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第四章 質点の空間運動

§1 空間の運動学

 直線上を運動する物体の位置を適当な点を原点としたx軸上の座標を使って表し、その位置の時間変化によって質点の運動を表すことができた。この真似をして、ここでは平面上にある質点の運動を表す方程式を学び、さらにそれを拡張して空間にある質点の運動を表す方法を学ぶ。しかし後にわかる理由で、自然界に起きる運動の多くは平面上で行われ、真に空間を運動する質点を扱わなければならないことはそれほど多くない。実際にこの教科書では空間運動を行う物理系を扱わない。
 最初にある平面内を運動する質点を考える。その平面にx軸をとり、その軸上に適当に原点(x=0)を定める。原点を通ってx軸と垂直なy軸を用意する。y軸の正の方向は x軸の正の側から時計の針が回る方向と反対向きに90°回った方向とする。この平面にある質点の位置からx軸と y軸に垂線を降ろし、それが両軸と交わる点までの原点からの距離を測り、それらをx座標とy座標とする。もちろん垂線の足が座標軸の負の側にあれば、距離に負の符号をつける。この(x ,y)の組によって平面上の質点の位置を指定することができる。
 (x,y)の組を与える代わりに、「ベクトル」と呼ばれる量を使って質点の位置を表す方法がある。まず、x軸と y軸に沿って単位とする長さを決める。 x軸に沿った単位の長さを iと書き、y軸に沿った単位の長さを jと書く。そうすると座標 xyはそれぞれ i jx(ix)y(j y)であるから、それらを一緒にして

<4-1> (4.1.1) r=i x+jy

と表すことができる。このようにするとrを一つ与えることによって質点の位置を表すことができる。
 質点が空間にある場合も同じ様に考えることができるが、先に述べたように自然界で起きる空間運動の多くは空間に取られた一つの平面に限られる場合が多い。以下に空間にある質点の位置を指定する方法を与えておくが、この教科書で空間における質点の運動を実際に扱うことはしない。
 空間にある質点の位置を指定するのは平面の場合の単純な拡張である。そのために空間内に互いに直交する x軸、y軸、 z軸を用意する。軸の取り方は次の「右手の規則」にしたがう。

  1. 自分の右手の親指、人差し指、中指を互いに直角に三方に開く。
  2. 三本の指が交差する点を(親指の付け根を)原点とし、親指をx軸の正方向、人差し指をy軸の正方向、中指を z軸の正方向に対応させた座標系を頭のなかに描く。たとえば、x軸を(親指を)水平右向き、y軸を(人差し指を)それに垂直上向きに向けると、 z軸は(中指は)自分を指す。
  3. あらためて、空間にある質点の位置から3軸に垂線を降ろし、それが(x ,y,z)の各軸と交わる点までの原点からの距離を xyz座標とすると、三つの座標 (x,y,z)によって空間にある質点の位置が指定できる。
このように設定された三つの直交軸を持つ座標系を「右手系」という。
 三つの座標(x,y,z)の組を与える代わりに、平面上の点と同じ様に、「ベクトル」によって空間にある質点の位置を表すこともできる。 (x,y,z)3軸に沿って単位となる長さを取り、それぞれを (i,j ,k)とする。それを使って座標 (x,y,z)がそれらの何倍であるかを表す量

<4-2> (4.1.2) r=i x+jy+kz

によって質点の位置を表すことができる。
 このように、質点の位置を表す直行する座標軸を用いて質点の平面や空間における位置を指定する座標系のことを「直交座標系」という。ある場合には直交座標系と異なる座標系を用いて質点の(物体の)位置を指定すると便利なことがある。そのような座標系の中で特に多く使われるのが「極座標系」である。これから平面と空間の点の位置を極座標を使って指定する方法を与える。

【平面の極座標】

 平面上に存在する点の位置Pを、座標軸を x軸とy軸とした直交座標系で(x,y)、あるいはベクトルを使って

<4-3> (4.1.3) r=i x+jy

のように表すことができた。x yP点から x軸とy軸に降ろした垂線が座標軸と交わる点までの原点からの距離であるから、原点から平面上の P点までの距離をr、原点と P点を結ぶ長さ rの線分がx軸となす角をθ(0θ<2 π)とすると、(r,θ )を使って(x,y)

<4-4> (4.1.4)  x=rcosθ y=rsinθ

のように表すことができる。この(r,θ)を点 Pの「極座標」あるいは「円座標」という。またP点が動くと rを表す線分も動くので、 rのことを「動径」という)
 極座標の図を使った表現を図4.1に、その詳しい説明をその下に与えた。


(図4.1)【平面の直交座標と極座標】

(図4.1)に描かれている図の詳しい説明を以下に与える。

【平面の直交座標と極座標の図4.1】

図の左側にy軸を表す垂直上向きの矢印がついた直線が描かれており、図の左下でそれと垂直に交わる右向き矢印がついた直線が交点から図の右端に向かって水平に描かれている。この水平直線は x軸を表わし、これら二本の直交する直線で x-y座標系を表している。左下の直線の交点(座標系の原点)から右斜め上に向かってベクトルを表す直線が描かれている。ベクトルの先端にはそれが位置ベクトルであることを表す(4.1.3)式の rが記されている。 rを表す線分の上側にはベクトルの長さ(動径座標)を表す文字rが記され、 rを表す矢印が付いた線分とx軸との間にはそれらがつくる角度(角座標)を表す円弧が描かれ、その右にギリシャ文字θが記されている。rを表す線分の先端から x軸とy軸に垂直な点線が二本描かれており、x軸に垂直に降ろされた点線と x軸の交点下にrθを使ってその点のx 座標を表した式x=rcosθが書かれており、y軸に垂直に降ろされた点線と yの交点横にr θを使ってその点のy座標を表わした式 y=rsinθが書かれてれている。

rθを使って x座標とy座標を表わすのと逆に、以下のように、x yを使ってr θを表すこともできる:

<4-5> (4.1.5)  r=x2+y2 θ=tan-1 yx

【空間にある物体の極座標】

 空間座標が実際に必要になる典型的な物体の運動はコマの運動である。空間を揺れながら移動するコマの軸が描く軌跡を追跡しようとすれば、空間座標が必要になる。そのような運動を表すときに必要になる物理量をこの教科書の後半で与えるが、運動を実際に調べることはしない。この節では、空間の直交座標に対応する極座標表現だけを与えておく。
 空間に存在するP点の位置を直交座標を成分に持つベクトルを使って(4.1.2)式のように表すことができた。このとき、 P点の極座標は次のように与えられる。
 空間にある点のなかでz座標が 0である点はx座標と y座標を指定するだけでその位置が決まるので、その点が存在する面を (x-y)面と呼び、同様に x座標が0である点が存在する面を(y-z)面、 y座標が0である点が存在する面を(z-x)面と呼ぶ。これら 3枚の面を頭に描くためには、適当な長さの辺を持った立方体を考え、一つの頂点を共有する立方体の三つの面を考えるとよい。
 空間にある点をあいまいさなしに表すためには、もう一つ準備がいる。空間内の適当な点( P点)と原点O点)を結ぶ線分 OP¯の長さを rとする。その点から( x-y)面に垂線を降ろし、その点をP 'とする。一般にP点は (x-y)面から上方に離れているが、 P'点は (x-y)面上にあることを強調しておく。三点( O,P',P)を与えたので、それらを結ぶと直角三角形 OP'Pができる。90 の角はOP'Pである。 OP¯z軸のなす角をθとすると、(x-y)面上の線分 OP'¯の長さを ρとすると、θを使ってρ

<4-6> (4.1.6) ρ =rcos π2-θ=r sinθ

のように与えられる。このρ (x-y)面にあるP' 点の動径として、ρ x軸のなす角をφとしたとき、 φが(4.1.2)式におけるθ の役割をした平面の極座標を考えることができる。そうすれば、P' 点のx座標と y座標(同時にP点の x座標とy座標)は

<4-7> (4.1.7)  x=ρcosφy =ρsinφ

によって与えられる。これに(4.1.6)式のρを代入すれば、

<4-8> (4.1.8)  x=rsinθcosφ y=rsinθsinφ

となる。また、OP¯z軸のなす角がθであったから、P点からz 軸に降ろした垂線の足までの原点(O点)からの距離が z座標なので、z座標は

<4-9> (4.1.9) z=rcosθ

である。まとめると、空間にあるP点の直交座標 (x,y,z)を;

  • 原点O P点を結ぶ線分の長さr
  • OP¯z軸がなす角θ
  • P点から( x-y)面に降ろした垂線の足P'と原点を結ぶ線分OP'¯x軸となす角φ
を使って直交座標(x,y,z)

<4-10> (4.1.10)  x=rsinθcosφ y=rsinθsinφ z=rcosθ ,   (-πθ<π,0 φ<2π)

と表すことができる。この(r,θ, φ)を点Pの空間「極座標」あるいは「球座標」という。
 平面の円座標の場合のように、球座標を使って直交座標を表すこともできる。結果を以下に与えておくので、必要なときはここを参照して使えばよい。

<4-11> (4.1.11)  r=x2+y2 +z2θ=tan -1x2+ y2zφ =tan-1yx

である。


§2 放物運動

 前節で「空間運動の多くは一つの平面上で生じ、その運動を平面座標を使って表すことができる」と述べた。この節では、空間に放り投げた質点の運動が実際に平面座標を使って表されることをしめす。
 一般に空間にある質点に作用する力を空間直交座標(x,y ,z)を使った座標系のベクトルで

<4-12> F=i Fx+jFy+ kFz

と表せば、質点の空間座標の三成分に対して成り立つニュートンの運動方程式も、

<4-13> (4.2.1)  md2x(t) dt2=Fx md2y(t) dt2=Fy md2z(t) dt2=Fz    md2 r(t)dt2 =F

のように一つのベクトル式で表すことができる。ただし、ベクトルの等式は同じ等式が両辺の成分同士で成立すると約束する。そうすれば、(4.2.1)式の最初の三つの等式は最後のベクトル式が表す三つの成分間の等式になっていることがわかるであろう。以下で、空間運動であってさえも、このベクトル式の三成分全てが必ずしも必要でないこと、多くの場合質点の運動は実質的に平面運動であることを簡単な例を使って示そう。
 §2.2で、地上付近にある質量mの物体に働く地球からの引力が一定の力 (mg)であると考えて自由落下運動を調べたが、ここでは同じ力の下で質量mの物体を速度 v0で空中のある方向に放り投げた時の運動を考察する。ベクトル v0の方向は物体を放り投げた方向を表し、真上(放り上げ)、斜め上(野球のキャッチボール)、真横、真下と、様々な場合がこれに含まれる。いずれの場合でも、座標原点は地上の適当な地点にあるとする。
 まず空間に「右手の規則」にしたがって(x-y- z)座標系を用意する。すなわち、座標系の原点が紙面上の適当な点にあるとして、そこから水平右向きに x軸、原点から垂直上向きに y軸を考える。このとき右手系におけるz軸は紙面に垂直に、表側から裏側に向かう方向になる。互いに直角に開いた右手の親指、人差し指、中指を使えば、親指の方向がx軸の正方向、人差し指の方向がy軸の正方向、中指の方向がz軸の正方向に対応する。
 いま物体を速さ(速度の大きさ)v0x軸に対し角度θで放り投げた。その時刻をt=0とし、物体が手から離れた点が鉛直下方の地表にある原点からhの高さにあるとする。この座標系で、時刻 t=0における物体の位置 r(t)と速度 v(t)をベクトルの成分を使って表すと

<4-14> (4.2.2)  r(0)r 0=i0+j h+k0v (0)v0= iv0cosθ+j v0sinθ+k0

である。
 物体を放り投げてから時間t後に物体がある位置を<4-15> r( t)=ix(t)+ jy(t)+kz( t)とし、物体に働く力をF とすれば、物体の運動を表す運動方程式は

<4-16> (4.2.3) md2 r(t)dt2 =F

となる。いまの場合Fは鉛直下方 (-yの負方向)を向いた重力 -mgであるから、 F

<4-17> (4.2.4) F=-j mg

と書くことができる。(4.2.3)式はベクトルの等式であるから、両辺の各成分について等式が成立する。したがって

<4-18> (4.2.5)  md2xt) dt2=0m d2y(t)dt2 =-mgmd 2z(t)dt2 =0

である。
 時刻tにおける物体の位置 r(t)と速度v (t)t=0 の時に(4.2.2)式が与える位置と速度の状態にあったとして(4.2.5)式を代数的に解けば得られる。(4.2.5)式の成分が与える式どれもすでに知っている微分方程式である。すなわち、x成分と z成分の運動方程式は力が働いていない粒子(自由粒子という)に対する方程式(3.2.1)式と同じであり、y成分の運動方程式は一定の力が働く物体に対する(3.2.5)式の方程式と同じである。したがって時刻tにおける物体の位置と速度は

<4-19> (4.2.6)  x( t)=(v0cosθ)t vx(t)=v0 cosθ y(t)=h+ (v0sinθ)t-12 gt2vy( t)=v0sinθ-gt z(t)=0vz (t)=0

となる。tは物体を放り投げてからの任意の時間を表すから、運動が始まった後も物体はz=0、すなわち (x-y)面上にとどまることがわかる。言い換えると、原点から物体を空中に放り投げた時、物体には紙面に垂直な方向(z方向)に速度が与えられていないから、物体は「慣性の法則」にしたがってその状態( z=0, vz=0)をいつまでも維持するのである。
 このように、(x-y)面上で速度が与えられ y方向を向いた重力が働く物体の運動は z方向の位置と速度に何も変化は与えないので、そのような運動を考える時は初めからz成分は考えずに( x-y)平面における運動であるとしてもよいことがわかる。
 あらためて、(4.2.2)式の条件で空中に投げられた物体の時刻tにおける (x-y)面上の位置を抜き出して考える:

<4-20> (4.2.7)  x(t)=(v0cos θ)ty(t)=h +(v0sinθ)t-12 gt2

いうまでもなく、y=0は地表面を表すから、 t=0で地表から hの高さで空中に放り投げられた物体が、その後時間がたって再びy =0となる時刻<4-21> t=v0sinθ+v 02sin2θ+2gh gに地表に落ちた後、物体はいつまでも地表 y=0にとどまるはずなので、(4.2.7)式で y<0となる時刻より後の解は意味がない。
 物体はt=0で空中に放り投げられた後、時間の経過とともに(4.2.7)式にしたがって(x-y)面内で位置を変え、そこに軌跡を描く。その軌跡は(4.2.7)式からtを消去した xyの関係によって与えられる。少し面倒だが落ち着いて計算すると(4.2.7)式から

<4-22> (4.2.8) y=-g 2v02cos2θ x-X2 +v02sin2θ 2g

が得られる。ここで式中<4-23>X= v02sin(2θ)2gである。これは (x-y)面内で下方に開いた放物線を表しており、x=Xで最高点<4-24>y= v02sin2θ2g を与える形をしている。この軌道の名称である「放物線」は、このように「空中に“”たれ“ ”体が描く曲“”」に由来している。


§3 等速円運動 

 前節で空間でおきる運動ではあるが、実際には運動が一つの平面上で起きると考えてもよい場合のあることを知った。運動が一つの平面上で起きるもう一つの例に、質量が無視できるほど軽い長さの糸の先に質量 mの質点にをつけて、それを空間で回転させたときの運動がある。その運動の様子を図4.2に描いてある。

(図4.2)【等速円運動】

以下に図4.2に描かれている内容を詳しく説明する。

【(図4.2)の説明】

図の中央で互いに垂直に交わる、長さが等しい二本の線分が実戦で描かれている。縦方向に描かれた直線は y軸を表し、それに直交する横方向に描かれた直線は x軸を表している。そして二本の直線が交わる中央の点を中心(原点)として、ある半径の円が点線で描かれている。その円上の右上(第一象限)に円上を回転をする質点を示す小さな点が描かれており、その横に質点の質量を表す文字mが記されている。その点と原点を結ぶ直線が実線で描かれており、それは質点と回転中心を結ぶ糸を表している。第一象限にある質点からx軸と y軸に降ろした二本の垂線が点線で描かれている。 x軸に降ろした垂線とx 軸との交点下に質点のx座標を表す文字 xが記され、y軸に降ろした垂線とy軸との交点左横に y座標を表す文字yが記されている。糸を表す直線の少し上には糸の長さを表す文字が記されている。また、糸を表す直線と xとの間にはそれらがつくる角度を表す文字 θが記されている。

 この運動の特徴は運動するmの回転中心からの距離がいつも で変わらないことである。運動が行われる面を (x-y)面とすると、回転中心からの距離が変わらない運動の特徴は変数(x,y)の代わりに(4.1.4)式の平面極座標(r,θ)を使うとよくわかる。面倒なことが一つだけある。それは(x,y )の時間に関する微分係数 dxdt,dydtの代わりに、 (r,θ)の時間に関する微分係数 <4-25>drdt, dtωを使わないといけないことである。そのために dxdt, dydtを使ってそれらを表さなけらばならない。少し面倒であるがその結果をここで与えておく。
 最初に、(x,y)(r,θ)が時間の関数であることに注意して、 (x,y)(r,θ)で表した(4.1.4)式の両辺を時間で微分する:

<4-26> (4.3.1)  dxdt=drdtcosθ -sinθdydt= drdtsinθ+cosθ

を得る。ここでxの任意関数 f(x)において、もしxtの関数(x (t))であるときの微分公式、<4-27> df(x(t)) dt=df(x)dx dx(t)dtを用いた。
 (4.3.1)式の第一式の両辺にcosθをかけ、第二の式の両辺に sinθをかけた式を足すと

<4-28> dxdtcosθ+ dydtsinθ=drdt

を得る。同様に、第二式の両辺にcosθをかけた式から第一式の両辺に sinθをかけた式を引くと

<4-29> -dxdtsinθ+ dydtcosθ=

を得る。まとめると

<4-30> (4.3.2)  drdt=dxdtcosθ +dydtsinθr dt=-dxdtsinθ+ dydtcosθ

である。次に、(4.3.1)式の両辺をもう一度tで微分し、間違えずていねいに計算すると

<4-31> (4.3.3) d2xdt2 =d2r dt2-rω2 cosθ-rdt+2 drdtωsinθ d2ydt2 =d2rd t2-rω2sinθ +rdt+2dr dtωcosθ

となる。ここでdtωと書いた。距離の時間変化を速度と呼ぶのにならって、角度の時間変化を表すこのωを「角速度」という。
 この第一式の両辺にcosθをかけて、第二式の両辺に sinθをかけた式を足すと

<4-32> d2xd t2cosθ+d2 ydt2sinθ= d2rdt2-r ω2

を得る。同様に、第一式の両変に(-sinθ)をかけて、第二式の両辺に(-cosθ)をかけた式を足すと

<4-33> -d2x dt2sinθ+d 2ydt2cosθ= rdt+2drdtω

を得る。この式を、以下に与える等式を利用してさらに書きかえることができる。すなわち、 r2ωtで微分すると、二つの関数の積 {f(t)g(t)}tで微分した時の公式

<4-34> d{f(t)g (t)}dt=df(t )dtg(t)+f(t )dg(t)dt

を使うと、

<4-35> d(r2ω )dt=2rdrdtω+r 2dt

であるから、この式の両辺をrで割ると右辺は二つ上にある式の右辺と完全に一致する。以上をまとめると

<4-36> (4.3.4)  d2rdt2 -rω2=d2 xdt2cosθ+d 2ydt2sinθ 1rd(r 2ω)dt=-d2 xdt2sinθ+ d2ydt2cosθ

を得る。
 次に(x-y)面上を運動する物体に働く力を直交座標でF=i Fx+jFyと表せば、(4.2.2)式の運動方程式は

<4-37> (4.3.5)  md2xdt 2=Fxm d2ydt2= Fy

であるから、(4.3.5)式の右辺に対しても(4.3.4)式を得たと同様な手続きを使うと、(4.3.5)式は

<4-38> (4.3.6)  md2r dt2-rω2 =Fxcosθ+Fysin θm1rd( r2ω)dt=-Fx sinθ+Fycosθ

と書き換えられる。今の場合、物体は中心からの距離が変わらない円運動をするので、最初の式にある rの時間に関する微分は0であるが、実際に使う場合、後でそれを 0にすることにして、今はこのままにしておく。
 後に§4.6.2「中心力」の節でもう一度詳しく学ぶが、運動する物体に働く力の方向がいつも力の源と物体を結ぶ線上にある力を「中心力」という。もし力Fが中心力であれば、それを必ず

<4-39> (4.3.7) F=r rf

と書くことができる。今の場合、物体に働く力は、半径が一定の回転をするために物体を一定距離に保つよう、糸が物体をいつも回転の中心に向けて引く「張力」であるから、その力は中心力であり、必ずそれを(4.3.7)式のように書くことができる[1]。したがって、その大きさを Fとすれば物体に働く力 F

<4-40> (4.3.8) F=- rrF

と書ける。右辺の負符号は力が回転の中心に向かうことを表している。

<4-41> rr= icosθ+jsinθ

であるので、(4.1.3)式と(4.1.4)式から(4.3.8)式は

<4-42> F=-i Fcosθ-jFsinθ

となる。したがって、F=i Fx+jFy の直交座標成分を(Fx, Fy)とすれば、それらは

<4-43> (4.3.9)  Fx=-Fcosθ Fy=-Fsinθ

であることがわかる。これを使って(4.3.6)式の右辺を書き換えると(4.3.6)式は

<4-44> (4.3.10)  md2r dt2-rω2 =-Fmrd (r2ω)dt=0

となる。この第二式の意味は後に詳しく学ぶことにして、今は物体の回転中心からの距離r だけに注目する。第二式よりr2 ωわ時間によって変わらない一定の量である。それを r2ω=Cとおき、これを使って第一式からωを消去することができる。その項を右辺に移項すると、第一式は rの時間変化を与える式

<4-45> (4.3.11) md2r dt2=-F+m C2r3

と書き換えられる。左辺にある質点の回転中心からの距離を時間で二回微分した量は質点の加速度なので、右辺全体を原点からの距離が変化する質点の運動を引き起こす力とすることができる。その力は二つの成分からできている。第一項目の (-F)は糸が物体を一定の半径につなぎとめて円運動をさせる(4.3.9)式の張力である。第二項目にある力は、その符号が正であるから、張力と反対の方向に働く(したがって中心から外に向く)力である。しかし、(4.3.10)式の第一式からわかるように、この項は元々運動方程式の左辺にあった加速度から生じた項を右辺に移項して力と見立てたものである。このような運動学量(加速度)に起源を持つ見かけの力を「慣性力」といい、その特徴にしたがって名前がついている。今の場合、この慣性力の方向が中心から遠ざかる方向を向いていることから、この慣性力を「遠心力」という。
 円運動は一定の半径(r==一定)を持つ回転運動である。したがってその場合は、(4.3.6)式の下で注意したように、時間によって rは変化しないから、円運動が実現しているときは(4.3.11)式において d2rd t2=0が成り立っていなければならない。すなわち、 (r==一定 )の円運動が実現するためには、張力と遠心力との間に

<4-46> (4.3.12) F=mC2 3

の関係が必要であることがわかる。さらに、<4-47> r2ω=2ω=Cであるから、半径の円上にある質点と回転中心を結ぶ糸が x軸となす角の時間変化に対する割合 ω=dt(「角速度」)は

<4-48> (4.3.13) ω=C2 =一定ω0

である。すなわち、質点は一定の割合で角度を変えながら(すなわち一定の角速度で)半径 の円上を回転している。このような円運動を「等速円運動」という。このように、質点(大きくない物体)に糸をつけて、それを一定の力((4.3.12)式)で振り回すと、質点は必ず「等速円運動」をするのである。
 等速円運動では半径(r)が一定であるから、それに対する時間変化も、さらにその時間変化である(4.3.11)式も0であったが、これを「等速円運動を行う物体の加速度は0である」と誤解してはいけない。なぜならば、(4.3.10)式からわかるように、(4.3.11)式右辺第二項目(遠心力)は(4.3.11)式の左辺とともにこの運動を実現させるために不可欠な加速度の一部でなのである。


§4 単振子の単振動と楕円振動 

 この節では、数学的には空間運動の方程式であるが、結果的に運動が平面上で起きる代表的な例をもう二つ学ぶことにする。一つは「単振子の単振動」で、もう一つは「楕円振動」とよばれる運動である。「単振子の単振動」は、前節の円運動が人力で起こされた平面運動であったのに対し、重力の影響を受けて物体がが平面で行う振動運動である。一方「楕円振動」は回転運動の一種で、後に学ぶ惑星の軌道運動に似ている。
 「単振子の単振動」から始める。第三章「§1単振動」で、バネに取り付けられた物体が静止位置からの変位に比例した復元力で直線運動を行う「単振動」を学んだ。「単振子」の振動は平面運動であるが、結果的に「単振動」と同じ運動をする物理系である。 1970年くらいまでどこの家庭にもあった振り子時計は「等時性」とよばれる「単振子」の性質を利用した時計である。振り子時計の振り子がこれから学ぼうとしている「単振子」である。
 「単振子」は質量が無視できる糸の一端を固定し、その他端に取り付けられた質量を持つおもりを重力の作用によって吊り下げた物理系である。おもりが垂れて静止した位置からそれを水平にわずかにずらすと、おもりを静止位置に戻そうとする重力が働き、おもりは静止した位置の左右に振動する。その様子を(図4.3)に描いた。

(図4.3)【単振子の図】

以下に図4.3に描かれている内容を詳しく説明する。

【(図4.3)の説明】

図の上部に糸の一端が固定される天井を表わした水平な短い線分が描かれており、糸が固定された点の上にそこが振動の支点であることを表す文字 Oが記されている。 O点から鉛直下向きに重力の方向を表す点線が描かれており、その下の端におもりが垂れたときおもりが静止する位置を表す文字 O'が記されている。図には O点に一端が固定された糸を表す直線が振動して右に傾いた状態が描かれており、傾いた直線の下端におもりを表す球が描かれている。O点のすぐ下に傾いた糸と鉛直線がなす角度を表す小さな円弧が描かれ、その下に角度の大きさを示す文字φが記されている。糸を表す傾いた直線の横には糸の長さを表す文字が記されている。おもりが振動によって描く軌道を表す円弧がおもりとO'の間に点線で描かれている。おもりの横にはその質量を表す文字 mが記され、おもりに働く重力がおもりから鉛直下向きに矢印がついた直線で描かれている。直線の右側には重力の大きさを表す文字mgが記されている。また、糸がおもりを引く張力を表す矢印が、糸の上におもりから振子の支点であるO点に向かって描かれており、その右に張力の大きさを表す文字Sが記されている。

 質量mのおもりには重力mg が鉛直下向きに働く。この系の運動を表す直交座標を振動の支点O点を原点にして「右手の規則」にしたがって次のように設定する。水平右向きにx軸(親指)、 O点から垂直下向き(上向きでないことに注意)に y軸(人差し指)を対応させる。そうすると「右手の規則」で z軸(中指)は紙面の表から裏に向かう方向になる。この座標系で静止点 O'の座標は( 0,,0)である。
 おもりが振動している時のおもりの位置(x,y, z)を(4.1.2)式のようにr= ix+jy+k zと表すことができる。おもりが静止点から左右に振動しているとき、おもりに働く力y軸の正方向(鉛直下向き)に向いた重力 Fと、糸がおもりを O点に向かって引く張力 Sの二つである。
 O'点からおもりを(図では右側に)わずかにずらして手を放すと、おもりは半径の小さな円弧上を O'点の左右に振動するが、そのときおもりに働いている力F S

<4-49> (4.4.1) F=j mg

および

<4-50> (4.4.2) S=- rrS

である。したがって運動方程式は

<4-51> (4.4.3) md2r dt2=F +S

となる。これを(x,y,z)成分に分解すると、

<4-52> (4.4.4)  md2xdt 2=-xrS md2ydt 2=mg-yrS md2zdt 2=0

である。z方向には力が作用していないので、おもりの運動が (x-y)面 (z=0の面)で始まれば、慣性の法則からおもりは常に (x-y)面にとどまり、 z方向に関する運動は忘れてよい。したがってこの運動は (x-y)面上の平面運動になる。
 興味があるのはおもりをO'から少しずらし、それを振らした時の振動であるので、その様子を知るために、おもりが鉛直方向(y方向)となす角 φを使うことにする。そうするとおもりの位置 (x,y)φを使って

<4-53> (4.4.5)  x=sinφy =cosφ

と表される。もし振り子の振れが小さいときには、三角関数のマクローリン展開を利用して (x,y)

<4-54> (4.4.6)  x=φy=

と置き換えてもよい(どの程度の振れが小さいと考えられるかについては脚注[2]を参照せよ)。そうすると、振れとともに変化するのは振り子の x座標だけであって、y 座標は変わらないことになる。言い換えると、振れが小さいときには、おもりは水平方向にわずかに振動するだけで、垂直方向には動かない。したがって、振れの小さい振り子の運動を表す(4.4.4)式が与える(x- y)面での運動は

<4-55> (4.4.7)  md2xdt 2=-xS 0=mg-S

となる。第二の式から得られるS=mgを第一の式に代入し少し変形すると(4.4.7)の第一の式は

<4-56> d2xd t2=-gx

となり、さらに

<4-57> (4.4.8) ω=g

とおけば、

<4-58> (4.4.9) d2x dt2=-ω2x

となる。
 これは第三章で学んだ単振動の運動方程式((3.1.5)式)と全く同じ形をしている。したがってその解は(3.1.6)式、すなわち

<4-59> (4.4.10) x(t)=Asin (ωt+B)

によって与えられる。ここでA Bは考えている運動の情報を二つ与えると決まる定数である。第三章と同じように、運動が t=0のときに x=aの位置から速度v= dxdt=0で始まったとすると、その解は(3.1.10)式、すなわち

<4-60> (4.4.11) x(t)=acos (ωt)

によって与えられる。すなわち振れの角度が小さければ、振り子はその糸の長さだけで決まる角振動数 ω=gで、したがって一定周期 T=2πω =2πgで単振動を行うことがわかる。まとめると、

長さの単振子は、もし振れの角度が小さければ一定重力の下で単振動を行い、その角速度ωと周期T

<4-61> (4.4.12)  ω=g T=2πg

で与えられる。Tが定数だけで決まる一定の値を持つことは、振り子を O'からわずかにa だけずらして振動を与えると、振動の幅(振幅という)aが多少ことなっても、振り子が一振りして元の位置に戻るまでの時間が変わらないことを意味する。この振り子の「周期が振幅に関係しない性質」を「等時性」という。

 「方程式は空間運動を表す方程式であるが、結果的に運動が平面上で起こる」第二の例として、質量 mの質点が行う「楕円振動」とよばれる運動を学ぶ。この運動は三つの点で振り子の単振動と異なる:
  1. 質点には長さが決まった糸がついていない。したがって運動する質点は中心から一定の距離にとどまる必要はない。
  2. 振り子の場合、質点に働く力は糸が質点を中心に向かって引く張力と、常に鉛直下方に質点を引く重力であった。ここでは、原因はわからないが、平面上の定点Oから質点を引く力があって、その大きさはОからの距離に比例すると考える。たとえば地球と太陽の間に働く万有引力のような力を想像すればよい(ただし万有引力の大きさは距離には比例しない)。
  3. 振り子の運動の場合、運動が始まる時に振り子に速度を与えなかったが、ここでは運動を始めるときに質点に速度を与える。
 質点に働く力が向かう定点Oを原点として、平面上の適当な方向にx軸を用意し、それに直交する軸をy軸とする。このとき、 x軸の正側から反時計回りに 90°の方向をy軸の正方向とする。質点に働く力の大きさはOからの距離に比例するというので、その比例定数を kとすると、物体に働く引力は F=-kr=-k (ix+jy)と書けるから、物体の運動方程式は(4.2.1)式にしたがって

<4-62> (4.4.13) md2r dt2= -kr ⇒  md2 xdt2= -kxmd 2ydt2 =-ky

である。各成分の方程式は単振動を表す方程式((4.1.4)式)であるから、k m=ωとすれば、それらの解は

<4-63> (4.4.14)  x(t)=a1sin( ωt+b1)y( t)=a2sin(ωt+b2 )

である。四つの定数a1a2 b1b2は運動の条件を四つ与えれば決まるが、今は決めずにおく。
 運動方程式が(4.4.9)式である物体のx座標と y座標はともに(4.4.10)式のように単振動する。今の運動の場合は座標が二つあるので、その軌跡が直線にならないことはなんとなく分かるであろう。実際に質点はとても面白い軌跡をえがく。それを調べるため、三角関数の公式

<4-64> sin(A+B)=sin AcosB+cosAsinB

を(4.4.14)式の右辺に使って、それからsinωtcosωtを求める。それらは

<4-65> sinωt=1sin (b2-b1) xa1sin b2-ya2 sinb1

および

<4-66> cosωt=1 sin(b2-b1) -xa1 cosb2+ya2 cosb1

である。これらを二乗して加えると1であるから、さらに公式

<4-67> cos(A+B)=cos AcosB-sinAsinB

を右辺の二乗の和に使って、少し式を操作すると

<4-68> (4.4.15) sin2 b2-b1 =x2a12 +y2a22 -2xa1y a2cosb2 -b1

を得る。ここに含まれる4個の定数を運動に適当な条件を 4個与えて決めることができるが、ここではその条件の二つを定数 b1 b2b2- b1=π2となるように与えることが出来たとする。そうすると、 sin(b2-b1 )=1およびcos(b 2-b1)=0であるから、(4.4.15)式は

<4-69> (4.4.16) 1=x2 a12+y2 a22

となる。これはもしa1>a2 ならばx軸上にある長軸の長さが 2a1y軸上にある単軸の長さが2 a2の楕円を表しており、もしa1 <a2ならば長軸と単軸が入れ換わった楕円を表すことが知られている。
 このように質点の位置を表すx座標と y座標が平面上で同時に単振動する物体は平面に楕円を描く。このような運動を「楕円振動」という。楕円振動をする質点は楕円軌道を一周してある時間で運動を開始した点に必ず戻るが、軌道を一周するこの時間(楕円運動の周期)は(4.4.9)式よりT=2πω =2πmkで、単振動の周期と同じになる。後に学ぶが、地球が太陽の回りを決まって一年で一周するように、天体も平面上で周期を持った軌道を描く。しかしその x座標とy座標は単振動を行わない。これは天体に働く力が(4.4.13)式の力とは違って、万有引力であることによる。


§5 保存力とポテンシャル・エネルギー 

 直線上で生じる運動を学んだ第二章の§5で、物体に働く力が物体の位置で異なる場合、(2.5.11)式によって定義された物体の「ポテンシャル・エネルギー」は物体の位置によって異なるが、「ポテンシャル・エネルギー」と運動エネルギーの和はどのような運動の過程でも変わらないという「力学的エネルギーの保存則」が成り立つことを示した。この「力学的エネルギーの保存則」は運動が直線上でなく、平面あるいは空間内であっても、質量mの物体がその位置 rで強さと方向が変わる力を受け、運動方程式

<4-70> (4.5.1) md2r (t)dt2 =F(x,y,z)

にしたがって運動する限り、必ず成立する。少しむずかしいかもしれないが、(4.5.1)式の運動方程式を使ってそれを導いておく。もしここで与える式がたどれなくても、結論として得られる「力学的エネルギー保存則(4.5.14)式」の意味が理解できれば十分である。
 空間運動であるためにベクトル的な扱いが必要になる以外は§2.5で行ったのと基本的に同じことを実行する。すなわち、まず速度が v=dr dtであることから、(4.5.1)式を

<4-71> (4.5.2) mdv dt=F(x,y,z)

と書き換えて、両辺のベクトルとvの内積(スカラー積)を作る。その結果は

<4-72> (4.5.3) mv dvdt= vF(x,y, z)

である。
 「物理数学」の(3.2.20)式で与えたように、ベクトルv =ivx+ jvy+kvz vの内積を

<4-73> (4.5.4) vv =vx2+vy2+ vz2v2

と、vの成分を使って表すことができる。この両辺を tで微分すると等式

<4-74> (4.5.5) d (v2)dt=d( vx2+vy2+v z2)dt =2vxdvx dt+vydvy dt+vzdvz dt=2 vdv dt

が得られる。この式の右辺は(4.5.3)式の左辺に現れる量に関係している。したがって、この等式を使って(4.5.3)式の左辺を書き換えることができ、それから

<4-75> (4.5.6) m2 dv2dt=d( mv2/2)dt =vF(x,y ,z)

を得ることができる。この両辺はtの関数であるから、それらを tt1 からt2まで積分することができる。運動エネルギーmv2 2Tと書き、(4.5.6)式の最後に現れた(x,y,z) の関数を簡単に(v F)と書けば、(4.5.6)式両辺の積分は

<4-76> (4.5.7) t1t 2dTdtdt=t1 t2(vF )dt

である。時刻t1における物体の位置と速度を r1v1とし、時刻 t2における物体の位置と速度を r2v2とし、さらに T1m v122および T2m v222と書けば、(4.5.7)式の左辺は積分されて

<4-77> (4.5.8) T1 T2dT=T2- T1

を与え、一方右辺は、v=d rdtであるから

<4-78> (4.5.9)  t1t2 vFdt= t1t2dxdt Fxdt+t1 t2dydtFy dt+t1t2 dzdtFzdt =x1 x2Fxdx+ y1y2F ydy+z1z 2Fzdz P1 P2Fxdx +Fydy+Fzdz

となる。ここで(x1,y 1,z1)で与えられる点を P1 (x2,y2,z2 )で与えられる点をP2と書いた。最後の式は「物理数学」の(4.1.22)式に現れた点P1から点 P2まで質点が移動する経路に沿った線積分を表す。以上より(4.5.7)式は

<4-79> (4.5.10) T2-T1 =P1P2 Fxdx+Fydy +Fzdz

を与える。 もしいま

<4-80> (4.5.11)  Fx-V(x ,y,z)x Fy-V(x ,y,z)y Fz-V(x ,y,z)z  → F=-gradV (x,y,z)

のような関数V(x,y,z )があったとすると、 gradV(x, y,z)を間単にVと書けば、 それを使って(4.5.10)式の最後の式を

<4-81> (4.5.12) P1P 2FdS= -P1P2 (V)dS

と書くことができる。Vがベクトルであることに十分注意せよ。さらに右辺のdSは <4-82>(dS= idx+jdy+ kdz)である。この式は直線上を運動する質点に関して§2.5で出て来た(2.5.6)式の下にある式を空間の運動に拡張した式である。
 改めて(4.5.12)式の右辺で積分される関数

<4-83> (4.5.13) grad V(x ,y,z)dS= Vxdx+V ydy+Vz dz

を考えると、これは「物理数学」の(2.5.9)式とその下に現れた式である。すなわち、この式の右辺は、点 (x,y,z)における Vの値V( x,y,z)と、それから僅かに離れた点 (x+dx,y+dy, z+dz)におけるVの値 V(x+dx,y+ dy,z+dz)の差であって、「全微分」と呼ばれる量 dV(x,y,z)を与える式、すなわち

<4-84> (4.5.14)  dV(x,y,z)=V( x+dx,y+dy,z+dz)- V(x,y,z) =Vxdx+ Vydy+ Vzdz

である。したがって(4.5.12)式右辺の積分は、符号を除けば、P2 におけるポテンシャル・エネルギーとP1におけるポテンシャル・エネルギーの差を表す。すなわち

<4-85> (4.5.15) P1P 2FdS= -P1P2dV= V1-V2

である。ここで、V1V( x1,y1,z1)V2V(x2 ,y2,z2)P1 P2におけるポテンシャル・エネルギーである。つまりこの式は、質点に働く力が(4.5.11)式のように質点の位置による関数V(x,y,z)によって表されるときには、(4.5.12)式の積分は積分の始点と終点だけで決まり、その間の道筋(経路)がなんであっても同じであるということを意味してる。

 以上より(4.5.10)式は結局

<4-86> T2-T1= V1-V2

となる。この式を少し整理すると

<4-87> (4.5.16) T1+V1 =T2+V2

を得る。この左辺は時刻t1における質点の全力学的エネルギー、右辺は時刻t2における質点の全力学的エネルギーを表し、ともに時間の設定は任意であることから(4.5.16)式はこの系がどのような運動を行っても、全力学的エネルギーが最初に与えた量から変わらないことを意味している。これが位置で変わる力を受けながら運動する物理系に対して一般的に成り立つ「力学的エネルギー保存則」である。
 この結論は、質点に働く力が(4.5.11)式のように質点の位置による関数V( x,y,z)によって表されたことによるので、「力学的エネルギー保存則」を成り立たせる、すなわち(4.5.11)式のように書かれる力を「保存力」という。


§6 中心力のもとでの運動と角運動量の保存 

【角運動量】

 この章を「質点の空間運動」としながら、冒頭で「後にわかるが運動は空間に取られた一つの平面に限られる場合が多い。」と書き、平面内の運動だけを扱ってきた。自然界に存在する力の下で実現する物体の重要な運動はほとんどの場合、平面上で生じるからである。この節ではなぜ自然界に存在する運動の多くが平面運動になるかを説明する。それに必要な物理量である「角運動量」の説明から始める。
 空間運動を行う物体の位置は空間直交座標系を使って指定される位置座標により(4.1.2)式で与えられ、速度、加速度はその時間微分で与えられることは理解できたであろう。そして、質量mの物体が力 F(=i Fx+jFy+ kFz)を受けて行う運動の形態は運動方程式(4.2.1)式によって定まる。その微分方程式を解くと、物体が時刻tに空間のどこ (r(t))にあって、どのような速度(v(t ))あるいは運動量(p (t)mv(t))を持つか正確に知ることができる。
 角運動量は物体の位置r(t) と運動量p(t)の外積(ベクトル積):

<4-88> (4.6.1) L(t)= r(t)×p(t )

によって定義される。角運動量ベクトルの方向は、rpの方向に右手の親指と人差指を向けた時、親指と人差し指が作る平面に垂直にした中指が指す方向であり、その大きさ|L |は、rpのなす角を θとしたときにr pが作る平行四辺形の面積

<4-89> (4.6.2) |L|=| r||p|sinθ

によって与えられる。これを図示したのが図4.4である。図には、始点を共有する矢印付きの二つの実線によって r pが描かれている。そして、それらを他方のベクトルの方向に、それぞれの始点が他方の終点に重なるまで平行移動した直線が二つの点線で描かれており、それらとrpとで作られる平行四辺形が描かれている。ベクトルを表す矢印が付いた二つの実線が重なる始点に、中心に点がうたれた丸印が描かれており、それで外積の角運動量ベクトル Lを表している。丸印の中心にある点は、そこにあるベクトルが紙面から読者に向かう方向を持つことを表している[3]。さらに詳しい図の説明を図の下に与えた。

(図4.4)【角運動量の図】
以下は図4.4に描かれている内容の詳しい説明である。

【(図4.4)角運動量の図の説明】

図にはベクトルを表す矢印付きの二つの線分が同じ始点から、一つは水平に、一つは斜め右上に向かって描かれている。二つのベクトルを二辺とする平行四辺形ができるように、二つのベクトルの先端から平行四辺形の他の二辺が点線で描かれている。二つのベクトルが共有する始点には中心に点がうたれた丸しるしが描かれている。丸印の中心にある点は、そこにあるベクトルが紙面に垂直にこちらに向かっていることを意味している。二つのベクトルのうち水平なベクトルを表す矢印付き線分の下にはそのベクトルを表す文字r (t)が記され、右上方に向かうもう一方のベクトルの左横にはそのベクトルを表す文字 p(t)が記されており、平行四辺形の始点の内側には二つのベクトルのなす角度を表す文字θが記されている。二つのベクトルの始点を始点とし、紙面に垂直にこちら側を向く角運動量ベクトルを表す丸マークの下に文字 L(t)が記されている。

 角運動量という言葉を使って次の重要なことが理解できる:

外積の定義から、質点の位置r(t) と運動量p(t)すなわち速度v(t)は必ず L(t)に垂直である。したがって、もし物体が一つの決まった平面上を運動し、物体のr (t)p(t )がいつもその平面上にあれば、角運動量はその平面に垂直な方向をいつも向いている。反対に、もし角運動量がいつも決まった方向を向いていれば、質点の位置と速度はそれに垂直な平面内にいつもあり、したがって物体はその平面上でのみ運動する。

 「いつも一つの方向を向く角運動量」を持つ典型的な運動は「中心力」と呼ばれる力が働く系で起こる。実際に、角運動量という言葉は使わなかったが、「§3 等速円運動」では張力という中心力によって角運動量が常に一つの方向を向き、その結果として質点の運動が一つの平面に限られる性質を使って等速円運動を学んだ。ここではなぜ「中心力」であれば角運動量がいつも一つの方向を向き、その結果平面運動が実現するかを説明する。

【中心力を持つ物理系】

 質点に働く力Fの大きさも方向も質点の位置によって変わるが、その方向が常に特定の点を向いているとき、その力は「中心力」であるという。ここでは中心力が働く質点の運動を考える。
 いまFが中心力であるとして、それが向く特定の点を座標系の原点とし、Fの大きさは原点からの距離 rによって決まるとする。力の方向は質点と原点を結ぶ線上にあるから、直交座標系における質点の位置を(x,y,z) とした質点の位置ベクトル

<4-90> (4.6.3) r=i x+jy+kz

を使ってその力を

<4-91> (4.6.4) F(r)= erf(r)

と書くことができる。ここでerは原点から質点がある位置に向いた長さが1のベクトル、すなわち r方向の「単位ベクトル」であり、

<4-92> (4.6.5) er= 1rr=rr

によって与えられる。もしerの長さが1であるとわからなければ、以下の演習をおこなうとよい。解は与えない:

【演習】 erの内積 <4-93>(er er)を計算することによって erの長さが1であることを示せ。

 直交座標で表した質点の位置座標を極座標(r,θ, φ)を使って表わしたとき、それらは互いに

<4-94> (4.6.6)  x=rsinθcosφ y=rsinθsinφ z=rcosθ,    r=x2 +y2+z2 θ=tan-1x 2+y2z φ=tan-1yx

によって関係している((4.1.10)式と(4.1.11)式)。
 複雑な軌跡を描く質点の平面運動を、質点が非常に短い時間に行う小さな直線運動の連続と考えることができる。荒っぽく聞こえるかもしれないが、決してそんなことはなく、この考え方がニュートンを微分の発見に導いたのである。同じように、どのような空間運動であっても、非常に短い時間を考えれば質点は一つの平面上を小さな直線運動を行っており、複雑な空間運動はその平面が短い時間で次々と変わる運動であると考えることができる。このことが平面の場合にはなかった重要な概念を生み出す。
 もし力が「中心力」なら、(4.6.4)式のようにFはいつも原点と質点を結ぶrの方向を向いているために、それと同じ方向を持つベクトルrFの外積(ベクトル積))は必ず 0となる。すなわち

<4-95> (4.6.7) r×F (r)=0

である。当たり前のことのように思えるが、これが運動方程式

<4-96> (4.6.8) md2r dt2=F

と結びつくと、とても重要な結論が出てくる。議論をわかり易くするために、d rdt=vを使って運動方程式を

<4-97> (4.6.9) mdv dt=F

と書いておく。
 もしFが「中心力」であれば、rとこの式の両辺との外積を作れば、(4.6.7)式より

<4-98> (4.6.10) mr ×dvdt= r×F=0

である。左辺かっこの中の式は、恒等的に成り立つ等式

<4-99>  d(r×v )dt=drdt ×v+r× dvdt =v×v +r×dv dt=r ×dvdt

の最後の式と一致するので、(4.6.10)式左辺かっこの式 r×dvdt を上式の左辺 d(r×v) dtで置き換え、さらにv =pmを使えば、(4.6.10)式は

<4-100> (4.6.11)  mr×dv dt=d(r ×p)dt =dLdt =0

となる。ここで(r×p )は角運動量Lに等しいことを使った。このように時間微分が0であることから Lは時間が経っても変化しないことがわかる。 Lはベクトル量であるから Lが変わらないことには二つの意味がある。すなわち、 Lの大きさが時間によって変わらないのと同時に、その方向も時間によって変わらない。質点の位置と速度は必ず角運動量に垂直になるから、L の方向が変わらないということは、質点がいつも一つの平面内にあって、その面内で移動することを意味する。以上をまとめると

中心力の下で運動する質点(物体)が持つ角運動量は保存される。その結果、質点(物体)の位置と速度は常に角運動量に垂直な面上にある。

 自然界に現れる多くの力は中心力であるので、したがって自然を理解するためには、我々は質点(物体)の平面上における運動をよく理解しておかなけらばならない。

【道草】 2013年の11月に大西洋上で観測された金環皆既日食が日本でも大きな話題になった。皆既日食は太陽と地球の間に月が入り、それが太陽を完全に隠してしまうために起きる天体現象である。日本で観測されるのは珍しいかもしれないが、皆既日食自体はそれほど珍しい自然現象ではなく、地球上のどこかで毎年観測される。大学で「物理学」を学んだ人間は別なことに驚かないといけない。すなわち、ほぼ毎年のように変わらず皆既日食が起きるということは、地球が太陽の周りをまわる軌道の面と、月が地球の周りをまわる軌道の面が46億年前に太陽系が誕生して以来46億年間ずっと変わらずに同じ面であることを意味しているからである。もし二つの面が少しでも傾いていると、広い宇宙で小さな月と小さな太陽が一瞬でも重なるようなことは毎年どころか、滅多に起きることはないであろう。それが何十億年と変わら毎年起きるのである。これを今知った知識を使っていうと、何十億年と変わらず起きる皆既日食は地球と月が持つ角運動量が何十億年も変わらずに同じ方向を向いていることを意味している。したがってこれは、地球や月の運動を支配する力が中心力であることを表しているのである。実際にニュートンが発見した万有引力は中心力である。さらに最近の知識を使えば、我々の宇宙に拡がって存在する無数の星が円盤のように分布をしていることは、宇宙を作った力が中心力であったことを示す証拠でもある。

 いま考えている質点に働く力が(4.6.4)式の中心力であるとする。したがって、質点の角運動量は保存され運動は常に一つの平面上でおきる。その平面にあって質点に力を及ぼす力の源を原点とし、そこから平面上に適当にx軸、平面上でそれに垂直にy軸をとり、質点の位置を r(t)=ix (t)+jyt)と表す。そして、そこにある質点に働く力をF= iFx+jFy とする。改めてこの平面直交座標系で質点の運動方程式を書くと、

<4-101> (4.6.12) md2r dt2=F   →  m d2xdt2=F xmd2y dt2=Fy

である。
 ここで(4.1.4)式と(4.6.4)式を使ってxyの時間に関する二階微分を平面極座標を使って表す。 xyの時間に関する一階微係数は

<4-102> (4.6.13)  dxdt=drdtcosθ -rdtsinθ dydt=drdtsinθ+r dtcosθ

である。ここでdt=ωは角速度である。複雑ではあるが決して難しくない計算を注意深く行うと、二階微係数は

<4-103> (4.6.14)  d2xdt2 =d2r dt2-rω2 cosθ-2drdtω+ rdtsinθ d2ydt2= d2rdt 2-rω2sinθ+ 2drdtω+r dtcosθ

となる。したがって(4.6.12)式の二つの方程式を平面極座標を使って

<4-104>  md2rd t2-rω2cos θ-m2drdtω+ rdtsinθ=Fx md2r dt2-rω2 sinθ+m2drdt ω+rdtcosθ=F y

と書くことができる。そこで二つのことを行う。

  1. 第一の式にcosθをかけた式と、第二の式に sinθをかけた式を加える。
  2. 第一の式に(-sinθ)をかけた式と、第二の式にcosθをかけた式を加える。
これを実行すると次の二つの式が得られる:

<4-105> (4.6.15)  md2 rdt2-r ω2=Fxcosθ+ Fysinθm 2drdtω+rdt =-Fxsinθ+Fycos θ

この式の右辺に現れた量をそれぞれ

<4-106> (4.6.16)  Fxcosθ+F ysinθ=Fr - Fxsinθ+Fycosθ =Fθ

と書くことにする[4]。そうすると(4.6.15)式の二つの方程式は

<4-107> (4.6.17) md 2rdt2-rω 2=Fr

および

<4-108> (4.6.18) m2dr dtω+rdt=F θ

に帰着する。(4.6.16)式に帰ると、(4.6.4)式からFxFy

<4-109> (4.6.19)  Fx=xrf(r )=f(r)cosθ Fy=yrf(r)=f (r) sinθ

と書けるから(4.6.16)式は結局

<4-110> (4.6.20)  Fr=Fxcosθ+ Fysinθ=f (r)cos2θ+f(r) sin2θ=f( r)Fθ=-F xsinθ+Fycosθ =-f(r)cosθ sinθ+f(r)sinθcosθ =0

となる。よって、中心力の下で運動する質点の運動方程式を極座標を使って書いた(4.6.17)式と(4.6.18)式は

<4-111> (4.6.21) md 2rdt2-rω 2=f(r)

<4-112> (4.6.22) m2dr dtω+rdt=0

となる。
 話はこれで終わりではない。(4.6.22)式の左辺に注目する。いま r2ωという量を考え、公式

<4-113> df(t )g(t)dt= df(t)dtg(t)+ f(t)dg(t)dt

を使って、rθtの関数であることに注意しながら r2ωtで微分する。そうすると

<4-114> d( r2ω)dt=2rdr dtω+r2dt =r2dr dtω+rdt

となる。この最後の式のかっこ内は(4.6.22)式左辺のかっこの式と完全に一致するから、それを上の式の左辺を rで割った式で置き換えると、(4.6.22)式は

<4-115> (4.6.23) mrd( r2ω)dt=0

と書き換えられる。この式は時間の関数であるr2ωが一定であること、すなわちmは定数であるから、 mr2ωが運動の間は変化しない一定の量であることを表している。その定数をhと書けば、よって

<4-116> (4.6.24) mr2ω=h

である。後に実例で示すように、hは運動が起きる時の条件から決められる。この結論は中心力の大きさf(r)に関係なく導かれたので、質点に働く力が中心力でありさえすれば必ず成り立つ。
 (4.6.24)式はさらに重要な意味を持っている。その左辺の量が質点が持つ角運動量の大きさであり、しかも離れていても観測ができる量と関係しているのである。したがって、運動している物体の(4.6.24)式左辺の量が観測できてその値が一定であるとわかれば、その物体の運動を支配している力が観測できなくても、それが中心力であることがわかる。
 そのことを説明する。まず、中心力を受けて(x-y) 面上を運動する質点が持つ角運動量L= r×pをあらためて考える。 Lと、質点の r pが存在する(x- y)面は直交するからLz方向を向いているのでz 成分しか持たない。したがってL(x,y)成分は 0である( Lx=Ly=0)。唯一 0でないLz は、外積の定義<4-117>a ×b=i( aybz-azby )+j(azbx -axbz)+k (axby-ayb x)を使うと、

<4-118> (4.6.25) Lz=xpy-y px=mxdy dt-ydxdt

である。ここでp=md rdtであることを用いた。(4.6.6)式の極座標を使ってこのLzを表すと、 (x,y)の微分は(4.6.13)式で与えられるから、Lz

<4-119> (4.6.26)  Lz=mrcosθ drdtsinθ+rωcos θ-mrsinθdr dtcosθ-rωsinθ =mr2 ω

である。よって(4.6.24)式の左辺は唯一0でない角運動量の z成分であり、したがって運動方程式から得られた(4.6.24)式は角運動量が保存することを意味している。
 次に、(4.6.24)式の左辺、したがってこの運動の角運動量が観測できる量と結びつくことを説明する。いま考えている運動では θの他にも原点から質点までの距離 rが時間によって変るが、(4.5.24)式のもう一つの意味を理解するために、r は一定でθだけが時間によって変わる運動、すなわち質点が半径 rの円周上を運動する場合を考える。
 半径rの円の円周は( 2πr)であり、その面積はπr2 =(2π)r22である。円周と面積に現れる(2π)は質点が原点の周りに一周した時の角度(ラジアン)を表すから、したがって質点が円周上を(2 π)(ラジアン)のかわりにθ(ラジアン)だけ回転した時に質点が作る扇形の円弧の長さは(2π)θで置き換えたθrであり、その面積はθr22 (A)であることがわかる。
 今の場合は円運動なので半径rは一定であるが、質点が単位時間に動く角度 θは時とともに変わってもよいし、一定で質点はいつも同じ角度だけ動いていてもよい。もし質点が単位時間にいつも同じ角度だけ変わるなら、単位時間に質点が円弧上を移動した前後の 2点と中心を結んでできる扇形の面積の大きさAはいつも一定である。もし単位時間に質点が動く角度が時とともに変わればAも時とともに変わり、それを表すためにA(t)と書かなければならない。そのときの面積が変わる割合(“面積が変わる速さ”)dA(t) dtを「面積速度」という。上の円運動の場合の面積速度は、 rがいつも同じだから、

<4-120>  dAdt=dr 2θ2dt =r2 2dt =r22 ω

である。もう気がついたであろう。面積速度の2m(=定数)倍は (x-y)平面を運動する質点が持つ唯一 0でない角運動量のz成分Lzである。すなわち

<4-121> (4.6.27) Lz=2m dAdt

である。地球や他の天体のように軌道が円と異なる場合でも、議論は少し複雑になるが、全く同じ結論が導かれる。以上をまとめる。

      (1) 中心力の下で運動する質点(物体)の角運動量は保存される。
      (2) したがって、その運動は角運動量に垂直な平面上に限定される。
      (3) 運動する質点はそれと原点を結ぶ動径が平面上に掃く面積の割合を変えずに、軌道上を移動する。(「面積速度一定の法則」)
      (4) 一つの平面内を運動する質点の面積速度が一定なら、その質点が受ける力は中心力である。
 もし「面積速度」が一定なら次のようなことが起きるであろう。運動する質点が力をおよぼす源に近づくと rが小さくなる。その結果、面積速度を一定に保つように質点は角度の変化 ω=dt を大きくする。その結果、質点は軌道上を大きく(速く)動くことになる。一方、質点が力の源から遠ざかると rが大きくなる。そのときは、面積速度を一定に保つように質点の角度変化 ωが小さくなり、軌道上にある質点の動きは遅くなる。
 気をつけてカレンダーを調べると、「秋分の日」から「春分の日」までの日数(すなわち冬の長さ)は、「春分の日」から「秋分の日」までの日数(すなわち夏の長さ)よりわずかに短いことに気がつくはずである。詳しい説明は省くが、これは「面積速度一定の法則」に関係しており、冬に地球が太陽に接近し、夏になると地球は太陽から遠ざかることを意味している。同時にこのことは地球が太陽からの万有引力でその周りを軌道運動している結果であり、万有引力が中心力である結果である。なぜ地球が太陽に近い冬が寒く、太陽から遠い夏が暑いのかを考えると地球のことが少しわかるであろう。
 このように、天体の運動が季節や日照時間を通じて人間の生活に密接に関係するため、はるか数千年も昔から人々は天体の運行を注意深く観測し、その規則性を記録していた。それが科学として結実したのは中世の天文学者ティコ・ブラーエが残した膨大な天体の観測記録を若い共同研究者であったケプラーが分析し、それを基に以下の「ケプラーの三法則」を世にあらわしたときである:
  1. 【第1法則(楕円軌道の法則)】惑星は、太陽をひとつの焦点とする楕円軌道上を動く。
  2. 【第2法則(面積速度一定の法則)】惑星と太陽を結ぶ線分が単位時間に描く面積は一定である(面積速度一定)。
  3. 【第3法則(調和の法則)】惑星が軌道を一周する時間(公転周期)の2乗は楕円軌道の長半径の3乗に比例する。
「ケプラーの三法則」はニュートンが万有引力の法則を導く基となった。特に「第二法則(面積速度一定の法則)」は天体に働く力が中心力であることをニュートンに気がつかせ、彼を万有引力の発見に導いた。
 次節では自然界に存在する最も重要な中心力である万有引力による運動ついて学ぶ。


§7 距離の二乗に反比例する中心力 

 「距離の二乗に反比例する中心力」にある「距離の二乗」とは質点に働く力の源から質点までの距離の二乗の意味であり、「距離の二乗に反比例する力」とは、 その距離をrとすれば「1 r2に比例する力」という意味である。考えている力は中心力であるから(4.3.7)式の形を持ち、 Kを比例定数とすれば、それを

<4-122> (4.7.1) F=r rKr2

と書くことができる。中心力を受ける質点は平面内で運動することをすでに知っているので、その平面を (x-y)面とし、その面上における質点の位置ベクトルを r=i x+jyとする。位置ベクトルの両辺を rで割った rr=ixr +jyrは力の源から質点に向かう単位ベクトルである。また、Kの正負によって、

  1. もしKが正なら Fの方向は原点(力の源)から外に向かうので、 Fは質点を原点から遠ざけようとする「斥力」である。

  2. もしKが負なら Fの方向は原点(力の源)に向かうので、F は質点を原点に引きつけようとする「引力」である。
 前節で理解したように、中心力を受けて運動する物体の運動は直交座標よりも極座標を使った方が扱いやすい。また中心力が支配する系には重要な特徴があり極座標を使うとそれが非常によく理解できることもある。そこで(4.1.4)式の平面極座標を(4.7.1)式に用いれば、 rr= icosθ+jsinθなので、力の成分は

<4-123> (4.7.2)   Fx=Kcosθr 2Fy=K sinθr2

で与えられる。したがって(Fr, Fθ)は(4.6.20)式から

<4-124> (4.7.3)   Fr=Fxcosθ+ Fysinθ= Kcos2θr2+K sin2θr2 =Kr2 Fθ=-Fxsinθ +Fycosθ =-Kcosθr2sinθ +Ksinθr2cosθ =0

となる。よって極座標で表した運動方程式((4.6.21)式と(4.6.22)式)は

<4-125> (4.7.4) m d2rdt2-r ω2=Kr2

<4-126> (4.7.5) m2dr dtω+rdt=0

となって、とても簡単な式になる。上の式でωdt は、もちろん角速度である。(4.7.5)式((4.6.22)式)は力が中心力であれば力の強さに関係なく成り立つ式であった。(4.6.22)式の下で示したように、それは中心力の下で運動する系の「角運動量保存」を表わす式でもあり、この系の面積速度が時間によらないことを表す式でもあった。「距離の二乗に反比例する中心力」の特徴は、したがって、すべて(4.7.4)式に反映される。
 数学的には、(4.7.4)式と(4.7.5)式は時間の関数としてr(t) θ(t)を決める連立微分方程式である。 ω=hmr2 が(4.6.22)式(あるいは(4.7.5)式)の括弧内を書き換えた(4.6.24)式 mr2ω=h から得られる道筋はここでもまったく同じである。ここでhは時間によって変わらない定数であった。この関係式を(4.7.4)式に代入すると、(4.7.4)式は

<4-127> (4.7.6) mdvdt- h2mr3-K r2=0

に帰着する。ここでdrdt=vであり、 d2rd t2=dvdtである。さらにこの式を少しだけ書き換えると

<4-128> (4.7.7) mdvdt= h2mr3+Kr 2

となり、一般的な中心力に対して慣性力の概念を得た(4.3.11)式の具体的な場合となる。原点からの距離に関するこの方程式が§2.1でニュートンの運動三法則を学んだときに出てきた直線上を運動する質量mの質点の運動方程式((2.1.3)式)と似ていることに気がつくであろう。ただし「同じ」とせずに「似ている」としたのは(4.7.7)式と直線運動の(2.1.3)式には重要な違いがあるからである。すなわち(2.1.3)式が表す直線運動をする質点は、その直線をx軸とすれば xは正でも負でもよかったが、(4.7.7)式の rは原点から質点までの距離を表しているので必ず正でなければならない。この違いは小さなことのように思えるかもしれないが、対応する方程式の解に大きな違いを生じる。したがって(4.7.7)式と(2.1.3)式は「似ている」がまったく違った運動を表す方程式なのである。その違いの一つは(4.7.7)式右辺の第二項目の存在もある。この項は、(4.3.11)式の下で説明したように、平面運動をする質点の加速度から生じた「遠心力」と呼ばれる慣性力であったことをもう一度思い出しておこう。
 r(t)を定める微分方程式の(4.7.7)式を次のようにして解くことができる。(4.7.7)式の両辺にdrdt=v をかけて、全ての項を左辺にまとめると

<4-129> (4.7.8) mvdvdt- h2mr3v-K r2v=0

となる。数学的には(4.5.5)式に使ったと同じやり方で得る関係式

<4-130>  dm 2v2dt =mvdvdt

を使い、さらに

<4-131>  dh22mr 2dt=d h22mr2 drdrdt= -h2mr3v

および

<4-132> d -Krdt= d-Kr drdrdt= Kr2v

の関係に気がつけば、(4.7.8)式は

<4-133> (4.7.9) ddt m2v2+h22m r2+Kr=0

と書き換えられる。

【道草】

(4.7.9)式を得るのに、その上に「…の関係に気がつけば」とあり、またその他でも「…の関係に気がつけば」という言い方が時々現れる。しかしこのような複雑な関係式にただちに「気がつく」普通の人は誰もいない。「…の関係に気がつけば」は決まり文句であって、「何度も同じことに出合い、何度も同じことを繰り返しておけば、次に似たようなことがあったときに同じことを行うと、うまく行くかもしれない。そのために似たようなことを思い出せば…」という意味である。もし今気がつかなかったとしても、それで自信を失うことはない。大切なことは、どうしたかを記憶することではなく、似たようなことがあったと思い出せるほどに何度も同じことを繰り返す根気である。

 (4.7.9)式は括弧内の量が時間によって変化しないことを表している。そこで、時間によって変わらないその定数を Eと書けば、(4.7.9)式のかっこのなかは

<4-134> (4.7.10) m2v2 +h22mr2+ Kr=E

である。

 この左辺第三項目は考えている系の力((4.7.1)式)から現れた項である。いま、この項を与える rの関数を

<4-135> (4.7.11) Kr=V(r )

と書いて、その勾配とよばれるベクトルを計算する。「物理数学」の『§3.3.4 ベクトル演算子を含むいくつかの公式』に与えた勾配の定義に従うと V(r)の勾配は

<4-136> V(r)=i V(r)x +jV(r) y+kV(r) z

で与えられる。今の場合は運動が(x-y)面で起きるため、V(r)は変数 zを持たないので最後のz 微分の項は0である。 r=x2+y2であるから、

<4-137>  V(r)x= dV(r)drr x=-K r22x2x2 +y2 =-Kr2xr

であり、同様にyに関する微分は<4-138> V(r)y =-Kr2yr であるから、よって

<4-139> V(r)=- ixr+j yrKr2

を得る。この括弧内は(x-y)面にある質点の位置を表すrの単位ベクトル<4-140> er =rrであるから、よって V(r)の勾配は

<4-141> (4.7.12) V(r)=- erKr2

であり、(4.7.1)式からこれは-Fに等しい。すなわち、いま考えている系を支配する力Fと(4.7.11)式のV(r)

<4-142> (4.7.13) F=-V (r)

で関係している。言い換えると、もしV(r)が与えられれば、その勾配のマイナスから系の運動を支配する力が与えられる[5]。このV( r)が力Fを受けて空間運動をする物理系の「位置エネルギー(ポテンシャル・エネルギー)」である。すなわち(4.7.10)式左辺の三項目(すなわち(4.7.11)式)は距離の二乗に反比例する力の位置エネルギーである。
 同様にして、遠心力h2m r3に対しても勾配がその遠心力 h2mr3 になるような“位置エネルギー”を与えることもでき、それが(4.7.10)式の左辺第二項目である。実際にこの項の勾配のマイナスが遠心力(慣性力)を与えることは(4.7.9)式を導くときに示した。遠心力に対する位置エネルギーを「遠心力ポテンシャル・エネルギー」ということがある。
 すでに気がついているであろうが、(4.7.10)式が力の中心からの距離の二乗に反比例する力を受けて空間を運動する質点の「力学的エネルギー保存則」である。直線運動の場合と大きく違うのは、質点に働く力に対するポテンシャル・エネルギーに加えて慣性力である遠心力に対するポテンシャル・エネルギーが加わっていることと、動径変数であるrが正の値に限られることである。
 ここで注意すべきとても重要なことがある:

【注意】(4.7.11)式左辺の第一項目と第二項目は正であるが、第三項目はKの符号によって正にも負にもなる。したがって、Kの符号が正なら定数 Eは正の値以外持ち得ないが、もし Kの符号が負のときにはその大きさによってEは正にも負にもなる。この節の初めに注意したように、Kの符号は質点に働く力が引力 (K<0)であるか斥力 (K>0)であるかに関係していた。すなわち、もし力が斥力ならEは必ず正となるが、もし力が引力であれば Eは負にもなり得る。後に明らかになるが、これは(4.7.1)式の力を受けて運動する質点が空間に軌道を描いて元の位置に戻って来る条件に関係しているのでとても重要なことである。

 (4.7.10)式をvについて解くと

<4-143> (4.7.14) v=±2m E-h22mr2- Kr

を得る。v=drdtであったから、この式は rについての微分方程式を与えていることを憶えておこう。あとでこのことを使って、質点が中心力の下でどのような軌道を描いて運動するかを考えることにする。vは実数であるから、右辺の平方根の中は正でなければならない。これはそのなかに入っているr が取り得る値に条件をつける。すなわちr

<4-144> (4.7.15) Eh2 2mr2+Kr

を満足しなければならない。この両辺にr2をかけて適当に整理すると不等式

<4-145> (4.7.16) Er2-Kr- h22m0

を得る。これはrに関する二次不等式であるから、この解が存在する条件より正の実数 rは限られた領域でのみ存在が許される。これは考えている中心力の下で運動する質点が存在する領域が制限されることを意味している。

【道草】 (4.7.16)式の条件はニュートンの運動方程式にしたがって物理系の位置や速度が決まる古典物理学の世界のことである。ニュートンの運動方程式が適用出来ない原子や分子の世界、あるいは、極低温の世界では物理系の状態が量子力学にしたがって決まり、そこでは(4.7.16)式の条件を破る領域にも物理系が存在する「トンネル効果」と呼ばれる現象が起こる。これが二十世紀以降に発展した現代物理学が発見したことで、その「トンネル効果」を利用したのが半導体を使った制御回路の開発や原子力発電であった。

 (4.7.16)式の左辺はrの二次関数であるが、(4.7.14)式の上で注意したように Kが正(すなわち斥力)であれば Eは必ず正になり、したがって左辺の二次関数は<4-146> r=K2Eで極小値 <4-147>mK2 +h2E2mEを持つ、上に開いた放物線である。しかしKが負(すなわち引力)であれば Eは正にも負にもなり得るので、その正負によって(4.7.16)式左辺の二次関数は下または上に開いた放物線となる。ここでは最も重要な場合、すなわちKの符号が負(引力)で、かつEが負(E =-|E|<0)となる場合を考える。 Eが負であるから、(4.7.16)式左辺の rの二次式は下に開いた放物線(ドンブリを伏せた形)になる。また(4.7.16)式左辺の二次式の判別式

<4-148> D=K2-2 h2Em

は必ず正になる。したがって下に開いた放物線は2つの rの値で(4.7.16)式の左辺を0 とし、(4.7.16)式の不等式はその2点の間にある値を持つ rに対して満足される。(4.7.16)式左辺を 0とする二つのrr1 r2(r1)とすれば、根の公式を使ってそれらは

<4-149> (4.7.17)   r1=12E K-K2-2 h2Em r2=12E K+K2-2h2E m

である。したがって質点(物体)は限られた平面内の領域r1 rr2で運動する。
 もし質点の原点からの距離rが必要なら、それは(4.7.14)式を使って求められる。すなわち、(4.7.14)式の下で注意したようにv=drdt であるから、(4.7.14)式はrの微分方程式

<4-150> (4.7.18) drdt=±2 mE-h22mr2 -Kr

を与えるので、これを解けばrが求められる。
 もしθ(t)が必要なら、(4.6.26)式、すなわち

<4-151> (4.7.19) mr2ω=h

に(4.7.18)式を解いて得たr(t)ω=(t)dt を代入すると、θ(t)についての微分方程式が得られるので、それを解くことによって求められる。
 もし質点(物体)が描く軌道を知りたければ、r(t)θ(t)の二つの式から tを消去してrθの関係を求めれば良い。途中の積分が数学的にやっかいだが、やってやれないことはない。ここでは結論だけを与えておく。(4.7.18)式と(4.7.19)式から得たr( t)θ(t)から tを消去した式は、ていねいに計算すれば最終的に

<4-152> (4.7.20) r=p1-e sin(θ-θ0), p=-h 2mKe=1+ 2Eh2mK2

を与える。ここで、rを与える式の右辺分子にある θ0は時刻t=0で運動を始める質点の動径がx軸となす角である。
 力の源(原点)から質点までの距離を表すrθの関数として表す(4.7.20)式は奇妙な形をしているが、数学では良く知られた式であり、「離心率」とよばれるeの値によって、それが表す曲線の形が決まっている。たとえば、e=0のときは簡単にわかるように、軌道は半径が pの円である。今はE <0であると考えているから0<e 1であり、このときの軌道は楕円であることがわかっている。 Eが負である今の場合と違うが、Eが正の場合は e1であり、もし e=1であれば軌道は閉じずに放物線となる。
 K<0でかつ E<0の場合は惑星や彗星の様な天体の軌道を想像させるが、実際に次節で学ぶ天体間に働く万有引力は(4.7.1)式型の引力(K<0)である。

§8 万有引力 

 どのような二つの物体もそれらが質量を持つ限り、質量の積に比例し、物体間の距離の二乗に反比例する大きさの力で互いを引き合う。この引力を「万有引力」という[6]。万有引力は、天体の観測からケプラーが発見した三法則(「楕円軌道の法則」、「面積速度一定の法則」、「調和の法則」を説明する力としてニュートンによって提唱された。空間内に適当にとった原点から質量 Mの物体の位置ベクトルを測り、それを r1、質量 mの物体の位置ベクトルをr 2とする。このとき、Mmを引く万有引力を F21mMを引く万有引力を F12とすると、それらは

<4-153> (4.8.1)   F21=- r2-r 1|r2- r1|GmM |r2-r 1|2 F12=-r 1-r2| r1-r2 |GmM|r 1-r2|2

で与えられる。Gは万有引力定数とよばれる定数で、国際科学会議の科学技術データ委員会によってその値がG=6.67384×10 -11[m3s -2kg-1] と与えられている。r 1-r2=-( r2-r 1)かつ|r 1-r2|= |r2-r 1|であるから、(4.8.1)式の力は F21=-F12 であり、2物体の間に働く万有引力は作用・反作用の法則にしたがう力である。万有引力は導かれたものではなく、数多くの観測データを説明する力として考え出されたものである。質量を持つ物体の間になぜこのような力が働くかはこの半世紀の間にわかったが、大学で学ぶ物理学の範囲を越えるので、ここでそれを説明することはしない。
 万有引力で引き合う質量m Mを持つ二つの物体はどのような物体であってもよいが、もしそれらの質量が異なるときは、軽い物体の質量が mで、重い物体の質量がM であるとしておこう。その方が頭に状況を描きやすいからである。たとえば地球と太陽の場合は mが地球でMが太陽であり、月と地球の場合は mが月でMが地球である。ここでは、そのような質量を持つ二つの天体が万有引力で力を及ぼし合っているとき、ニュートンの運動方程式を解いて、ケプーラーが予言した法則が全て成り立つことを確かめる。
 二つの天体に対するニュートンの運動方程式は

<4-154> (4.8.2)  md2r 2dt2=F 21Md2 r1dt2 =F12

である。座標原点をどこに選んでも良いので、今は質量が大きなMから質量が小さな mが力を受けて運動する場合 (m<M)であるとして、Mの位置を原点、すなわちr1 =0と選ぶことにする。あらためてF 21Fと書き、 r2rと書けば、|r|=rであるから、(4.8.1)式の最初の式と(4.8.2)式の最初の式から、mの運動は、

<4-155> md2r dt2=-e rGmMr2

によって決まる。この式は(4.7.1)式でK=-GMmとした式であるから、この置き換えでその後の議論がすべて成り立つ。したがって、前の説にある(4.7.10)式から、この系は保存量

<4-156> (4.8.3) E=m2 drdt2+ h22mr2- GmMr

を持つことが分かる。mが惑星や衛星のように重い星の周りを周回運動をする考えると、前節で学んだように、もしE<0であればそれが実現する。具体的にどのような軌道が実現するかはEの値によって決まる。 Eは一度与えられたら変わらないので、考えている天体が宇宙に現れたときにその天体に与えられたE(<0)の値によって決まってしまう。今その天体が周回運動をするようにEが与えられたとする。天体の軌道は(4.7.20)式で0e1の場合であり、 eの値によって軌道は楕円 (0<e1)または円 (e=0)になる。
 0e1のときに、確かに軌道が閉じた楕円または円になることを確かめるため、(4.7.20)式でK=-GMmと置いた式、すなわち

<4-157> (4.8.4) r=p1+e cosθ ,  ここで  p=h2G m2Me=1 -2|E|h2G2 m3M2

から出発して、軌道をはっきりとした形で調べる。ただし簡単のため、結論に影響しない二つのことを行った。一つは(4.7.20)式で運動の開始位置を表す角度θ0 π2としたことで、もう一つはE 0であることを明確に表すためにE=-| E|と書いたことである。
 (4.8.4)式の両辺に分母の(1+ecosθ )をかけ、rcosθ=xと直交座標の変数に置き換えて式を整理すると、(r=p- ex)を得る。この両辺を二乗し、r2 =x2+y2とし、さらに

<4-158> (4.8.5)   p1-e2= GmM2|E|=a p1-e2=hm |E|=bep e2-1=x0

として少し変形すると、最終的に結局(4.8.4)式を

<4-159> (4.8.6) (x-x 0)2a2+ y2b2=1

と書き換えることができる。(4.8.5)式から b/a=1- e2であり、0 e1からabなので、(4.8.6)式は長径ax 軸上にあり、短径b y軸上にある楕円を表す。
 中心力の下では力の詳細に関わらず面積速度が一定であることをすでに示したので、これでケプラーの三法則のうち「楕円軌道の法則」と「面積速度一定の法則」が万有引力を受け運動する天体に対して成り立つことがわかった。それでは最後の第三法則「調和の法則(公転周期の 2乗は軌道の長半径の3 乗に比例する)」は成立するのであろうか。以下でそれを調べる。
 (4.8.5)式で与えられる天体の楕円軌道が描く楕円の面積Aは、長径 aと短径bの楕円の面積を与える公式から

<4-160> (4.8.7) A=πab

である。一方、中心力の下で天体と中心を結ぶ動径が単位時間に掃く面積(面積速度)<4-161> dAdt=12r 2dtは一定であった。また(4.6.27)式から <4-162>mr2 dt=hであったから、面積速度は <4-163>dAdt= h2mである。今考えている天体が軌道を一周する間に動径はこの楕円の面積を一回掃くから、それにかかる時間が天体の公転周期Tを与えることになる。よって、(4.8.7)式が与える面積を動径が掃く時間、すなわち周期は

<4-164> (4.8.8) T=A(h /2m)=2πmabh

となる。一方、(4.8.5)式が与えるa bの式から|E|を消去して

<4-165> (4.8.9) b2=2 h2Gm2Ma

を得るから、(4.8.8)式のTを二乗してそれから(4.8.9)式を使って b2を消去すると

<4-166> (4.8.10)  T2=8 π2GMa3

を得る。(4.8.10)式は物体の公転周期Tが長径 a3乗に比例すること、すなわちケプラーの第三法則を表している。これによって、天体が万有引力の下で力を及ぼし合っていると考えると、ティコ・ブラーエの膨大な観測データを基にケプラーが発見した三つの法則はすべて成り立つことが分かった[7]。このように

ニュートンの運動法則を基に距離の二乗に反比例する万有引力で引き合う天体の軌道運動を求めると、ケプラーの三法則すべてと一致する結果が得られる。

 この節の最後に、ケプラーの三法則のうち「第2法則(面積速度一定の法則)」は運動する物体の「角運動量の保存」と同じ意味を持ち、運動を支配する力が中心力でありさえすれば、その詳細にかかわらず必ず成り立つ法則であり、「第1法則(楕円軌道の法則)」と「第3法則(調和の法則)」はその中心力が力の源からの距離の二乗に反比例しているときにのみ成り立つ法則であることをもう一度強調しておく。


§9 地球上の物体に働く力 

 地球も我々人間も質量を持つ物体であるからそれらの間に万有引力が働く。したがって地上にあるどのような物体も必ず地球からの万有引力の影響を受けており、その運動を考える時にはそれに働く万有引力をいつも考えなければいけない。しかし都合が良いことに、地球のような大きく重い物体がその表面や外部にある小さく軽い物体に及ぼす万有引力を簡単な力で置き換えてよいことが証明できる。その結論は次のようになる。

地球の質量をM、地表付近にある小さく軽い物体の質量を m、地球を球と考えてその半径を Rとすれば、mが地球から受ける万有引力は、方向が地球の中心を向いて(鉛直下向きに)、大きさF

<4-167> (4.9.1) F=GMmR2

で与えられる。

このなかにある万有引力定数G、地球の質量 M、地球の半径Rは全てわかっている定数であり、それらの値は

<4-168> (4.9.2)  G=6.67×10-11 [m3s-2 kg-1] M=5.97×1024[kg] R=6.38×106 [m]

であるから[8]、(4.9.1)式中のmを除く定数をまとめて gと書けば、これらの数値は g

<4-169> (4.9.3) g=GMR 2=9.8[m /s2]

の値を与える。改めてもう一度(4.9.1)式を書くと、地球上の質量mを持つ物体に働く地球からの万有引力は方向が常に鉛直下向きで、大きさも一定の

<4-170> (4.9.4) F=mg

である。これは高校の物理でお馴染みの式であるが、忘れていけないのは、物体があくまでも地表近くにある場合であって、もし物体が飛行機やロケットに乗って地上から非常に高い位置に運ばれた場合には、それに働く地球の万有引力はこうはならないことである。物体の位置が地上近くであるかどうかは、地表から物体までの距離hが地球半径 Rに比べ十分小さいと判断できるかどうか、すなわち (h/R)1と判断できるかどうかによる。もしそう判断できれば、(4.9.4)式の力を用いて得た§2.2の自由落下、§4.2の投げ上げによる放物運動、§4.3の単振子の運動に対する結果は現実に生じる運動の観測結果と一致するであろう。(4.9.4)式のような一定の力が働く物体の運動を調べるときに必要なことはここまで学んだ中に全てあるので、今後必要になったらそれらを参照してほしい。


[1] ここでは糸を引く力によって地球上で回転運動を行っていると考えているが、実際には物体に鉛直下向きの重力も働いている。しかし、いまはその重力よりはるかに強い張力を働かせて物体を平面内に回転させると考えているので、重力の影響は無視している。もし重力の影響が無視できなくなれば、物体は平面から僅かに鉛直下向きにずれて回転し、その結果、糸の 回転中心を頂点とする 円錐面になる。

[2] 180°をラジアンで表わせばπ= 3.141592であるから、たとえば5は<4-171>π×5180 0.087310 は<4-172>π×10 1800.1745である。一方、 sin5sin10 の値は<4-173>sin5 0.0872と<4-174> sin100.1736である。このことからどの程度の角度を小さいとみなしてよいか、状況に応じて自分で判断してほしい。

[3] 二つのベクトルabの外積 a×b=cにあるabで作る平面を考えれば、それらの外積である c abに垂直であるため、三つのベクトルは一つの平面におさまらない。しかし、これら三つのベクトルを紙面上で表現する方法がある。すなわち、 a bをそれらの始点を同じ点に置いて紙面上に描き、紙面に垂直な c abの始点に描いた○印で表す。cが紙面からこちら側に向いているときは丸印の中心に点を打ち、紙面の裏側に向いているときは丸印の中に×印を描くと束する。

[4] (4.6.15)式の右辺をFrFθと書く理由は説明しないが、明確な理由があるとだけ述べておく。

[5] 実は話は反対で、そもそも自然界に存在するのはV (r)であって、「力」は古典物理学で扱うような日常的なできごとや、天体のように巨視的な物理系に (-V)という形で現れる量についた名前である。

[6] 理由は説明しないが、質量を持つ物体間に働く「万有引力」と、時空の性質を表す「重力」という言葉は区別して使わないといけない。

[7] ケプラーの法則(1619年発見)はその後のニュートンの運動方程式(1687年)を使って初めて厳密に証明されたので、ケプラーが証明したのではないことを付け加えておく。

[8] 地球は正確な球でないので半径を厳密に定義することはできない。ここでの半径は平均値であると考えておく。