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第三章 振動

 振動は自然現象のみならず、社会の様々なところに現れる最も基礎的で最も重要な物理概念である。したがって、その特徴を知っておくことは非常に重要である。この章では基本的な振動の型である「単振動」「減衰振動」「強制振動」「強制減衰振動」について学ぶ。


 §2.1で、「もし物体に力が働いていなければ、その物体は静止または等速運動を続ける」という「慣性の法則」を学んだ。そして§2.5で位置に依存した力の下で運動する物体の力学的エネルギーは時間によって変わらないこと(「力学的エネルギー保存の法則」)を学んだ。この二つがこれからの学習の下敷きになる。
 質量mの物体が位置 xにあるときの位置エネルギーを V(x)とすれば、その物体が持つ力学的エネルギーE

<3-1> (3.1.1) E=m2 v2+V(x)

で与えられ、それは時間が経っても変わらなかった。もし物体に働く力F (x)が分かれば、(2.5.11)式右辺の積分を実行することによって V(x)が得られた。逆に、もし V(x)が分かれば力 F(x)が(2.5.7)式、すなわち

<3-2> (3.1.2) F(x)=- dV(x)dx

によって与えられた。したがって、ある位置(x= x0とする)にある物体に力が働いていない(すなわち F(x0)= 0である)ときは、その点におけるポテンシャル・エネルギーの微係数が 0なので V(x)はその点で最小になっている[1]。「慣性の法則」にしたがえば力が作用しない物体は静止あるいは同じ速度で運動を続けるが、物体がポテンシャル・エネルギーが最小の点にあり、その点が一つであるとすれば物体はその点で静止することになる。すなわち

力が作用していない物体はポテンシャル・エネルギーが最小の位置で静止する。

 直線(x軸)上のある点に一端を固定し、他端に質量 mの物体を取りつけ、物体が自然に静止する位置 (x=0とする)からバネを aだけ引き延ばして、あるいは aだけ押し縮めて手を放す。このとき物体には x=0から移動した距離(「変位」)すなわちaに比例した力が変位と反対の方向に、すなわち物体を最初の静止の位置に戻そうとする方向に働くことが知られている(「フックの法則」)。このような常に静止の位置に戻そうと働く力を「復元力」という。日常的にあるバネのことを考えれば「復元力」の意味がわかるであろう。
 「フックの法則」は観測に基づいた法則のように思うかもしれないが、僅かな力を加えて状態を変えても時間が経つとバネのように元の状態に戻る全ての物理系に対して必ず成立する法則であることが後にわかる。
 典型的なバネの様子を(図3.1)に与え、その下に図の詳しい説明を与える。

(図3.1)【バネとフックの法則の図】


(図3.1)に描かれている図の説明を以下に与える。

【図3.1バネとフックの法則の図の説明】

図の左端に壁を表す縦長な長方形が描かれ、その壁から図の右方向に(水平な方向に)細長い二本の長方形が、一本は壁の最下端から、もう一本は壁の中間辺りから、いずれも壁に垂直に図の右端まで描かれている。この水平な二本の長方形は滑らかな床を表す。壁の中間から出ている床の上には床のなかほどまでの、伸びていない状態のバネを表す螺旋が床に接して置かれている。バネの両端からは短い線分が水平に出ており、左の線分は左方にある壁に固定され、右の線分の先端には物体を表す円形がついている。この円形は床に接している。下方にある床の上には同じバネを表す螺旋が、やはり左端が壁に固定され右端に円形の物体をつけて置かれているが、このバネは上のバネよりも長く描かれ、右方に伸びた状況を表している。

フックの法則にしたがえば、バネの伸び(変位)がxのときに物体に働く力F(x)

<3-3> (3.1.3) F(x)=- kx

である。ここでkはバネの材質によって決まる正の実定数で「バネ定数」と呼ばれる。この力によって物体は

<3-4> (3.1.4) md2x dt2=-kx

にしたがった運動を行う。正の定数km =ωを使えば、この方程式はよく知られた形

<3-5> (3.1.5) d2x dt2=-ω2 x

に帰着する。この微分方程式の解は「物理数学」(§2.8.4の「練習問題1」)で詳しく与えられており、それは

<3-6> (3.1.6) x(t)=A sin(ωt+B)

である。ここでA Bは考えている運動の情報を二つ与えると決まる定数である。そこで、 t=0のときにバネを静止の位置から aだけ引き伸ばして(変位 x=a)から静かに手を放し(速度 v=dxdt= 0で)、物体にこの運動を始めさせていたとする。(3.1.6)式から時刻 tにおける物体の速度は

<3-7> (3.1.7) dxdt= cos(ωt+B)

なので、t=0における条件 (x=adxdt= 0)は

<3-8> (3.1.8)  a=AsinB 0=cosB

を与える。第二の式でAω0であるからB=π2であり、これを第一の式に代入するとA=aを得る。すなわち、(3.1.8)式からAB

<3-9> (3.1.9) A=a, B =π2

と決まる。したがって与えられた条件で運動する物体の時刻tにおける位置と速度は、(3.1.6)式と(3.1.7)式のABに(3.1.9)式の結果を代入して

<3-10> (3.1.10)  x(t)=asin ωt+π2 =acos(ωt)v (t)=cosωt +π2=-sin( ωt)

となる。ωは三角関数の中にある時間とともに変わる角度 (ωt) の時間に関する微分であるから「角速度」とよばれる。
 結局(3.1.3)式の復元力の下では(3.1.10)式で表される運動が起きるが、この運動は次のような特徴を持っている。

  1. t=0で (x=a, v=0)で運動が始まる。運動開始時の速度 v(t)は負であるから、物体は x=0(静止の位置)に向かって動く。
  2. ωt=π2 (すなわち t=π2ω)のときに物体は最大の速度v=-x=0を左方向に通過する。
  3. 物体はωt=π (すなわち t=πω)のとき最左端 x=-aに達し、そこで速度が 0になる。
  4. x=-aに達した物体はそこから向きを変え、徐々に速度を上げながら右方に向けて再び動き出し、ωt=2 π、すなわちt=2 πωTのときに物体は運動の最初の位置 x=aに速度 0で戻る。
  5. 改めてこの時刻をt=0とすれば、物体はそれからTごとに x=ax=-aの間を往復運動する。
このように一定の時間で同じ運動が繰り返される運動を「振動」あるいは「周期運動」といい、系が最初の状態に戻るまでの最短時間T=2π ωをその周期運動の「周期」という。また往復運動の振れ幅 aを「振幅」という。 ωがバネの性質 (k)だけで決まることから、以下のことに気がつくのは非常に重要である。

運動方程式が(3.1.4)式または(3.1.5)式に帰着する周期運動の周期は振動する物体の質量にも振幅にもよらず一定であり、その値はバネの性質だけで決まる。これを「等時性」という。

このような振動(運動方程式が(3.1.4)式または(3.1.5)式に帰着する運動)を「単振動」という。言うまでもなく、単振動の等時性を利用して振動の回数から時間を判別するのが時計の仕組みである。
 ある周期で同じ状態が繰り返される単振動は我々が住む自然環境のなかで非常に多く生じる振動様式である。それには理由がある。それを理解するために、最初に(3.1.10)式の運動をする物理系のポテンシャル・エネルギーを求める。ポテンシャル・エネルギーは

<3-11> (3.1.11) V(x)=- F(x)dx

で与えられるから、これに(3.1.3)式を代入して右辺の積分を行うと

<3-12> (3.1.12) V(x)=- (-kx)dx=12k x2

となる[3]。したがって単振動を次のように表現してもよい:

ポテンシャル・エネルギーが(3.1.12)式で与えられる物理系は単振動をする

この事実の重要なことは「(3.1.12)式の変数xが単振動をする」のであって、xが物体の変位であるかどうか、この物理系がバネであるかどうかは関係ない。これが何を意味するかは簡単に理解できないかもしれないが、我々が住む自然界を支配する大きな原理と密接に関係するということだけを述べておく。
 位置に依存する力を受けて運動する物理系は必ず(3.1.11)式で与えられるポテンシャル・エネルギー V(x)を持つ。もしポテンシャル・エネルギーV(x)が与えられれば、物理系に作用する力がわからなくても 、 その力は(3.1.2)式で与えられる。
 いま、系がそこにあれば力が働かない点(釣り合いの点)があるとして、その点を x=x0とする。そうすると

<3-13> (3.1.13) F(x0)=- V(1)(x0)V'( x0)=0

である。ここで、V(1)(x )V'(x)xの関数 V(x)x で一回微分した後に現れるxの関数であり、 V(1)(x0)はその関数が含む xx0で置き換えた量を表す。釣り合いの点はポテンシャル・エネルギーのxに関する微分が 0である点であるから、ポテンシャル・エネルギーはその点で最小となる(一般にはその点でポテンシャル・エネルギーは極小あるいは極大であるが、ここでは最小としておく。理由については脚注[1]を参照せよ)。逆にもし物理系のポテンシャル・エネルギーに最小となる点があれば、その点で系は力の作用を受けない。したがってもし系がその点で静止すれば、「慣性の法則」によって系は静止の状態をいつまでも続ける。
 いま考えている系に(3.1.13)式のように力が働かない点(x= x0)があったとする。そのとき、(3.1.2)式でそのような力を与えるポテンシャル・エネルギー V(x)x0点の周りにテイラー展開を行うと

<3-14> (3.1.14) V(x )=V(x0)+V( 1)(x0)1!(x- x0)+V(2)( x0)2!(x-x0 )2+V( 3)(x0)3!(x- x0)3+

となる(「テイラー展開」に関しては「物理数学」参照)。ここでV(n )(x)V(x )xn 回微分した後に現れるxの関数であり、 V(n)(x0)はその関数が含む xx0で置き換えた量を表す。x=x0は力が働かない点であるとしているので、上式右辺の二項目は(3.1.13)式から0であり、またもし xx0のごく近くにあれば(x-x0) 3(x-x0 )4のべきを持つ項は(x- x0)2に比べてとても小さくなるのでそれらを無視すると、系が力の働かない点 (x=x0)のごく近くにある限りは、V(x)

<3-15> (3.1.15) V(x)=V(x 0)+V(2)(x 0)2!(x-x0)2

と考えてもよい。x軸の原点(x= 0の点)はどこに取っても良かったからそれをあらためてx0のところに取り(x0=0とし)、さらに右辺二項目の (x-x0)2 =x2の係数を

<3-16> (3.1.16) V(2)(x 0)k  ( =定数)

と置けば、(3.1.15)式は

<3-17> (3.1.17) V(x)=V (0)+12kx2

となる。右辺第一項目の定数V(0)xの関数でない(定数である)ため、 xの微分が 0である。よって、その項の有無に関わらず(3.1.17)式は(3.1.2)式に代入すると(3.1.3)式の力を与えることがわかる。したがって、次のことが言える。

考えている物理系のポテンシャル・エネルギーに最小点、すなわち一階微係数((3.1.14)式右辺第二項目)が0で、二階微係数((3.1.14)式の第三項目の係数)が正であるような点x 0が存在すれば、その物理系は点x= x0で安定に静止し、その物理系は点 x=x0からの僅かなズレに対しその点の周りに kと系の質量で決まる角速度 ω(=k/m )を持ち、周期(T= 2πm/k)の単振動を行う。このとき ωをその系の「固有振動数」という[2]。

つまり、ポテンシャル・エネルギーに最小点があれば、系はその最小点から多少外れて移動しても単振動を起こし、ある時間後に必ず始めの最小点に戻る。重要なことは最小点でポテンシャル・エネルギーの二階微係数が正であることである。このことを物理学では「系は安定である」と表現する[5]。


 もし振動が抵抗のある媒質中で起きると、媒質の粘性による抵抗力が物体に働いて振動が次第に減衰し、最終的に物体は運動を停止する。このように次第に減衰する振動を「減衰振動」という。典型的な場合は空気中で起きる振動である。
 いま質量mの物体が直線 (x軸)上にあり、原点(バネの力が働かない点で x=0とする)からの距離に比例した復元力を受けて空気中を運動する物体が、その速度に比例した空気の抵抗力を受けるとする。この運動に対するニュートンの運動方程式は

<3-18> (3.2.1) md2x dt2=-kx- αdxdt

である。ここでk αはいずれも正の定数である。両辺をmで割り算し

<3-19> (3.2.2)  km=ω αm=

と置き、項をすべて左辺に移せば(3.2.1)式は

<3-20> (3.2.3) d2x dt2+2γdx dt+ω2x=0

と書き換えられる。これは「物理数学」の§2.3【練習2】にある微分方程式と全く同じ形を持っており、そこではその解が

<3-21> (3.2.4) x(t)=C1 e(-γ+γ2-ω2 )t+C2e(-γ- γ2-ω2)t

と与えられた。定数C1C2は運動の条件二つを与えれば決まる。単振動の場合と同じように物体はt=0x=aの位置から dxdt=0で運動を開始したとする。この運動の速度は(3.2.4)式のx(t )tで微分して

<3-22> (3.2.5)  dx(t)dt=(-γ+ γ2-ω2)C1 e(-γ+γ2-ω2 )t+(-γ- γ2-ω2)C2 e(-γ-γ2-ω2 )t

であるから、t=0での条件は

<3-23> (3.2.6)  C1+C2= a-γ+ γ2-ω2 C1+ -γ-γ2-ω2 C2=0

である。これからC1 C2

<3-24> (3.2.7)  C1=12 1-γγ2 -ω2a C2=12 1+γγ2 -ω2a

と与えられ、したがってこの運動は

<3-25> (3.2.8)  x(t)=a2(1- γγ2-ω2)e (-γ+γ2-ω2 )t +(1+γγ2-ω2 ) e(-γ-γ2 -ω2)t

となる。少し注意して調べれば、この式は釣り合いの位置から離されて運動を始めた物体が、十分時間が経過した後ついには (t)で運動を停止することを示している。空気抵抗の大きさγとバネの強さを表す定数 ωの大小によって、物体が停止する仕方に二つの形態のあることがわかる。すなわち

  1. (3.2.8)式をもう一度書くと

    <3-26> (3.2.9)  x(t)=a2(1- γγ2-ω2)e (-γ+γ2-ω2 )t +(1+γγ2-ω2 )e(-γ-γ2- ω2)t

    であるが、γωのときは(すなわち空気の抵抗が大きいときは) (-γ+γ2- ω2<0)かつ(- γ-γ2-ω2<0) であるから、上式のいずれの指数関数も時間とともに単調に減少し、十分時間が経過すると0 となる。したがって原点からa離れて運動を開始した物体は、その位置から媒質(空気)の抵抗を受けながら原点を通り越すことなくゆっくりと原点に戻る。抵抗が大きい時のこの減衰の仕方を「過減衰」という。

  2. γωのとき(すなわち空気の抵抗が小さいとき)、(3.2.8)式中の指数は虚数になってγ2 -ω2=iω2 -γ2と書けるから、(3.2.8)式は

    <3-27> (3.2.10)  x(t)=a2e-γt (1+iγω2 -γ2)eiω2 -γ2t +(1-iγ ω2-γ2)e-i ω2-γ2t

    となる。この式に

    <3-28> (3.2.11) e± iω2-γ2t= cosω2-γ2 t±isin ω2-γ2t

    を代入して整理すると、x(t)

    <3-29> (3.2.12)  x(t)=ae-γt cosω2-γ2 t -γω2-γ2sin ω2-γ2t

    と書き換えられる。物体が単調に原点に向かう過減衰の場合と異なって、時刻 tにおける物体の位置は時間とともに減少する関数( e-γt)x=0の周りを振動する関数の積なので、 x(t)は時間の経過とともに x=0の周りを振動しながら x=0に近づくことになる。過減衰に対してこれを、振動しながら減衰する様式なので、「減衰振動」という。


 振動の原動力である復元力を持った系に外部から力を加えると振動が突然大きくなることがある。よく知っている例にブランコがある。ブランコのように人間が意識的に振動を大きくしようと力を加える場合はよいが、そうでなければ振動が突然大きくなって思わぬ事態が起きることもある。
 外部から加える力には様々な力の加え方が考えられるが、ここではブランコ遊びや自然現象で発生する振動型の力を考える。いま、原点に回帰するような復元力を受けて直線(x軸)上を運動する質量mの物体に外部から時間によって変動する力fcos(Ωt) が加えられたとする。ここで、fは外力の強さを表す定数、 Ωは外力の変動の周期 2πΩを決める定数である。
 この物体の運動を決めるニュートンの運動方程式は

<3-30> (3.3.1) md2x dt2=-kx+ Fcos(Ωt)

である。km= ωおよびFm= fとして上式を書き換えると

<3-31> (3.3.2) d2x dt2+ω2x =fcos(Ωt)

となる。この型の微分方程式は、「物理数学」§2.8で与えた「強制減衰振動」の式で γ=0とし、ω0 ωおよびωΩ とした方程式と同じである。したがって「物理数学」(2.8.41)式に与えた解に上の置き換えを行えば、(3.3.2)式の解が得られる。すなわち

<3-32> (3.3.3) x(t)=C 1eiωt+C2 e-iωt+f|Ω 2-ω2|cos( Ωt)

である。(「物理数学」で与えた解には抵抗力に関係した定数φが含まれているが、ここでは抵抗力を考えていないためにその項は含まれていないことに注意せよ)。右辺の C1C2は定数で、いつものように運動の状態を二つ与えることによって決まる。そこで一つは、運動がt= 0dxd t=0で始まるとする。そうすると、物体の速度は

<3-33> (3.3.4)  dxdt=C1 eiωt-C2e-iωt -|Ω2-ω2 |sin(Ωt)

であるから、t=0とすると、この条件は C1C2に条件

<3-34> (3.3.5) (C1- C2)=0

を与える。したがってC1= C2であるから、(3.3.3)式の解を

<3-35> (3.3.6) x(t)=2 C1cos(ωt)+f |Ω2-ω2| cos(Ωt)

と書くことができる。残った定数C1はもう一つの条件、例えば運動がどこから始まるか(すなわちt= 0における物体の位置)を与えると決まる。そこで、これまでのように、 t=0で運動が x=aから始まったとする。そうすると、(3.3.6)式で t=0として C1を求めると、

<3-36> C1=12 a-f|Ω 2-ω2|

を得る。これを(3.3.6)式に戻し、さらに三角関数の公式

<3-37> cosA-cosB=- 2cosA+B 2sinA -B2

を利用すれば、x(t)は最終的に

<3-38> (3.3.7)  x(t)=acos(ωt) -2f|Ω2 -ω2| sin Ω+ω2t sinΩ-ω 2t

となる。
 (3.3.6)式と(3.3.7)式の右辺の一項目の中にあるωは与えられたバネの強さに関係する定数を含んでおり、二項目のΩは外部から系に加える力の周期を決める定数である。これらの定数は我々が自由に変えることができる。それらをどう与えようとも、運動する物体の位置は(3.3.6)式と(3.3.7)式の右辺一項目のx=0を中心とする単振動と、右辺二項目の外力が加わることで生じる、やはりx=0 を中心とする振動の和で与えられる。一項目の運動は同じ振れ幅で規則的に振動する単振動であるが、二項目は加える外力の特徴を持つ。
 もし外力をΩがバネの特性で決まる ωに近い値になるように調整すると、(3.3.7)式の二項目は非常に大きくなり、その結果物体もx=0からとても遠くまで振れる。このように外部の影響で物体が大きく振れる現象を「共鳴」という。共鳴は、我々が加える力を自由に制御できるので様々なことに利用される。たとえば、外部からではわからない特性(ω )を持つバネがあるとき、これに物体を取りつけ外力を加えて振動させ、外力を調整しながら振動の様子を観測する。そして物体の振動が突然大きくなったときのΩを読み取ってバネの ωを知ることができる。人体内部の断面図を知ることができるMRIも共鳴の原理を利用したものである。共鳴を利用して手に入れた知識はたくさんある。たとえば、金属物質の特性、原子や分子の構造、多数の素粒子の発見などは全てこの共鳴現象を利用して手に入れた知識である。電子レンジの加熱も共鳴を利用する。楽器も共鳴を利用しており、テレビ・ラジオの音声増幅もまた共鳴を利用している。
 一方で、共鳴によって思いがけないことも起きる。物理系は安定な状況から僅かに動かしても安定な状態に復元する力が必ず働き、なにごともなければ系は単振動をしながら安定な状態にもどる。その単振動の角速度は物理系のポテンシャル・エネルギーで決まり、系固有の性質である。もしある状況で外力の角速度が系の固有振動の角速度に近くなると、物理系の振動が思わぬほど大きくなることがある。たとえば、つり橋の中ほどで自分の体を軽く上下動させるだけで吊り橋が大きく揺れる経験を持ったことが誰にもあるだろう[6]。


 振動の最後に、単振動に減衰力と強制力が同時に加わった運動を簡単に与えておく。例によって質量 mの物体が直線(x軸)上にあり、原点(x=0)からの変位に比例した復元力 (-kx)を受けて運動する物体が速度に比例した空気の抵抗力(-αdxdt)を受けており、さらに外部から時間によって変動する力(Fcos(Ωt ))が物体に加えられたとする。定数の意味はこれまで出て来たものと同じである。そうすると物体の運動を決めるニュートンの運動方程式は

<3-39> (3.4.1) md2xd t2=-kx-αdxdt+ Fcos(Ωt)

である。定数をkm=ωFm=fとすれば、(3.4.1)式は

<3-40> (3.4.2) d2x dt2+γdxdt +ω2x=fcos(Ωt )

となる。この微分方程式は、「物理数学」§2.8の(2.8.40)式に与えられた式で ω0ωおよび ωΩとした「強制減衰振動」の方程式である。したがって「物理数学」の(2.8.41)式に与えた解で上の置き換えを行えば(3.4.2)式に対する解が得られる。それは

<3-41> (3.4.3)  x(t)=e-γt C1eγ2-ω2 t+C2e-γ2 -ω2t +fcos(Ωt-φ)

である。右辺最後の項に含まれる定数φは系が含む定数を使って

<3-42> (3.4.4) tanφ=2 γΩω2-Ω2

のように与えられている。その他の定数であるC1 C2はこれまでと同じように運動を始める状態を表す二つの条件を与えれば決まる。
 この場合も外から加える力のΩがバネの定数 ωに等しい時に共鳴が起き、物体の原点からの変動が大きくなる。しかし前の場合とは違って、この場合には速度に比例する抵抗力があるために、共鳴による振れは無限に大きくなれず、 Ω=ωであっても有限にとどまる。そのことを示すこともできるが、ここでは行わない。これ以上の詳細は「物理数学」の§2.8を参照してほしい。


[1] 「微係数が0の点でポテンシャル・エネルギーは最小になっている」は数学的に必ずしも正しい表現ではない(もし数学の試験なら間違いである)。数学的には、一階の微分係数が0だけではその関数が最小であるか最大であるかは判定できない。いずれであるかを判定するためにはその点における二階の微分係数を調べ、それが正であり、かつ一階微分係数の0がただ一つであれば、その点で関数は最小であり、二階の微分係数が負であり、かつ一階微分係数の0がただ一つであれば、その点で関数は最大である。したがって、二階の微分係数を調べなければ関数の最大・最小は判断できないのである。しかし関数がポテンシャル・エネルギーである場合、様々な条件からそれが一階微分係数の0の点で最大となる物理的な状況が起きるとは考えられず、また微分係数の0が多くある場合も限られているので、ほとんどの場合は一階の微分係数が0 の点でエネルギーが最小になっていると考えても良い。ここではそのような場合を想定している。

[2] もちろん振動数νと角速度ωは異なる物理量であり、それらの間には ω=2πνの関係がある。しかしなぜか物理ではポテンシャル・エネルギーから決まるωのことを振動数の名前をつけて「固有振動数」と呼ぶことが多い。慣習だと思えばよい。

[3] 運動方程式の解((3.1.10)式)とω =kmから、この運動の全力学的エネルギーは<3-43> m2 v2+V(x)=m2 a2ω2Eとなり、問題に与えられた定数(物体の質量、バネ定数、振幅)だけで決まる定数になり、たしかにこの運動の力学的エネルギーは時間によって変わらないことがわかる。

[4] この「系の安定性」の条件は“系が安定点から少しズレた場合”のことであって、この条件が満たされたとしても、系が安定点から大きくズレた場合に系が安定であるかどうかはわからない。

[5] (3.3.6)式では、Ω= ωのとき右辺二項目は無限大になるが、実際にこのような運動が起きるときは、運動を起こす周囲から物体に働く抵抗力が運動の速度の増加とともに大きくなり、それが二項目が無限大になることを妨げる。しかしながらその場合でも、外力のΩω に近づくとx=0からの物体の振動は一般的には非常に大きくなる。

[6] 1940年11月に米国ワシントン州にあった吊り橋が風に吹かれ、数分後に崩落する事故があった。これは共鳴によって起きたとされているが、実際には共鳴によって崩落したものではないという報告もある。