d2[m 1x1+m2x2 ]dt2=0
を得る。 そこで、二つの物体の質量と位置座標を使って
<2-18> (2.4.2) X(t)=m 1x1(t)+m2 x2(t)m1+m 2
という量を作る。(m1+m2 )は二つの物体の質量の和であり、それをMと書いて系の「全質量」と呼ぶことにする。 数学で二つの量Q1と Q2に対して Q1+Q22 によって与えられる二つの量の中間的な値を「Q1 とQ2の相加平均」という。しばしばQ1と Q2が持つ重要さ(重み)が異なることがあり、それを取り入れた平均を作ることがある[7]。そのときは、1と2の重みをそれぞれw1と w2として、相加平均の代わりに
<2-19> (2.4.3) Q=w 1Q1+w2Q2 w1+w2
を平均とする。この量を「Q1と Q2の加重平均」という。相加平均が二つの値の平均値であるのに対して、加重平均はより重みの大きい値の方にその値が近くなる。(2.4.2)式で与えられるXは質量を重みとした二物体の位置の加重平均であるが、このXを物体 1と2の「質量中心」という。また後で示すが、 m1と m2がそれらを質量に持つ物体を地球が引く力(すなわち物体の重さ)に比例することから Xを「質量中心」の代わりに二つの物体の「重量中心(重心)」ともいう。この「重心」という言葉は物理以外でもよく使われる。 X(t)を使うと(2.4.1)式は
<2-20> (2.4.4) Md2X( t)dt2=0
と書き換えられる。これは重心X(t)が力を受けずに等速度運動をすることを示している。(2.4.4)式は二つの物体に働く力が「作用反作用の法則」に従う限り、すなわち F12=-F21 である限り必ず成り立ち、力が(2.3.1)式のような距離の関数である必要は必ずしもない。まとめると
「作用反作用の法則」に従う力を及ぼしあって運動する二物体の重心は必ず等速運動をする。
これを少し違った考え方で理解するため、力Fの作用の下で直線 (x軸)上を運動する質量m を持つ物体の運動方程式((2.1.3)式)にもどる。この物体の速度はv( t)=dx(t)dtであったから、(2.1.3)式を
<2-21> (2.4.5) mdv(t) dt=F
と書くこともできる。またmが定数であることから、それを微分のなかに入れてこの式を
<2-22> (2.4.6) d[mv(t) ]dt=F
と書いてもよい。左辺にある時間の関数
<2-23> (2.4.7) mv(t)≡p( t)
を質量mと速度vを持つ物体の「運動量」という。運動量を使って、力Fの下で運動する物体の運動方程式を
<2-24> (2.4.8) dp(t)dt =F
と書くことができる[8]。 あらためて、物体1と2 の速度をv1(t)= dx1(t)dtおよび v2(t)= dx2(t)dt、それらの運動量を p1(t)= m1v1(t)および p2(t)=m 2v2(t)とすれば、前節の表にある物体 1と2の運動方程式はそれぞれ
<2-25> (2.4.9) dp1(t)dt= F21dp2(t) dt=F12,
である。また(2.4.2)式で与えられる重心X(t)の速度を
<2-26> (2.4.10) V(t)=dX (t)dt
とすると、重心の運動方程式である(2.4.4)式は
<2-27> (2.4.11) MdV(t) dt=0
とも書ける。重心に対してもその運動量をP(t)= MV(t)として、この式を
<2-28> (2.4.12) dP(t)dt =0
と書いてもよい。 (2.4.2)式の重心の定義を(2.4.10)式のX(t)に代入しm1とm2が時間によらないことを考えると、重心の速度を与える(2.4.10)式は
<2-29> V(t)=dm 1x1(t)+m2 x2(t)m1+m 2dt =1Md m1x1 dt+1Md m2x2 dt = p1M+p2 M
となる。重心の運動量がP(t)=MV( t)であったからこの式は
<2-30> (2.4.13) P=p1+ p2
を意味する。二つの物体が持つ運動量の和に等しいPをこの系の「全運動量」という。「作用・反作用の法則」にしたがう力の下で運動する二物体に対して(2.4.12)式が必ず成り立ち、そのような二物体が持つ全運動量は系の重心が持つ運動量に等しいので、次の結論が得られる。
【運動量保存則】
二つの物体に働く力が「作用・反作用の法則」にしたがう時、その系の重心は等速運動を行い((2.4.4)式)、その系の全運動量は時間が経っても変わらない(すなわち保存する)((2.4.12)式)。
<2-31> (2.5.1) md2x dt2=mdvdt=F (x)
である。ここでv=dxdtは xにおけるaの速度である。 ここで高校数学の微分の学習で学び、また「物理数学」で学んだ合成関数の微分に関する公式を利用する。その公式を復習しておく。いま yを変数に持つ関数f (y)があるとする。yがさらに xの関数y( x)であれば、fは結局 xの関数となり、fをxで微分することができる。その結果は
<2-32> (2.5.2) df(y(x) )dx=df(y)dy dy(x)dx
であった。ここではこれを利用する。 いま速度v(t)を変数に持つ運動エネルギーを考える。物体-の質量をmとすると、運動エネルギーは
<2-33> (2.5.3) T(v)=m2 v2 である。vはtの関数なのでTもtの関数であるから、それをtで微分することができる。(2.5.2)式を使うと、 <2-34> dTdt=dTdvdvdt =m2dv 2dvdvdt =m2(2v) dvdt=v mdvdt である。この最後の式は(2.5.1)式の真ん中の式にvをかけた式に等しく、したがって(2.5.1)式の最後の式にvをかけた式と等しい。よって vをdxdt にもどせば、等式 <2-35> dTdt=F(x) dxdt を得る。この両辺を時刻tで t1からt2まで積分をする。 そうすると、上の式を使えば <2-36> ∫t1t2 dTdtdt=∫t1 t2F(x)dxdtdt となる。この式の両辺は次のように書き換えられる。左辺では、時刻 t1のとき質点が x1にあって速度 v1を持ち、時刻 t2のとき質点が x2にあって速度 v2を持っていたとする。 そのときの運動エネルギーをそれぞれm2v 12≡T1と m2v22≡T2 とすれば、左辺は <2-37> ∫t1t2dTdt dt=∫T1T2dT =T2-T1 となる。一方右辺は <2-38> ∫t1t2 F(x)dxdtdt=∫ x1x2F(x)dx であるから、ゆえに <2-39> (2.5.4) T2-T1 =∫x1x2F(x )dx が成り立つ。物理では上の式の右辺に現れた量を特別な言葉で呼ぶ。 ・ ∫x1x2 F(x)dxを「力F が質点をx1から x2まで移動するために行う仕事」という[9]。 物理では「仕事」をこのように積分で定義するため「仕事」は符号を持ち、その符号が意味を持つ。すなわち <2-40> (2.5.5) ∫x1x2 F(x)dx=-∫x2 x1F(x)dx であるから、「力Fが質点を x1からx2まで移動するために行う仕事」は「力Fが質点を x2からx1まで移動するために行う仕事」のマイナスである。 【道草】 このように、物理における「仕事」には「正の仕事」「負の仕事」といった独特の表現がある。これが物理を学ぶときにしばしば混乱を起こす原因になり、ついには物理に対し拒絶反応を抱かせるようなことになる。そのためこの表現を与えることに躊躇するが、多くの教科書でそのような表現を使っており、もし知らなければ重要な内容も理解できないことがあるので、ここであえてその表現を与えておく。例えば人間がバーベルを持ち上げるときの仕事が正であれば「人間がバーベルに仕事をした」ことになるが、それが負ならば「バーベルが人間に仕事をした」ことになる。後者を「人間がバーベルから仕事をされた」と表現することもある。 (2.5.4)式が持つ重要な概念を引き出すために次のようなことを考える。今xで微分すると(-F(x))となるような関数V(x)があったとする。すなわち F(x)が <2-41> (2.5.6) F(x)=- dV(x)dx であったとする。そうすると(2.5.4)式の右辺を <2-42> (2.5.7) ∫ x1x2F(x)dx= -∫x1x2dV (x)dxdx =V(x1)-V(x2 ) と書くことができるから、(2.5.4)式は <2-43> (2.5.8) T1+V(x 1)=T2+V(x2 ) と書き換えられる。 (2.5.4)式の積分の上限(x2)と下限 (x1)はどこの点であってもよかったから、x1をあらためて任意の点を表す xと書き、x2 を適当に定めた定点x0と書く。 x0の決め方に不安を感じるかもしれないが、それがどこであってもこれから与える結果には関係がない。これからそれを示しながら、(2.5.8)式が持つ意味を考えていく。 (2.5.7)式で積分の上限(任意の点)をx、下限(定点)を x0とすると、(2.5.7)式は <2-44> ∫x0xF (x)dx=V(x0)-V (x) であるから、これからV(x)を <2-45> (2.5.9) V(x)=V( x0)+-∫x0 xF(x)dx と表すことができる。そうすると(2.5.7)式の右辺は <2-46> V( x1)-V(x2) =V(x0) +-∫x0x1 F(x)dx- V(x0)+ -∫x0x2F( x)dx =-∫x0x1 F(x)dx+∫x0 x2F(x)dx =+∫x1x0 F(x)dx+∫x0 x2F(x)dx =∫x1x2F(x )dx となってV(x0)が消え(2.5.7)式の左辺と完全に一致する。これでわかったように、x0をどこに選んでも上式は(2.5.7)式の左辺を必ず与える。すなわちx0をどこに選んでも(2.5.7)式の等式を成り立たせることができるので、x0 をどこに選んでもよい。そこであらためて、V(x) =0を満足する点があったとして、その点をx0 とすることにする(このことをV(x)の零点をx0に選ぶ」という)。もちろん V(x)の零点は F(x)が具体的に与えられなければ決まらない。そうすると(2.5.9)式の右辺の第一項目は0になるから、 V(x)は <2-47> (2.5.10) V(x)=- ∫x0xF(x)dx となる。この関数V(x)を xで力F(x )を受ける質点のxにおける「位置エネルギー」という。そして(2.5.8)式の左辺または右辺が与える位置エネルギーと運動エネルギーの和を「質点が持つ全力学的エネルギー」という。そうすると(2.5.8)式の左辺は時刻t1における全力学的エネルギーであり、右辺は時刻t2における全力学的エネルギーである。したがってそれらが等しいことを示す(2.5.8)式は時刻t1と時刻 t2における全力学的エネルギーが等しいことを表しており、t1と t2はいつの時刻であってもよいから、したがって(2.5.8)式はこの物理系の全力学的エネルギーが時間が経っても変わらないことを表している。このことを系の「全力学的エネルギーは保存する」あるいは「全力学的エネルギーの保存則」といい、この結論を与える条件の(2.5.6)式を満たす力、すなわち位置エネルギーを持つような力を「保存力」という。以上をまとめると 【力学的エネルギー保存則】 もし力が保存力であれば(すなわち力が(2.5.6)式を満たす位置の関数V(x )を持てば)、任意の時刻におけるその系の運動エネルギー mv22 と位置エネルギーV(x)の和(全力学的エネルギー)は時間が経っても変わらない。その変わらないエネルギーをEと書けば <2-48> (2.5.11) m2v2+ V(x)=E である。改めて書くと、左辺第一項目は「運動エネルギー」、左辺第二項目は「ポテンシャル・エネルギー」であり、定数 Eを「全力学的エネルギー」という。 「力学的エネルギーの保存則」が持つ意味を次のように解釈することができる。 T=m2v2 は速度v(t)を通じて時間 tとともに変わり、V (x)も位置x(t)を通じて時間tとともに変わる。したがって(2.5.10)式の左辺は時間とともに変化する量の和である。それがいつも変わらず一定の(E)であるということは、もしTが増えればその増えた量だけ V(t)が減り、もし Tが減ればその減った量だけ V(t)が増える。 すなわち位置エネルギーはその一部を運動エネルギーと交換することができる潜在的な能力を持つ量であると言ってもよい[10]。 「力学的エネルギーの保存則」は物体がどこにあるかによって強さが変わる力を受け運動する物体の運動方程式((2.5.2)式)から直接得られる結論である。その意味で「力学的エネルギーの保存則」と運動方程式は等価であると言えるが、数学的に考えると僅かな違いがある。次節ではそのことを学ぶ。 §6 位置によって変わる力を受け運動する質点の運動 ここでは運動方程式((2.5.2)式)にしたがって運動する質量mの質点の運動を、運動方程式と等価なエネルギー保存則((2.5.11)式)を利用して知る方法を学ぶ。質点に働く力が具体的に与えられれば V(x)の具体的な形が分かり物理系の運動を求めることができるが、ここでは力を決めないで話を進める。したがって以下の議論は位置によって変わる力によって運動するどのような質点に対しても成り立つ。 簡単な例で知ったように、ニュートンの運動方程式を解いて質点の運動を求めると二つの定数が現われ、それを決めるために二つの条件(たとえばある時刻における質点の位置と速度)を与えなければならなかった。これはニュートンの運動方程式が質点の位置に対する二階微分係数を含む二階微分方程式であり、それを解くと必ず二つの決まらない定数が現れるためであって、「微分方程式の解は含まれる微分係数の階数だけの決まらない定数を必ず含む」ことは数学的に避けることができない。 一方、力が与えられてそれからV(x)がわかれば、(2.5.10)式は速度v(t)についての二次方程式とみなせるので、それを解いてv(t)を求めることができる。速度は質点の位置の一階微分であるから、速度が求められれば位置に対する一階微分方程式が与えられたことになる。簡単に解けるかどうかは別にして、もし解けたとするとその解は決まらない定数を必ず含む。この場合は一階の微分方程式なので決まらない定数は一個だけであり、したがってそれを決めるために与える条件も一個でよい。 先に、「力学的エネルギーの保存則と運動方程式は等価である」と書いた。すでに知っているように、運動方程式は二階の微分方程式であるから、それを解くと決めるべき定数が必ず二個現れる。それに対して「力学的エネルギーの保存則」からは一個の定数しか現れない。そのため二つの方法は等価ではないと思うかもしれない。しかし、実は「力学的エネルギーの保存則」は一階の微分方程式を与えるにもかかわらず、その解は二個の決めなければならない定数を含んでいるのである。その一個は最初から含まれている全力学的エネルギーのE で、この値もどこかで運動の条件を与えてその値を決めなければならない。運動を調べる時に「運動方程式」と「力学的エネルギーの保存則」のどちらを使っても同じ解が得られる。与えられた物理系の運動を調べる時に「運動方程式」を使った方が便利か、あるいは「力学的エネルギーの保存則」を使った方が便利かは場合による。以下に「力学的エネルギーの保存則」を使った運動の調べ方の例を与えるので、もし「力学的エネルギーの保存則」を使って運動を調べなければならないときはその真似をすればよい。 (2.5.10)式から出発して質量mを持つ質点の運動を求めるには、まず(2.5.10)式を <2-49> (2.6.1) v2=2[ E-V(x)]m と書き換えることが最初である。vは物体の速度であるから、もしそれが正であれば質点はx軸上を右側に動き、負なら左側に動く。いずれにせよ、 vの正負にかかわらずv 2は必ず正または0であり、このことは(2.6.1)式右辺の分子内の関数に条件 <2-50> (2.6.2) E-V(x)≥ 0 を与える。この不等式は質点の位置座標xが変化する範囲を制限し、その範囲は Eの値によって定まる。 【道草】ここで学んでいる力学は、20世紀以降に発展した「量子力学」と区別され「古典力学」と呼ばれる。「量子力学」を学ぶと「古典力学」ではあり得なかったいくつかのことに出合う。その一つが質点(粒子)の運動を「量子力学」を使って扱うと、質点(粒子)がここで与えた領域を越えた、(2.6.1)式の左辺が負となる領域にも条件によっては存在し得ることがわかる。この「トンネル効果」と呼ばれる現象を利用して開発されたのが半導体である。また原子力発電でエネルギーを提供する核分裂現象もその一つである。「古典力学」では起きないことが起きるとする「量子力学」に神秘的な(あるいはSF的な)イメージを抱く人がいる。しかし正しく理解すれば、残念ながらそこには何も神秘的なことはない。ポイントは「量子力学的な現象」が現れるのはここで学んでいる力学が扱う世界に比べはるかに小さな世界であって、日常生活で我々が気がつかないだけである。 (2.6.2)式が与える物体が存在出来る領域はV(x)を与えると定まるが、その定まり方は xの全領域(-∞≤ x≤+∞)で運動が起きる。 xの限られた領域( a≤x≤b)でのみ運動が起きる。 xの正または負の領域でのみ運動が起きる。 のいずれかになる。ここでは(2.6.2)式が2の場合を与えると想定して、(2.6.1)式からその運動を求める方法を与える。すなわち <2-51> (2.6.3) a≤x≤b のとき v2=2[E- V(x)]m≥0 であるとする。v=dxdtであるから、ゆえに <2-52> (2.6.4) v=dxdt=± 2mE-V(x) である。vが正の時は物体がx の正方向に進んでいる状態を表し、負の時はxの負方向に進んでいる状態を表す。この右辺はxの関数であるから、この式は xに関する変数分離型の微分方程式である。したがって、この方程式を標準的なやり方で <2-53> (2.6.5) ∫ 1E-V(x)dx= 2m∫dt+C =2mt+C と解くことができる。左辺はもしV(x)が与えられれば積分が実行でき、その結果x(t)に関する普通の代数方程式が現われ、それからx(t)が求められる。 x(t)を求めるこの方法は (2.6.5)式左辺の不定積分を行う。 その結果から現れるxの方程式を代数的に解いて x(t)を求める という二つの過程を含んでおり、それらが必ずしも容易に実行できるとは限らない。それにもかかわらずこの方法が重要なのは、 二階微分方程式であるニュートンの運動方程式とは違って(2.6.4)式は一階微分方程式であるから、比較的簡単に解ける場合が多い。 もし(2.6.5)式以降の処理が困難であっても、それを近似的に処理することができれば、考えている物理系の運動の様子が大体わかる。実際にこの近似的な方法がいくつか与えられている。 簡単な運動でこの方法の例を示そう。直線x軸上にあり力を受けずに運動する質量mの質点を考える。この運動に対するニュートンの運動方程式は(2.2.1)式であって、時刻t=0で位置 x0から速度v0をもって運動が始まるとき、時刻tにおける速度 v(t)と位置 x(t)は(2.2.3)式および(2.2.4)式、すなわち <2-54> (2.6.6) x(t)=x0+v 0tv(t)=v 0 であった。この結果を「エネルギー保存の法則」を使って求めることにする。 力が働いていないので(2.5.10)式でF=0である。 V(x)を xで微分して符号を反転したものが Fであるから((2.5.6)式)、それが0であるためには Vは定数でなければならない。ここではそれを 0とすると、(2.5.11)式の「エネルギー保存則」は <2-55> (2.6.7) m2v2( t)=E である。運動を開始するt=0における位置を x0、速度を v0(≥0)とする。(2.6.7)式の Eは時間で変わらないから、したがってその Eにt=0 で値を与えると <2-56> (2.6.8) E=m2v 02 である。このとき(2.6.5)式は <2-57> (2.6.9) ∫1Edx =±2mt+C であり、定数Eは(2.6.8)式の定数であるから、左辺の積分は簡単に実行できて xE= 2mxv0 を与える(v0≥0としたことを思い出せ)。よって(2.6.9)式は <2-58> (2.6.10) 2m xv0=±2m t+C となる。t=0で x=x0であったから、よってC は <2-59> (2.6.11) C=2m x0v0 である。したがってCを左辺に移項して(2.6.10)式は <2-60> 2mx- x0v0=± 2mt となる。書き換えると <2-61> x-x0=± 2mtm2v0 =±v0t であるから、よって整理して <2-62> (2.6.12) x=x0±v 0t となる。時刻tにおける速度はこれを tで微分した <2-63> v(t)=dx( t)dt=±v0 であり時間によって変わらない一定の値になるが、時刻t=0における速度をv0としたので v(t)もまた同じ値でなければならない。よって <2-64> (2.6.13) v(t)=v0 である。これは(2.6.12)式の複合±が+でなければならないことを意味している。以上をまとめると、力学的エネルギー保存則が(2.6.8)式で与えられる質量mの質点の時刻tにおける位置と速度は <2-65> (2.6.14) x(t)=x0+v 0tv(t)=v 0 となり、まちがいなく(2.6.6)式と同じ結果が得られた。 力が位置に依存するもっと一般的な場合が第4章でもう一度出てくるので、次は力学的エネルギー保存則が適用できない特別な種類の力が働く場合を扱うことにする。それは動く速度によって物体に働く力が変わる場合である。 §7 速さによって変わる力を受け運動する質点の運動 運動の速さに依存する力の典型的な例は、軽い物体が空気中を移動するときにそれが空気から受ける「抵抗力」である。この「空気の抵抗力」の正体は運動する物体や空気を構成する微小な要素間(分子間)に働く複雑な力が総合的かつ平均的に表された力であり、物体の運動の速さによって異なる。多くの教科書や参考書では、物体の速さが比較的遅ければ空気の抵抗力は速さに比例し、運動が速くなると抵抗力の大きさは速さの二乗に比例するとされているが、このことはそれほど明確に検証されていない。しかしここでは運動方程式を数学的に処理する例題として、その二つの場合を考えることにしよう。 いま、空気中で直線(x軸)上を速さ vで運動する質量mの物体が空気から(運動方向と反対の方向に)受ける抵抗力の大きさがvの関数で R(v)(≥0)であり、この物体には空気の抵抗力以外に働く力がないとする。物体が軸上を右方に進むとき(v≧0) 、それに抵抗する力は左方に向かって働くので、抵抗力は-Rであり、物体が左方に進むとき(v≦0)、それに抵抗する力は右方に向かって働くので、抵抗力は+Rである。したがって、この物体の運動方程式は <2-66> (2.7.1) md2x dt2= -R(v)(v が正、すなわち物体がx軸上を右方に進むとき) +R(v)(v が負、すなわち物体がx軸上を左方に進むとき) である。(ちなみに上式の右辺は- vvR( v)とも書ける。これが確かに上式の右辺を与えることは各自が確かめよ。) ここでは質点がx軸上を右方に進行する(すなわち vが正である)場合を考える。 d2xdt2= dvdtであるから、そうすると(2.7.1)式は簡単な一階の変数分離型の微分方程式 <2-67> (2.7.2) mdvdt=-R (v) であるから、 <2-68> (2.7.3) m∫1R(v)dv =-∫dt+C =-t+C と解かれる。ここで右辺のCは積分定数である。もし R(v)の具体的な形が与えられれば左辺の積分が実行でき、その結果からtの関数として v(t)を求めることができる。以下に簡単な、しかし現実的な例を与える。 冒頭に述べたように、空気の摩擦力は物体の速さが小さいときにはvの一次に比例し、速さが大きくなるとv2に比例するとされている。そこでR(v)として <2-69> (2.7.4) R(v)= αv(v が小さい時)βv2 (vが大きい時) とする。αとβは正の定数であり、実験や観察から物体が何から抵抗を受けるかによって、それらの数値が与えられている。上の二つの場合に対し、かつ物体が x軸上を右方に進行するとき((2.7.1)式の第一式の場合)に、(2.7.3)式左辺の積分を実行する。その結果は <2-70> m∫1αvdv=mα lnv=-t+C(v が小さい時)m∫1 βv2dv=-mβv =-t+C(v が大きい時) である。そこでt=0の時の速度を v0として定数Cを決めると <2-71> C= mαlnv0 (vが小さい時) -mβv0 (vが大きい時) であるから、これを解に代入して整理すると、(2.7.2)式の解は <2-72> (2.7.5) v(t)= v0e-αt (vが小さい時) v01+(β/m )v0t(v が大きい時) となる。 さらにv=dxdtであるから、(2.7.5)式はx(t)についての変数分離型の微分方程式である。詳細は省くが、v(t)を求めたのと同じようなやり方でこれからx(t)を求めると、最終的に <2-73> (2.7.6) x(t)= v0∫e- (α/m)tdt+C'= -mv0αe-( α/m)t+C' (vが小さい時) v0∫11+(β /m)v0tdt+C' =mβln(1+v0 βmt)+C' (vが大きい時) を得る。ここで右辺のC'は積分定数であり、物体が運動を始める(t=0における)位置を x0とすることでそれを決めると <2-74> (2.7.7) C'= x0+mv 0α(vが小さい時 )x0(v が大きい時) であるから、最終的に <2-75> (2.7.8) x(t)= x0+mv 0α1-e- (α/m)t( vが小さい時)x0 +mβln1+ v0βmt( vが大きい時) を得る。 【考えよ】 (2.7.8)式の結果は、十分時間が経過すると(t→∞ になると)物体は <2-76> x(t)→ x0+mv0 α(vが小さい時) ∞(vが大きい時) となり、x0から mv0α 離れた点まで徐々に速さを遅くしながら動いて最終的に静止するか、あるいは徐々に遅くなりながらも無限遠方まで走り去ることになる。この結果は妥当であるか。もし妥当でないとするとなぜ妥当でないか。 [1] 「力が作用しない」を文字通り「力が働いていない」と考えてはいけない。もちろんその場合もあるが、複数の力が働いていても「力が作用しない」状況の生じる場合がある。たとえば一つの物体を前後から同じ力で押すと物体は動かない。これを「慣性の法則」を使って表現すると、物体は静止を続けているので物体には力が作用していない。 [2] 「質量」にはこの他に「重力質量」とよばれる、定義が異なる質量がある。詳しい説明は省くが、我々が住む地球環境下では「重力質量」と「慣性質量」は同じになるので、この教科書ではそれらを区別せずに単に「質量」と呼ぶことにする。 [3] 常に直線上にある二つの物体が及ぼし合う力は大きさが同じで直線に沿って反対方向を向いているが、二つの物体が直線上になくてもよいなら、及ぼし合う力の方向がそれらを結ぶ直線上にあるとは必ずしも限らない。その場合でも「作用反作用の法則」は成立する。そのときは、第六章でわかるように、物体は直線上からずれて運動する(回転する)。 [4] その違った考え方を慣習上“力”と表現することもあるが、それはここでいう力とは違って、むしろ“エネルギー”とよぶべき量である。 [5] もしこれが水中や空気中を運動する物体であって、物体表面の分子と水や空気の分子の間に働く力が無視できないときは、その力を物体と水や空気の間に働く「粘性抵抗」とよぶ仮想的な力でおきかえる。 [6] 例えば、体重が60Kgである人の体重は(物理の言葉を使って正確に言えば「体重が60Kg重である人の体重は」 地上1000mの飛行機の中で約20g軽くなる。 [7] 「重み」はその量の“重要さ”を表す量であると思えばよい。 [8] むしろ、(2.4.8)式が質量mを持つ質点(物体)の運動を表す方程式の正しい形であって、もしmがどのようなときも変わらないならmは時間微分の影響を受けないので(2.4.5)式となる。実際には mは物体の速度とともに変化するので、そのときは(2.4.8)式でなければならない。しかしそれを気にしなければならないのは物体の速度が極端に大きい時で、日常の出来事でm の変化を考える必要はまったくない。 [9] ここではFを xの関数であるとしているが、必ずしも xの関数であるとは限らない。その場合であっても仕事をこの形で定義する。 [10] 位置エネルギーは「ポテンシャル・エネルギー」とよばれる一般的なエネルギー形態の一つである。「potential(ポテンシャル)」は「潜在的能力」を表す英語であり、この場合は位置エネルギーが運動エネルギーに変化する能力を持っていることを意味している。
である。vはtの関数なのでTもtの関数であるから、それをtで微分することができる。(2.5.2)式を使うと、
<2-34> dTdt=dTdvdvdt =m2dv 2dvdvdt =m2(2v) dvdt=v mdvdt
である。この最後の式は(2.5.1)式の真ん中の式にvをかけた式に等しく、したがって(2.5.1)式の最後の式にvをかけた式と等しい。よって vをdxdt にもどせば、等式
<2-35> dTdt=F(x) dxdt
を得る。この両辺を時刻tで t1からt2まで積分をする。 そうすると、上の式を使えば
<2-36> ∫t1t2 dTdtdt=∫t1 t2F(x)dxdtdt
となる。この式の両辺は次のように書き換えられる。左辺では、時刻 t1のとき質点が x1にあって速度 v1を持ち、時刻 t2のとき質点が x2にあって速度 v2を持っていたとする。 そのときの運動エネルギーをそれぞれm2v 12≡T1と m2v22≡T2 とすれば、左辺は
<2-37> ∫t1t2dTdt dt=∫T1T2dT =T2-T1
となる。一方右辺は
<2-38> ∫t1t2 F(x)dxdtdt=∫ x1x2F(x)dx
であるから、ゆえに
<2-39> (2.5.4) T2-T1 =∫x1x2F(x )dx
が成り立つ。物理では上の式の右辺に現れた量を特別な言葉で呼ぶ。
・ ∫x1x2 F(x)dxを「力F が質点をx1から x2まで移動するために行う仕事」という[9]。
物理では「仕事」をこのように積分で定義するため「仕事」は符号を持ち、その符号が意味を持つ。すなわち
<2-40> (2.5.5) ∫x1x2 F(x)dx=-∫x2 x1F(x)dx
であるから、「力Fが質点を x1からx2まで移動するために行う仕事」は「力Fが質点を x2からx1まで移動するために行う仕事」のマイナスである。
【道草】 このように、物理における「仕事」には「正の仕事」「負の仕事」といった独特の表現がある。これが物理を学ぶときにしばしば混乱を起こす原因になり、ついには物理に対し拒絶反応を抱かせるようなことになる。そのためこの表現を与えることに躊躇するが、多くの教科書でそのような表現を使っており、もし知らなければ重要な内容も理解できないことがあるので、ここであえてその表現を与えておく。例えば人間がバーベルを持ち上げるときの仕事が正であれば「人間がバーベルに仕事をした」ことになるが、それが負ならば「バーベルが人間に仕事をした」ことになる。後者を「人間がバーベルから仕事をされた」と表現することもある。
(2.5.4)式が持つ重要な概念を引き出すために次のようなことを考える。今xで微分すると(-F(x))となるような関数V(x)があったとする。すなわち F(x)が
<2-41> (2.5.6) F(x)=- dV(x)dx
であったとする。そうすると(2.5.4)式の右辺を
<2-42> (2.5.7) ∫ x1x2F(x)dx= -∫x1x2dV (x)dxdx =V(x1)-V(x2 )
と書くことができるから、(2.5.4)式は
<2-43> (2.5.8) T1+V(x 1)=T2+V(x2 )
と書き換えられる。 (2.5.4)式の積分の上限(x2)と下限 (x1)はどこの点であってもよかったから、x1をあらためて任意の点を表す xと書き、x2 を適当に定めた定点x0と書く。 x0の決め方に不安を感じるかもしれないが、それがどこであってもこれから与える結果には関係がない。これからそれを示しながら、(2.5.8)式が持つ意味を考えていく。 (2.5.7)式で積分の上限(任意の点)をx、下限(定点)を x0とすると、(2.5.7)式は
<2-44> ∫x0xF (x)dx=V(x0)-V (x)
であるから、これからV(x)を
<2-45> (2.5.9) V(x)=V( x0)+-∫x0 xF(x)dx
と表すことができる。そうすると(2.5.7)式の右辺は
<2-46> V( x1)-V(x2) =V(x0) +-∫x0x1 F(x)dx- V(x0)+ -∫x0x2F( x)dx =-∫x0x1 F(x)dx+∫x0 x2F(x)dx =+∫x1x0 F(x)dx+∫x0 x2F(x)dx =∫x1x2F(x )dx
となってV(x0)が消え(2.5.7)式の左辺と完全に一致する。これでわかったように、x0をどこに選んでも上式は(2.5.7)式の左辺を必ず与える。すなわちx0をどこに選んでも(2.5.7)式の等式を成り立たせることができるので、x0 をどこに選んでもよい。そこであらためて、V(x) =0を満足する点があったとして、その点をx0 とすることにする(このことをV(x)の零点をx0に選ぶ」という)。もちろん V(x)の零点は F(x)が具体的に与えられなければ決まらない。そうすると(2.5.9)式の右辺の第一項目は0になるから、 V(x)は
<2-47> (2.5.10) V(x)=- ∫x0xF(x)dx
となる。この関数V(x)を xで力F(x )を受ける質点のxにおける「位置エネルギー」という。そして(2.5.8)式の左辺または右辺が与える位置エネルギーと運動エネルギーの和を「質点が持つ全力学的エネルギー」という。そうすると(2.5.8)式の左辺は時刻t1における全力学的エネルギーであり、右辺は時刻t2における全力学的エネルギーである。したがってそれらが等しいことを示す(2.5.8)式は時刻t1と時刻 t2における全力学的エネルギーが等しいことを表しており、t1と t2はいつの時刻であってもよいから、したがって(2.5.8)式はこの物理系の全力学的エネルギーが時間が経っても変わらないことを表している。このことを系の「全力学的エネルギーは保存する」あるいは「全力学的エネルギーの保存則」といい、この結論を与える条件の(2.5.6)式を満たす力、すなわち位置エネルギーを持つような力を「保存力」という。以上をまとめると
【力学的エネルギー保存則】
もし力が保存力であれば(すなわち力が(2.5.6)式を満たす位置の関数V(x )を持てば)、任意の時刻におけるその系の運動エネルギー mv22 と位置エネルギーV(x)の和(全力学的エネルギー)は時間が経っても変わらない。その変わらないエネルギーをEと書けば
<2-48> (2.5.11) m2v2+ V(x)=E
である。改めて書くと、左辺第一項目は「運動エネルギー」、左辺第二項目は「ポテンシャル・エネルギー」であり、定数 Eを「全力学的エネルギー」という。
「力学的エネルギーの保存則」が持つ意味を次のように解釈することができる。
T=m2v2 は速度v(t)を通じて時間 tとともに変わり、V (x)も位置x(t)を通じて時間tとともに変わる。したがって(2.5.10)式の左辺は時間とともに変化する量の和である。それがいつも変わらず一定の(E)であるということは、もしTが増えればその増えた量だけ V(t)が減り、もし Tが減ればその減った量だけ V(t)が増える。
ここでは運動方程式((2.5.2)式)にしたがって運動する質量mの質点の運動を、運動方程式と等価なエネルギー保存則((2.5.11)式)を利用して知る方法を学ぶ。質点に働く力が具体的に与えられれば V(x)の具体的な形が分かり物理系の運動を求めることができるが、ここでは力を決めないで話を進める。したがって以下の議論は位置によって変わる力によって運動するどのような質点に対しても成り立つ。 簡単な例で知ったように、ニュートンの運動方程式を解いて質点の運動を求めると二つの定数が現われ、それを決めるために二つの条件(たとえばある時刻における質点の位置と速度)を与えなければならなかった。これはニュートンの運動方程式が質点の位置に対する二階微分係数を含む二階微分方程式であり、それを解くと必ず二つの決まらない定数が現れるためであって、「微分方程式の解は含まれる微分係数の階数だけの決まらない定数を必ず含む」ことは数学的に避けることができない。 一方、力が与えられてそれからV(x)がわかれば、(2.5.10)式は速度v(t)についての二次方程式とみなせるので、それを解いてv(t)を求めることができる。速度は質点の位置の一階微分であるから、速度が求められれば位置に対する一階微分方程式が与えられたことになる。簡単に解けるかどうかは別にして、もし解けたとするとその解は決まらない定数を必ず含む。この場合は一階の微分方程式なので決まらない定数は一個だけであり、したがってそれを決めるために与える条件も一個でよい。 先に、「力学的エネルギーの保存則と運動方程式は等価である」と書いた。すでに知っているように、運動方程式は二階の微分方程式であるから、それを解くと決めるべき定数が必ず二個現れる。それに対して「力学的エネルギーの保存則」からは一個の定数しか現れない。そのため二つの方法は等価ではないと思うかもしれない。しかし、実は「力学的エネルギーの保存則」は一階の微分方程式を与えるにもかかわらず、その解は二個の決めなければならない定数を含んでいるのである。その一個は最初から含まれている全力学的エネルギーのE で、この値もどこかで運動の条件を与えてその値を決めなければならない。運動を調べる時に「運動方程式」と「力学的エネルギーの保存則」のどちらを使っても同じ解が得られる。与えられた物理系の運動を調べる時に「運動方程式」を使った方が便利か、あるいは「力学的エネルギーの保存則」を使った方が便利かは場合による。以下に「力学的エネルギーの保存則」を使った運動の調べ方の例を与えるので、もし「力学的エネルギーの保存則」を使って運動を調べなければならないときはその真似をすればよい。 (2.5.10)式から出発して質量mを持つ質点の運動を求めるには、まず(2.5.10)式を
<2-49> (2.6.1) v2=2[ E-V(x)]m
と書き換えることが最初である。vは物体の速度であるから、もしそれが正であれば質点はx軸上を右側に動き、負なら左側に動く。いずれにせよ、 vの正負にかかわらずv 2は必ず正または0であり、このことは(2.6.1)式右辺の分子内の関数に条件
<2-50> (2.6.2) E-V(x)≥ 0
を与える。この不等式は質点の位置座標xが変化する範囲を制限し、その範囲は Eの値によって定まる。
【道草】ここで学んでいる力学は、20世紀以降に発展した「量子力学」と区別され「古典力学」と呼ばれる。「量子力学」を学ぶと「古典力学」ではあり得なかったいくつかのことに出合う。その一つが質点(粒子)の運動を「量子力学」を使って扱うと、質点(粒子)がここで与えた領域を越えた、(2.6.1)式の左辺が負となる領域にも条件によっては存在し得ることがわかる。この「トンネル効果」と呼ばれる現象を利用して開発されたのが半導体である。また原子力発電でエネルギーを提供する核分裂現象もその一つである。「古典力学」では起きないことが起きるとする「量子力学」に神秘的な(あるいはSF的な)イメージを抱く人がいる。しかし正しく理解すれば、残念ながらそこには何も神秘的なことはない。ポイントは「量子力学的な現象」が現れるのはここで学んでいる力学が扱う世界に比べはるかに小さな世界であって、日常生活で我々が気がつかないだけである。
<2-51> (2.6.3) a≤x≤b のとき v2=2[E- V(x)]m≥0
であるとする。v=dxdtであるから、ゆえに
<2-52> (2.6.4) v=dxdt=± 2mE-V(x)
である。vが正の時は物体がx の正方向に進んでいる状態を表し、負の時はxの負方向に進んでいる状態を表す。この右辺はxの関数であるから、この式は xに関する変数分離型の微分方程式である。したがって、この方程式を標準的なやり方で
<2-53> (2.6.5) ∫ 1E-V(x)dx= 2m∫dt+C =2mt+C
と解くことができる。左辺はもしV(x)が与えられれば積分が実行でき、その結果x(t)に関する普通の代数方程式が現われ、それからx(t)が求められる。
x(t)を求めるこの方法は
<2-54> (2.6.6) x(t)=x0+v 0tv(t)=v 0
であった。この結果を「エネルギー保存の法則」を使って求めることにする。 力が働いていないので(2.5.10)式でF=0である。 V(x)を xで微分して符号を反転したものが Fであるから((2.5.6)式)、それが0であるためには Vは定数でなければならない。ここではそれを 0とすると、(2.5.11)式の「エネルギー保存則」は
<2-55> (2.6.7) m2v2( t)=E
である。運動を開始するt=0における位置を x0、速度を v0(≥0)とする。(2.6.7)式の Eは時間で変わらないから、したがってその Eにt=0 で値を与えると
<2-56> (2.6.8) E=m2v 02
である。このとき(2.6.5)式は
<2-57> (2.6.9) ∫1Edx =±2mt+C
であり、定数Eは(2.6.8)式の定数であるから、左辺の積分は簡単に実行できて xE= 2mxv0 を与える(v0≥0としたことを思い出せ)。よって(2.6.9)式は
<2-58> (2.6.10) 2m xv0=±2m t+C
となる。t=0で x=x0であったから、よってC は
<2-59> (2.6.11) C=2m x0v0
である。したがってCを左辺に移項して(2.6.10)式は
<2-60> 2mx- x0v0=± 2mt
となる。書き換えると
<2-61> x-x0=± 2mtm2v0 =±v0t
であるから、よって整理して
<2-62> (2.6.12) x=x0±v 0t
となる。時刻tにおける速度はこれを tで微分した
<2-63> v(t)=dx( t)dt=±v0
であり時間によって変わらない一定の値になるが、時刻t=0における速度をv0としたので v(t)もまた同じ値でなければならない。よって
<2-64> (2.6.13) v(t)=v0
である。これは(2.6.12)式の複合±が+でなければならないことを意味している。以上をまとめると、力学的エネルギー保存則が(2.6.8)式で与えられる質量mの質点の時刻tにおける位置と速度は
<2-65> (2.6.14) x(t)=x0+v 0tv(t)=v 0
となり、まちがいなく(2.6.6)式と同じ結果が得られた。 力が位置に依存するもっと一般的な場合が第4章でもう一度出てくるので、次は力学的エネルギー保存則が適用できない特別な種類の力が働く場合を扱うことにする。それは動く速度によって物体に働く力が変わる場合である。
運動の速さに依存する力の典型的な例は、軽い物体が空気中を移動するときにそれが空気から受ける「抵抗力」である。この「空気の抵抗力」の正体は運動する物体や空気を構成する微小な要素間(分子間)に働く複雑な力が総合的かつ平均的に表された力であり、物体の運動の速さによって異なる。多くの教科書や参考書では、物体の速さが比較的遅ければ空気の抵抗力は速さに比例し、運動が速くなると抵抗力の大きさは速さの二乗に比例するとされているが、このことはそれほど明確に検証されていない。しかしここでは運動方程式を数学的に処理する例題として、その二つの場合を考えることにしよう。 いま、空気中で直線(x軸)上を速さ vで運動する質量mの物体が空気から(運動方向と反対の方向に)受ける抵抗力の大きさがvの関数で R(v)(≥0)であり、この物体には空気の抵抗力以外に働く力がないとする。物体が軸上を右方に進むとき(v≧0) 、それに抵抗する力は左方に向かって働くので、抵抗力は-Rであり、物体が左方に進むとき(v≦0)、それに抵抗する力は右方に向かって働くので、抵抗力は+Rである。したがって、この物体の運動方程式は
<2-66> (2.7.1) md2x dt2= -R(v)(v が正、すなわち物体がx軸上を右方に進むとき) +R(v)(v が負、すなわち物体がx軸上を左方に進むとき)
である。(ちなみに上式の右辺は- vvR( v)とも書ける。これが確かに上式の右辺を与えることは各自が確かめよ。) ここでは質点がx軸上を右方に進行する(すなわち vが正である)場合を考える。 d2xdt2= dvdtであるから、そうすると(2.7.1)式は簡単な一階の変数分離型の微分方程式
<2-67> (2.7.2) mdvdt=-R (v)
であるから、
<2-68> (2.7.3) m∫1R(v)dv =-∫dt+C =-t+C
と解かれる。ここで右辺のCは積分定数である。もし R(v)の具体的な形が与えられれば左辺の積分が実行でき、その結果からtの関数として v(t)を求めることができる。以下に簡単な、しかし現実的な例を与える。 冒頭に述べたように、空気の摩擦力は物体の速さが小さいときにはvの一次に比例し、速さが大きくなるとv2に比例するとされている。そこでR(v)として
<2-69> (2.7.4) R(v)= αv(v が小さい時)βv2 (vが大きい時)
とする。αとβは正の定数であり、実験や観察から物体が何から抵抗を受けるかによって、それらの数値が与えられている。上の二つの場合に対し、かつ物体が x軸上を右方に進行するとき((2.7.1)式の第一式の場合)に、(2.7.3)式左辺の積分を実行する。その結果は
<2-70> m∫1αvdv=mα lnv=-t+C(v が小さい時)m∫1 βv2dv=-mβv =-t+C(v が大きい時)
である。そこでt=0の時の速度を v0として定数Cを決めると
<2-71> C= mαlnv0 (vが小さい時) -mβv0 (vが大きい時)
であるから、これを解に代入して整理すると、(2.7.2)式の解は
<2-72> (2.7.5) v(t)= v0e-αt (vが小さい時) v01+(β/m )v0t(v が大きい時)
となる。 さらにv=dxdtであるから、(2.7.5)式はx(t)についての変数分離型の微分方程式である。詳細は省くが、v(t)を求めたのと同じようなやり方でこれからx(t)を求めると、最終的に
<2-73> (2.7.6) x(t)= v0∫e- (α/m)tdt+C'= -mv0αe-( α/m)t+C' (vが小さい時) v0∫11+(β /m)v0tdt+C' =mβln(1+v0 βmt)+C' (vが大きい時)
を得る。ここで右辺のC'は積分定数であり、物体が運動を始める(t=0における)位置を x0とすることでそれを決めると
<2-74> (2.7.7) C'= x0+mv 0α(vが小さい時 )x0(v が大きい時)
であるから、最終的に
<2-75> (2.7.8) x(t)= x0+mv 0α1-e- (α/m)t( vが小さい時)x0 +mβln1+ v0βmt( vが大きい時)
を得る。
【考えよ】 (2.7.8)式の結果は、十分時間が経過すると(t→∞ になると)物体は
<2-76> x(t)→ x0+mv0 α(vが小さい時) ∞(vが大きい時)
となり、x0から mv0α 離れた点まで徐々に速さを遅くしながら動いて最終的に静止するか、あるいは徐々に遅くなりながらも無限遠方まで走り去ることになる。この結果は妥当であるか。もし妥当でないとするとなぜ妥当でないか。
[1] 「力が作用しない」を文字通り「力が働いていない」と考えてはいけない。もちろんその場合もあるが、複数の力が働いていても「力が作用しない」状況の生じる場合がある。たとえば一つの物体を前後から同じ力で押すと物体は動かない。これを「慣性の法則」を使って表現すると、物体は静止を続けているので物体には力が作用していない。
[2] 「質量」にはこの他に「重力質量」とよばれる、定義が異なる質量がある。詳しい説明は省くが、我々が住む地球環境下では「重力質量」と「慣性質量」は同じになるので、この教科書ではそれらを区別せずに単に「質量」と呼ぶことにする。
[3] 常に直線上にある二つの物体が及ぼし合う力は大きさが同じで直線に沿って反対方向を向いているが、二つの物体が直線上になくてもよいなら、及ぼし合う力の方向がそれらを結ぶ直線上にあるとは必ずしも限らない。その場合でも「作用反作用の法則」は成立する。そのときは、第六章でわかるように、物体は直線上からずれて運動する(回転する)。
[4] その違った考え方を慣習上“力”と表現することもあるが、それはここでいう力とは違って、むしろ“エネルギー”とよぶべき量である。
[5] もしこれが水中や空気中を運動する物体であって、物体表面の分子と水や空気の分子の間に働く力が無視できないときは、その力を物体と水や空気の間に働く「粘性抵抗」とよぶ仮想的な力でおきかえる。
[6] 例えば、体重が60Kgである人の体重は(物理の言葉を使って正確に言えば「体重が60Kg重である人の体重は」 地上1000mの飛行機の中で約20g軽くなる。
[7] 「重み」はその量の“重要さ”を表す量であると思えばよい。
[8] むしろ、(2.4.8)式が質量mを持つ質点(物体)の運動を表す方程式の正しい形であって、もしmがどのようなときも変わらないならmは時間微分の影響を受けないので(2.4.5)式となる。実際には mは物体の速度とともに変化するので、そのときは(2.4.8)式でなければならない。しかしそれを気にしなければならないのは物体の速度が極端に大きい時で、日常の出来事でm の変化を考える必要はまったくない。
[9] ここではFを xの関数であるとしているが、必ずしも xの関数であるとは限らない。その場合であっても仕事をこの形で定義する。
[10] 位置エネルギーは「ポテンシャル・エネルギー」とよばれる一般的なエネルギー形態の一つである。「potential(ポテンシャル)」は「潜在的能力」を表す英語であり、この場合は位置エネルギーが運動エネルギーに変化する能力を持っていることを意味している。